第十六幕
場所は天竺高校。 新館の3階、北側の角教室。 「ふ、ふふふふふ・・・・・」 教卓の目の前の机で怪しげな笑いをもらし、周りを泣きそうなほど怯えさせているのはご存知 影の生徒会長(笑)、八戒である。 「ふふふふふ・・・ふふふふふ・・・」 朝、職員室から帰ってきて以来ずっとこの調子で笑いつづけている八戒にクラスメート一同、 声をかけることもできない。 「おいっ、悟浄!!何とかしろよっ!!」 ついに生徒の一人が悟浄に泣きついた。 「はぁ!?何で俺がっ!?」 「お前、友達だろうが!!」 「だからって・・・っ!?」 悟浄が振り向けばクラスメート一同の祈りにも似た視線が・・・・。 『お前が何とかしろっっ!!!』 目は口ほどにものを言うというが本気で目がしゃべり出しそうだった。 「・・・・・・・・・・はぁぁぁ」 ことさら深いため息をついた悟浄は、人身御供になる奴の気持ちはこんなものかもしれないな、 なんてことを考えながら八戒に近づいていったのだった。 「おい・・・・八戒・・・」 「何ですか、悟浄?」 にこやかに笑んだまま八戒が振り向いた。 笑顔がこれほど”怖い”人間もそうは居ないだろう。 「いや〜その〜何か機嫌がよさそうだからなんかあったのかな〜なんて・・・・」 「ええ、ありました♪受かったんです!」 「・・・・何に?」 「いやですね〜この時期で受かったといえば大学しかないじゃありませんか」 「・・・・・・・・・オレたちって確か2年だったよな・・・?」 「そうですよ」 ・・・・・・3年とばして大学に行くんだろうか・・・? いや、でも待て。 日本じゃ無理だろう。それは。 ・・・・・だが、相手は八戒だ。 万が一ということもある。 「お前、大学に行くわけ?」 「誰が僕が受かったて言いました?」 「・・・・・言ってません」 「受かったのは三蔵ですよ、さ・ん・ぞ・う」 「・・・・三蔵?」 「そうです!!三蔵が無事にめでたく大学に受かったんです!!!」 八戒の笑みが全開になる。 悟空の前以外では滅多にみせることのない笑顔だ。 だが、一筋縄ではいかない八戒のこと。 ただ三蔵が大学に受かったというだけでここまで喜ぶはずがない。 何か裏がある・・・・・悟浄の勘が告げていた。 「どうしてそんなに喜ばしいわけ?あいつが受かったのが?」 「当然じゃありませんか!これで邪魔者が一人消えるわけですからね♪」 何の・・・と問うのは愚問である。 「春からは僕と悟空先生のらぶらぶいちゃいちゃな生活がはじまるんです♪」 「・・・・・・・・・・」 どこか遠くを見つめてふたたびふくみ笑いをはじめる八戒にこれ以上悟浄はかける言葉を 持たなかった。 ぞくっ。 突然に背筋を襲った悪寒に三蔵は眉間に皺をよせた。 「どうしたんだ、三蔵?」 「・・・・いや」 廊下を一緒に歩いていて急に足を止めた三蔵を悟空が不思議そうに見上げた。 「そう?ま、いいけど。それでさ、三蔵・・・」 「行かん」 「ぶーなんでだよ〜っ!!」 「面倒だ」 「そう言わないでさ〜、ひな祭りだし・・・三蔵の合格祝いとかもしたいし・・・それに・・・天ちゃんと 八戒がごちそう作ってくれるって言ってたし・・・」 最後の”ごちそう”が一番悟空にとって比重が重いことは間違いない。 ただ今、悟空は三蔵をひな祭りのパーティに勧誘している最中なのだ。 男所帯の悟空の家で何故にひな祭り?という気がしないでもないが、要は皆騒いで飲めれば 何でもいい・・・・というのが本音である。 そして、すでに八戒と悟浄、ナタクたちにはOKをもらっている。 ついでに通りがかりにその話を聞いていた清一色も参加するこになった。 「とにかく俺は行かん」 「・・・どうしても?」 「ああ」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 立ち止まった悟空がじ〜〜と三蔵を見上げてくる。 その金色の瞳にはそれはそれは悲しそうで・・・・・・・・・。 「・・・・・どうしても、ダメ・・・・?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・行けばいいんだろう、行けば」 三蔵は負けた。 「っ!!やったぁっ!!んじゃっ明日の十時になっ!!」 「あ。おいっ!!」 それだけ告げて走り去ってしまった悟空にさすがの三蔵もあきれ果てる。 「・・・ったく、あの馬鹿猿が・・・」」 確信犯ではないだろうな・・・と思いつつ、そんな頭があるわけがないと自分を納得させ、それでも 悟空に甘い自分に舌打ちしたのだった。 「へへへ〜♪」 「悟空、ご機嫌ですね」 「うんっ!!だって今日はすっごいごちそう食べられるし・・・みんな来てくれるから!」 「そうですね〜」 天蓬はそのごちそうを作りながら悟空の嬉しそうな様子に自分まで嬉しくなってくるのだった。 「焔は部屋にいたし・・・金蝉はちょっと学校に行ってくるって言ってたけど時間までには帰って くるから・・・・そういえばケン兄ちゃんは?」 「あるだけじゃ足りないと言ってお酒の買出しに行きましたよ」 「ふ〜〜ん。紫鴛と是音は?」 「紫鴛は部屋に居ると思いますよ。是音は確か・・・・」 「お〜い、焼き具合はこれでいいか?」 直径1メートルはあるかと思われるケーキを片手に持ちキッチンへと入ってきたのは是音である。 「うっわ〜すっげー美味そう♪♪」 「”美味そう”じゃなくて美味いんだよ」 是音がのばされた悟空の手からケーキを死守しながら笑った。 「それよりも、お前のほうが準備できたのか?」 「・・・・え〜と・・・・・」 誤魔化すように悟空の目が宙をさまよう。 「・・・・・できてないんですね?」 「う・・・・・・・・・だって・・・・どの人形がどこに並ぶかわかんないんだもん・・・・」 「説明書が一緒に入ってませんでしたか?」 「・・・・・色々さわってたらどこかにいっちゃった」 「・・・・・・・仕方ありませんねぇ」 金蝉ならばここですでに4,5発悟空に教育的指導という名の拳骨をおとしているところだが そこは天蓬。 ため息をつきつつも笑顔を崩さず悟空に誰かに手伝ってもらうように言う。 「んじゃ、焔に手伝ってもらう!!」 「ええ、そうしてください」 「うんっ!!」 「・・・・あいつにできるのかねぇ・・・」 一人是音は心配するのだった。 「・・・というわけで焔、手伝ってvv」 「わかった。俺にまかせておけ」 悟空の頼みとあらば全て叶えてやりたい・・・と日ごろ思っている焔は即答して雛壇の用意され ている大広間へと足を運んだ。 「・・・・・・・・」 だが、そこの散乱した様子に焔はしばし言葉を失う。 「もう、わかんなくてさー、色々やってたらこんなになっちゃった・・・・・」 一応、反省はしているらしい。 「・・・・・大丈夫だ、まかせておけ」 それでも強がる焔は、おそらく三人官女の一つであろう首が転がっている様子に不安になる 気持ちを奮い立たせた。 「・・・とりあえず人形を全部組み立てよう」 「わかった!!」 かれこれ一時間後。 何とかひな壇としての見てくれをしてきた様子に焔は安堵の吐息をはき、悟空は満足そうに 頷いた。 「これで後は皆がくるの待つだけだな♪」 「・・・・そうだな」 できることならば悟空と二人だけで楽しみたいと思っていた焔は心にもない相槌をかえした。 赤い絨毯をひいたひな壇・・・・幽玄な光をはなつボンボリ・・・・・。 それらが焔を怪しげな思考へと引き込んでいく。 二人で甘酒をくみかわし・・・・・・酔いでほのかに色づいた悟空の頬をながめながら戯れに 興じ・・・・・・そして気づけば悟空は己の前に全てをさらけだして・・・・・・・・・・ 『ほむら・・・』 濡れた声は・・・・・ 「ほむらっ!!」 耳元に響いた大音声に焔は心臓が止まるほど驚いた。 「何、ぼ〜としてんだよ?」 「ああ、いや・・・・・なんでもない」 所詮は儚い夢だった・・・・・・。 「変なの〜あ、そうそう!!皆来たから迎えに行ってくるね〜」 とてとてと駆けていく姿にそっと焔はため息をつくのだった。 ・・・・・・道のりはまだ遠い。 「ナタク〜いらっしゃ〜いっっvv」 久しぶりに会った幼馴染みに悟空が飛びついた。 「相変わらず元気そうだな、悟空」 「ナタクもなっ!!」 「八戒、悟浄もいらっしゃいっ!!」 ナタクの背後にいた二人にも声をかける。 「お邪魔します、悟空先生。これ差し入れです」 「え・・・何!?」 八戒が差し出した紙袋からは悟空の鼻腔をくすぐるいい匂いが漂っていた。 「ひなあられとチョコレースです♪」 「うわ〜っvvサンキュッ八戒!!」 そして満面の笑みをプレゼント。 これで八戒の朝からの苦労は全て報われたというものである。 「そういえば・・・あの人は?」 八戒が笑顔の裏にひんやりした冷気を漂わせながら悟空に尋ねる。 「あの人?」 「ええ、名前を口にするのも汚らわしい・・・・・・」 「・・・・それは心外ですねぇ、八戒くん」 相変わらず顔色の悪い清一色が玄関に立っていた。 「別に誰もあなたのことだとは言っていませんよ」 「我もそのことが心外だとは言ってませんよ」 バチバチバチィィィッッ!!!! 「ん?皆、中に入らないのか?」 場の緊迫した雰囲気にも関わらず悟空のほのぼのした声が響く。 やはり鈍い。 「そういえば・・・三蔵センパイはどうしたわけ〜?来るって聞いてたけどなぁ・・・?」 「来たら悪いのか?」 「あっ三蔵♪」 悟浄の問いに殺気がこもった一言を返したのは当の三蔵。 その三蔵に悟空が嬉しそうに駆け寄り、腕をつかんだ。 「いらっしゃいっvv」 「・・・・ああ」 ここにいる誰よりも背が低く、幼く見える悟空はやはり教師には見えなかった。 「すっげーごちそうたくさんあるんだよっ!!」 皆が来る前に腹減って、腹減って思わず食べてしまうところだったと訴える。 「でしたら、早速そのごちそうをいただくことにしましょう♪」 そう言って八戒はさりげなく三蔵の手から悟空を奪取し、広間へと促したのだった。 「・・・・・一つ疑問なんだが、悟空」 ナタクが広間に飾られた雛飾りを見て悟空に尋ねた。 「なに?」 「・・・・・お前の家、女の子いなかったよな?」 「うん、いないよ」 「・・・どうして雛飾りがあるんだ?」 「どうして、て???」 どうやら悟空にこの状態に対して疑問はないらしい。 実は悟空が生まれたときにあまりの可愛さに両親が、初節句には女の子の着物を着せて 祝いたいという無茶苦茶な計画を実行したため孫家にはひな祭りが存在するのである。 もちろん、悟空にとってはそれがあたりまえの情景であるため何の疑問もない。 毎年、こうして・・・・・準備に諦めなければ・・・・・・雛飾りは日の目をみているのだ。 「これ飾るのすっげー苦労したんだぜ!!焔が居なかったら間に合わなかったな、うん♪」 「・・・・・で、その焔は?」 「あれ〜・・・今さっきまでここに居たのに・・・・?」 きょろきょろ周囲を見渡すが焔の姿はどこにもない。 「焔なら先ほど、部屋へ戻っていきましたよ」 広間に現れた紫鴛が教えてくれた。 「え?どうして?一緒にお祝いしないの?」 しゅん・・と元気をなくしてしまう悟空に紫鴛は穏やかに言った。 「いえいえ、ちょっと悟空に渡すものがあって戻っているようですよ」 「何だろ?」 「何でもいいだろう、さっさとはじめろ」 う〜んと考えこむ悟空に三蔵の不機嫌な声がかかった。 この広間。 普段はフローリングで立派な大理石の縦長テーブルがどーんと中央に置かれているのだが 今、床には真っ赤な毛氈がひかれて直に座れるようにされていた。 せっかくのひな飾り。 テーブルから眺めるのは味気ない。 各自、適当に己の場所を確保すると(実は熾烈な悟空の隣席争いが行われていたのだが) 運ばれてきた料理に舌鼓をうち、とくとくとお猪口に酒をくみ・・・・酒宴がはじまった。 (半数が未成年であることなど誰も気にしていないあたり末期である) ちなみに悟空の右隣には三蔵、左には八戒・・・そして目の前には清一色が陣取る。 けれど。それも最初のうちだけで座が盛り上がるにつれて悟空の前後左右は人が次々と いれかわる。 「ほら、ぐいーっといけ、ぐいーっと!!」 と言って悟空に酒をすすめるのは倦簾である。 ただし、皆が飲んでいる吟醸などではなく、ひな祭り用の甘酒ではあったが・・・・。 それでも杯を重ねるごとに悟空の頬は朱に染まっていった。 「おい、あんまり飲ませるんじゃねーぞ」 やはりここでも小言を忘れない金蝉である。 「ささ、悟空先生。我の酌も受けて下さい」 いつのまにか隣に移動した清一色が悟空にとっくりを傾ける。 「ちょっと待ってください」 「なんですか、八戒くん。無粋極まりないですよ」 「無粋なのはそちらです・・・先ほどそのとっくりに何かいれているように思えたんですが?」 「ああ・・・・ちょっとした気持ちよくなる漢方です♪そう害になるものじゃありませんよ」 「以前、そんな怪しげなものを悟空先生に飲ませないで下さいと言いましたよね」 「さぁ・・・覚えてませんが。別に八戒君にどうこう言われる筋合いはありませんからね」 「・・・・・」 「・・・・・」 二人の言い争いが激化する中、悟空は三蔵の隣へと移動していた。 「しゃんぞ〜、にょんでる〜っ??」 すでに口調があやしい悟空。 「・・・・バカ猿が・・・」 そんな悟空に三蔵が舌打ちする。 もちろん、三蔵は悟空とは比べものにならないほど杯は重ねている。 しかしいささかも酔った様子はない。 「バカらないも〜んっ!!しゃんぞーのばか〜っ!!」 完璧にできあがっている悟空の首筋は顔とおなじく、上気して桃色に色づく。 「・・・・・・」 一瞬、それを凝視してしまった三蔵は、どこかでカチーンとなった杯の音に我にかえった。 「しゃ〜んぞ?」 だが、我に返ったのもつかの間。 酔ったうるうる目で上目遣いに首をかしげて三蔵を見やる悟空の凶悪なほどの可愛らしさに 三蔵の理性が再び危うくなる。 「ご・・・」 「悟空」 三蔵が呼びかけようとする瞬間に割り込んだのは宿敵(笑)焔であった。 三蔵は眉間に皺をよせ、ちっと舌打ちした。 「あっほみゅら〜vv」 だが、悟空は三蔵の思いも知らず呑気に焔が来たことを喜んでいる。 しかも、ぎゅぅぅぅっっと焔の胸に抱きつく始末である。 「どこいってたんらよ〜ぅ」 「すまいない、ちょっとお前に渡すものがあってな」 「あに〜??」 「プレゼントだ」 そう言って焔が差し出したのは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一羽の小鳥。 手のひらに乗るほどの大きさのそれはエメラルドグリーンの翼がきらきらと光っている。 「うわぁぁ・・・・・」 それを見た悟空の瞳もきらきらと輝く。 「どうだ?」 「すっげーきれいvvv」 悟空がのぞきこむと、焔の手の上にいたその小鳥は悟空の頭にひょいっと飛び移ってきた。 「あっ!」 『コンニチワ、ゴクウ。コンニチワ』 「すっげーこいつしゃべった〜っ!!いまのオレのなまえらよな〜ぁ?」 「ああ、気に入ったか?」 「うんっ!!!ほみゅらありがと〜っ!!!」 酔いのせいもあり、いつも以上に全開の笑顔を浮かべた悟空に場の視線が集まる。 「「「「「「「「「「可愛いっっ!!!!!」」」」」」」」」」」 その笑顔をみて、皆はあらためて決意するのだった。 ”悟空は自分のものだっ!!!” と。 それにしても。 焔は小鳥にどうやって言葉を覚えさせていたのだろうか・・・・・? |
† あとがき † 前回からちょっと間が空いてしまいましたが第十六幕 お届けいたします♪ 今回のイベントは『ひな祭り』♪ 投票上位陣は一応皆、出演させた・・・と思うんですが。 (実はあやうく金蝉忘れるところでした・笑) アニメもいよいよ佳境で火曜日になるたび御華門を翻弄して くれますが・・・・はぁぁ最後はどうなるんでしょうねぇ? さて、投票です♪ 再び1位三蔵さまが頑張ってますっ!! しかし負けずに後を追う焔っ!! ここの争いは毎度激しいです(笑) そして続く金蝉。 そして一度は八戒に追い抜かれたナタクでしたが じりじりとねばり再び浮上!!! 一押し!!と言うわけでは無いようですがつい一票を投じてしまう キャラのようです(かく言う御華門も・笑) 以下は相変わらず・・・ちょっと紫鴛が頑張ってます♪ さて、まだまだお気に入りキャラをトップにする機会は たくさんありますっ!! 投票よろしくお願いしま〜すm(__)m |