〜第十七幕〜







 3月14日。
 世間ではこの日は俗にホワイトデーと呼ばれる日である。

 しかし、天竺高校では違う。
 何しろ、卒業式がこの日に行われるからだ。
 もちろん、誰の意向かは言うまでもないだろう。






「毎年のことながら・・・な〜んで俺らまで出席しないと駄目なわけ?卒業する3年だけ出れば
いいじゃん」
 と文句を言うのは悟浄である。
「まぁまぁ、僕はぜんぜん構いませんよ。ふふふふ・・・・」
「・・・・・」
 怪しい笑いで悟浄をひかせるのは八戒である。
 三蔵=邪魔者がいなくなるということでここ最近特に上機嫌である。
 
 広大な卒業式専用体育館の床からすでにセット完了した膨大な数の椅子が上がってくる。
 この仕掛けをつくるために建設費が倍になったのは別の話である。

「だ〜っ!!何をちまちま生けてやがるっ!!薔薇だ、薔薇っ!!」
 そう言って舞台の上でわめくのは久々の登場、理事長=観世音である。
 卒業式ということで飾られていた百合の花たちはあっけなく引き抜かれて深紅の薔薇に
 変えられた。
「くす玉はどうした?」
 ・・・・・・卒業式を壮行式か何かと勘違いしている思われる。


 卒業式は3年の担任は特に忙しい。
 卒業証書や、父兄への挨拶・・・・別れの言葉などなど・・・・。
 やるべきことは数え上げればきりがない。
 もしかすると卒業式に一番暇なのは当人たちである3年生なのかもしれない。

 だが、こちらにも言い分がある。
「わざわざ卒業式なんてくだらねーもんする必要ねぇんだよっ!ったく・・・面倒くせぇ・・・」
「別にいいんだぜ、出席しなくても。そのかわり卒業もできないと思えよ」
 こう言われれば出席しないわけにもいかないだろう。
 何しろ天竺高校は私立。
 単位が十分に足りているといっても理事長の性格からいって誤魔化して単位の2,3個くらい
 平気で改竄しそうである。
「それにせっかく咲いてる桜が可哀想だろうが」
 卒業式に何故、桜?
 そう思った方も多いだろう。
 
 『桜が無いと雰囲気がいまいちだっ!!』

 と言って体育館に続く並木道には早咲きの桜が大量に植えられ卒業式の時期には満開を
迎えている。
 まだ寒い時期に懸命に咲く姿は健気でさえある。
「オレ、ここの桜すっげー好きっvv」
 と言ってこの時期になると自分の授業も放り出して入り浸るのは体育教師の悟空である。







 さて、そんなこんなで卒業式当日である。







 体育館では卒業生の入場を今か今かと待つ、生徒&父兄のざわめきに満ちていた。

「では、卒業式を執り行います。卒業生入場っ!!」
 場がシーンと静まり一同の視線が入り口に集まった。

 ざわっ、と入場してくる卒業生を見て声があがる。
 普段は私服で過ごしている生徒たちだがこの日限りは皆、黒の学生服に身を包む。
 しかもかなり凝ったもので、縦襟には金糸で刺繍がほどこされ胸に並ぶ金ボタンにも細かい
飾りがほどこされている。
 また、上着の丈は通常より長く学生服と言うよりは燕尾服に近いかもしれない。
 ・・・・・・かなり着る人間を選ぶ服ではある。

 そしてある一人の姿が現れるに至ってざわめきは最高潮に達した。


 学生服に使われている金糸に勝るとも劣らない豪奢な金髪。
 そしてパープルの瞳。
 過去、これほどこの学生服が似合った卒業生も居ないだろうと思われるほど。


「三蔵、すっげーかっこいいっ!」
 状況もわきまえず感嘆の声をあげたのは悟空である。
 そこへすかさず金蝉の拳骨が落ちる。
「静かにしろっ!このバカ猿っ!!」
 三蔵はというとほとんど見世物のような自分に辟易して一刻も早くこの茶番が終わればいいと
思っていた。

「卒業おめでとさん」
 どこまでも軽く挨拶をするのは理事長である。
「まぁこれから色々あると思うが元気でな」
 ・・・以上、理事量の挨拶は終わりである。
 入学式と同様おそろしく短い。

 『卒業証書授与!卒業生代表、玄奘三蔵!』
 
 舞台では校長の光明がにこやかに三蔵があがってくるのを待っている。

「おめでとう、江流」
「ありがとうございます」
 育て親でもある光明の言葉にしぶしぶとではあるが三蔵は御礼の言葉を述べた。
「悟空のことは何も心配いりませんからね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
 その言葉が心配なのだ・・・と三蔵の顔には書いてあった。


 そして、ほぼ順調に(途中、悟空が記念品の紅白饅頭を見て盛大に腹を鳴らしたことを抜き
にすれば)進み、いよいよ卒業生の別れの歌になった。
 この時ばかりは体育館中の全ての人間が手に汗握る。
 ある者は耳栓を用意し、ある者は数珠を用意し、ある者は録音セットをONにする。


 そう、一応仏教系のこの天竺高校では卒業生の「別れの歌」は・・・・・・・・・・・・・・読経なのだ。



「ん〜、いつ聞いても心落ち着きます」
「・・・・・・・・・」
 光明の言葉にしかし、誰も頷きを返そうとはしなかった。
 また、一角では「えぐっえぐっ・・・・さん、ぞ・・・っ」と泣き声もしている。
「おやおや、悟空そんなに泣いたら目が溶けてしまいますよ」
 と言いつつ取り出したハンカチで悟空の涙をふき取る天蓬。

「ふえっ・・・・だって・・っさん、ぞが・・・・っ・・・・・」
「居なくなってしまうのは寂しいですが、せっかくの門出なんですから笑って見送ってあげないと
だめですよ」
 天蓬の言葉に悟空はふるふると頭を横に振る。
「違う・・・違うっ!!だって・・・さんぞ・・・・・・・・三蔵・・・・・・・・・・・・・・今日は・・・っく・・・・・・・
14日なのに・・・・っひく・・・・・・・・・・・・・・・・・チョコのお返しくれないって言うんだ〜〜っ!!」

「「「・・・・・・・・・・・・」」」
「オレ、飴くれるのかな?クッキーかな?それとも・・・てすっげー楽しみにしてたのに何もくれない
って言うんだ〜〜〜っ!!!!!」
 どこまでも食い気一直線な悟空。
 さすがの天蓬の笑顔もひきつり気味になる。
「ひどいよな〜っ!!!!」
 

『大丈夫だっ悟空!!!!』


 そこへ大音声で誰かの声が響きわたった。
 ほとんどの人間がいったい何事か!?と騒ぐ中、いく人かは聞きなれたその声に嫌な予感を
抱いた。

「あっ、焔だ♪」
 悟空だけは喜んでいるが。
 

『開け!ゴマっ!!』
 焔のわけのわからない呼びかけに呼応して卒業式の行われていた体育館の壁が外に向かって
開いていく。
「すっげ〜っ!!」
 大仕掛けに悟空は感動してじっとしていられなくなり、開く壁のほうへ駆け寄った。


 壁が完全に開ききったそこは、膨大な面積を誇る校庭だった。


『悟空、俺からのホワイトデーのプレゼントだ。受け取ってくれ!!』
 そして何かが空から落ちてきた。

 ドシーンッッ!!!と地響きをたて校庭に亀裂を入れて落下したその物体は・・・・・・・・・・・



 巨大な巨大な・・・・・・・・・・・・焔型クッキーだった。



『さぁ、存分に食べてくれ悟空!そして俺はお前の血となり肉となるのだっ!!!』
 焔の哄笑が天竺高校に鳴り響いた。
 バババババッッとプロペラの音をさせて空を旋回するヘリコプター。
 どうやらその操縦席に焔は居るらしい。


「・・・・誰か止めろ・・・・」
 金蝉はひっきりなしに襲う頭痛に耐えるべく額を押さえた。

「焔〜っ!!サンキューっ!!!」
 だが、そんな金蝉の苦悩をよそに悟空はたいそう喜んで大地から焔に向けて大きく手を振る
のだった。







「ああぁ・・・卒業式がぁぁぁっっ」
 VIP席にいる理事観世音の隣に立つ二郎神はめちゃくちゃになった卒業式に胃を押さえる。
「はっはっはっは!!これは退屈しなくていいぜ。毎年これで行くか?なぁ二郎神」
「観世音〜〜〜っ!!!!!」
 

 呆然と生徒たちが事の成り行きを眺める中、ただ二郎神の悲痛な叫びが体育館に響いた
のだった。














† あとがき †

はぁ、やっと17幕UPです(^^ゞ
一応卒業式前編・・・ぽいですね。あともう1幕卒業式後編を書く予定です♪

さて、投票・・・・・は確認してないのでわかりませんが
ただ今これをUPして3,4時間の間は無制限投票です!!
さぁ、お気に入りキャラにばんばん入れて下さいませ!!
終幕も近いですから頑張ってくださいね〜っ!!

では、ご拝読ありがとうございましたm(__)m








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