- 第十四幕 -







 さて、2月14日。
 今日は日本全国、老若男女(?)全ての人間が踊らされる日。

 『バレンタインデー』なのだ。

 もちろん、天竺高校でも・・・・・・・・・・・と続けたいのは山々なのだが、生憎天竺
高校は男子校。
 チョコをくれる女の子など存在しない。
 
 しかし、やはりチョコは出回るもので・・・・・・・・・・



「さ・・・三蔵先輩っ!!」
 と手に汗握った男子高校生が(・・・おそらく一年)勇気をふりしぼって手作り(!?)
チョコを差し出した。
「・・・・・・・・・ざけんなよっ!!」
 どこの世界にヤローからチョコ貰って嬉しい奴がいるか!!
 おととい来やがれ・・・・いいや、永遠に死んでろっ!!
 親でも容赦なく殺ってしまいかねない眼差しと、問答無用の鉄拳が飛ぶ。

「ちっ・・・・うぜーんだよっ!!」
 毎年、毎年・・・・・と三蔵の不機嫌は最高潮にあった。


 一方。悟浄はというと。
「せ・・せ・・・先輩っ!!」
「あ―待て待て。その先は言うな、頼む。寒くなる。オレは可愛い女の子が好き
なんだ。他あたってくれ」
 ひらひらと手を振り、先手をうった悟浄は去って行く。
 残されたのはチョコを差し出す暇もなく取り残された男子高校生が一人。


 では、八戒は。
 朝、誰よりも早く登校した八戒は部室である家庭科室でまさに”山”のような
チョコレート、及び菓子つくりに専念していた。
 その熱意ときたら、隣にある2−Dの生徒一同が担任に部屋を移動させて欲しいと
涙ながらに懇願したほどである。
「待ってて下さいね!!悟空先生!!」
 ・・・・まだ作るんかい。


 さて、そんな騒ぎの中で何故か、取り残されたかのように静かな職員室。
「いや〜今年は静かですねぇ」
 ずずず・・・と天蓬が茶をすすりながら誰にともなく呟いた。
「さみしーぐれぇだな。オレとしちゃチョコレートの1つや2つどうでもいいような気が
すんだけどな」
「まぁ、仕方ありませんね。誰かさんが学校での教師に対するチョコレート等の贈物
は賄賂とみなして停学にするとか言ってしまいましたからね〜」
 とちらっと日誌に目を走らせている不機嫌顔の金蝉を見やる。

 そう言えば、昨年はいつにも増して凄かった・・・と捲簾は思い出す。
 悟空が赴任して以来のはじめてのバレンタインデーはそれはもう、言語に絶する
ありさまだった。
 悟空が食べ物に弱い(?)・・・というのは周知の事実だったため、生徒たちは悟空
の気をひこうと・・・基本のチョコレートにはじまり、クッキー、キャンディー、スコーン、
煎餅・・・果ては朝鮮漬け(?)・・・・とありとあらゆるものが悟空にプレゼントされた。
 悟空はただ何の気なしに貰えるのが嬉しくて「サンキュッ!」と言っては満面の
笑みを披露していた。
 果たして、そんなことが何回・・・・いや、何十回と繰り返されて後、とうとう金蝉が
きれた。


 そして、天蓬の言ったとおりのことが校内に宣言され、職員室は立ち入り禁止と
なったのだった。


「でもよぉ・・・ならどうして悟空の机の上にはすでにチョコが山積みなわけ?」
 まだお昼にもなっていない。
 しかし悟空の机の上には綺麗に包装された包みが山となっている。
「僕は1つしかあげてませんけど・・・あの中のほとんどは悟空が登校する途中に
いただいたものですよ」
「・・・・・・・・すげぇな」
 それしか言いようがなかった。
「とか言いながらあなたも貰っているじゃありませんか」
「・・・・でもあれには負けるだろ、あれには」
 捲簾が指差すのと同時に山となっていた包みに雪崩がおきた。
 それが金蝉の机に侵入してくる。

「・・・・・・・・」
「・・・・あーあ、オレ、知らねぇぜ」
 怒りにぴくぴくとこめかみを振るわせる金蝉に授業、授業・・・と捲簾が立ち上がる。
「いやぁ、困りましたねぇ・・・」
 と全く困ってなさそうに見える天蓬は相変わらずマイペースである。

「あの・・・クソバカ猿っ!!どこに行きやがったっっ!!!!」
 金蝉の手にあった万年筆がべきべきぃぃっと音をたてて真っ二つになった。







 当のそのころの悟空と言えば。
「あの・・・悟空先生」
「んん?(なに?)」
 口の中のチョコがしゃべる邪魔をする。
「こ・・これを・・・・・貰ってくださいっ!!」
 それだけ言って悟空の手に包みをたくすと、だっと駆け去って行った。
「何だぁ?」
 先ほどからこれの繰り返しである。
 いくら、金蝉が禁止令を出そうと悟空の魅力はそれに勝る、ということなのであろう
か・・・・・・しかし、それなら悟空は「貰う」ほうではなく「あげる」ほうな気もしないでは
・・・・ああ、いやいや深く考えるのはやめておこう。

「おい」
「あ、三蔵〜♪」
 廊下で出くわした三蔵に悟空は嬉しそうに駆け寄る。
「教師は貰うなと言われてるだろうが」
「え?うそっ!?・・・・・んじゃ、これ返さなくちゃ駄目・・・・?」
 事が食べ物にかかわるだけに、悟空の目にはすでに涙が浮かぶ。
「すっげー美味そうなのに・・・・」
 この世の終わりのような言い方である。
 大げさと言うなかれ、悟空はどこまでも本気(マジ)である。
「・・・・どうせ返すったて貰った相手なんか覚えてねーんだろうが・・・なら邪魔に
なるから持ってけ」
「やったっ!!三蔵サンキューっ!!」
 いつもなら、ここで飛びつく悟空だが、今日は腕にチョコレートたちがあるために
笑顔だけふりまく。
「んじゃ、お礼に三蔵にこれやるな!!」
「は?」
 渡されたのは・・・・・・・・・・・・・・・・・人形。
 手のひらサイズの悟空人形だ。
「・・・・・・・・何だ、これは」
「ん?チョコのお返しにって天ちゃんが用意してくれたんだけど皆渡す前にどっかに
行っちゃうからさ・・・・・だから三蔵にあげる♪」
 すっげーオレによく似てるよな♪と悟空はにこやかに語る。
「・・・・・・・・」
 無言で人形を見つめる三蔵に食い物のほうがいいのかな〜と見当違いのことを
思いながら一応、聞いてみる。
「・・・・・いらない?」
「・・・・・・・ちっ」
 三蔵は舌打ちすると無造作にその人形をポケットに突っ込んだ。

 こんなものいるかっ!!と言ってしまえば簡単なことながら、そうすれば、だったら
他の奴に・・・と渡されるのも腹が立つ。

 ・・・・・・・似すぎなんだよっ!!
 心の中で悪態をつきながら、天蓬の含みある穏やかな笑顔を思い出すのだった。
 おそらく渡す相手などいないことを知っていながら悟空に持たせたに違いない。
 その心理は・・・・・・・・・・・・察したくもないが。
 ましてや作っている姿を想像するのも嫌だ。


「良かった♪それもう1つあったから焔が出張に行く前にあげたんだけど、何か
すっげー気に入ってたみたいだったから!」
「・・・・・・・・なに」
「一緒に連れてけないオレの代わりに毎晩話し相手になってもらう、とか言ってた
な〜・・・冗談にしても笑えるよな!」
「・・・・・・・」
 いや、きっと焔は本気だと思うぞ。
 そして話し相手どころか・・・・・・×××なことの相手にもしかねない(笑)。

 憎い・・・・殺意さえ覚える相手のことであるのに、こんなことが容易に察せられる
のもかなり嫌なことで、三蔵の眉間の皺は深くなる。
 それでも、三蔵は悟空人形を返すことはなかった。



「なぁなぁ、三蔵」
「何だ?」
「今日てさ、バレンタインデーとかいうやつなんだよな?」
「今さら、だな」
「じゃ、これ。はい♪」
「・・・・・・・なんだ?」
 再び悟空に手渡されたのは小さな透かしの入った包装紙に包まれた丸い物体。
「バレンタインデー、て好きな人にチョコをあげる日なんだろ?だから、はい♪」
「もしかすると・・・・・チョコか?」
「うんっ!!昨日、天ちゃんと是音に教えてもらって一生懸命作ったんだ!」

 差し出す悟空の目が、言葉以上に”三蔵大好きっ!!”と訴える。

「・・・・・・・」
 予想外の出来事にさすがの三蔵もすぐには言葉が出てこない。
 じっと手の中のチョコを見つめる。
「・・・・三蔵?」
「・・・・・バカ猿」
「猿じゃねぇ・・・っ!!」
「貰ってやるよ」
「え?」
「貰ってやるって言ってんだよ、二度も言わせるな」
 そしてふいっと視線をそらせる。
「・・・・うんっ♪三蔵・・・・大好きっvv」

 純粋無垢。
 どこまでも素直にまっすぐな悟空は心を隠さない。

 そんな悟空に思いを寄せられ、堕ちない男がいるだろうか?
 いや、いない(笑)。

「悟空・・・」
 三蔵は自分より頭二つぶんは低い、悟空の頬に手を滑らせた。
 指にやわらかく、滑らかな・・・・・・悟空のぬくもりが伝わる。
「さんぞ・・・?」
 とまどう悟空にゆっくりと三蔵に顔が近づいてくる・・・・・・・。












「悟空っ〜〜っっ!!!」
 が。
 そう簡単には雰囲気にはひたれない。
 鬼のような形相をした金蝉が大またで歩いてきた。
「うわっ・・・金蝉っ!?」
「このくそバカ猿っ!!お前は禁止令が出ているのを知らないのかっ!!!右左
上下と・・・少しは拒めっ!!!」
「え・・・そんなの無理っ!!」
「無理、じゃねぇっ!!!」

 ばこぉっ!!

「いっ・・・てぇ〜〜〜っ!!!」
 いつにも増して凄まじい音をたてて、金蝉の拳は悟空の頭上に落ちた。


 その光景を珍しくも呆然としてただ見つめていた三蔵はすぐ横に八戒が居る
ことに気づかなかった。
「悟空先生も大変ですね〜」
「・・・貴様っ!」
 ぎょっとして三蔵は目をむく。
「おや?それは・・・・」
 八戒は三蔵の手にある悟空から受け取ったチョコの包みを目ざとく見つけた。
「・・・・・・・」
 ”何か文句あるのか?あぁ?”と視線だけで三蔵は睨みつける。
「三蔵も悟空先生からいただいたんですね、チョコ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっと待て」

「はい?」
「お前も持っているのか?」
「ええ、いただきましたよ♪」
 ほら、と八戒は三蔵のものそっくりの包みを差し出してみせる。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「三蔵?」


「・・・・・・・・・・・あのバカ猿っ!!!!!!!!」
 三蔵は金蝉に小言を言われている悟空に近づくと、問答無用で・・・・・・・・


 バシィィィンッッ!!!!


「って〜〜〜〜っ!!!!!!!!」
 あまりの痛さに悟空の目に生理的な涙がまじる。
「何すんだよっ!!三蔵のばかっ!!!」
「・・・・ざけんじゃねぇっ!!!!」

 ”好き”ていうのは”みんな好き”・・・・そういう意味か!!!
 その気になった俺はいったい何なんだっ!?


「おいっ悟空!!余所見すんじゃねぇっ!!」
「う、え?」
「このバカ猿っ!!」
「な・・・なっ・・・!!」
 交互に金蝉と三蔵に小突かれて悟空は右左にゆれる。




「な・・・・何なんだよっ!!オレ、何もしてねーのにっ!!!!!」
 



「「うるせぇっ!!!」」



 まったく自覚のない、歩くはた迷惑、悟空。
 
 今日も皆をふりまわすのだった。
 これも「愛」?(笑)








† あとがき †

14日に第十四幕とは・・・まるで狙っていたかのよう(笑)
しかも開設記念日(笑)
さてさて、いかがでしたでしょう??
お楽しみいただけました?

そして投票。
あうぅ・・・前回と変わらず!!
従って焔さま、名前だけの登場(T×T)
三蔵に200票以上放されておりますっ!!!

というわけで(笑)
ただ今より無制限投票ですっ!!
さぁ、お気に入りキャラにばんばん投票して下さいませ♪
期間は、今日いっぱい。

では、第十五幕で♪







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