第十三幕







 さて、場所は孫邸(・・・悟空たちが住んでいる家・・・そっか持ち主は悟空だった
のか・・・・ておいっ)。
 今日の悟空の目覚めは食堂から漂う香ばしい匂いとともに訪れた。
 悟空に目覚まし時計はいらない。
 なにしろ朝になると必ず腹時計が正確な時刻を刻むからだ。

 そして、今日もその香ばしい匂いに触発されて悟空のお腹は盛大な音を響かせ
たのであった。




 ぐぐぐうぅ〜〜〜きゅるるるうぅぅぅぅ〜〜〜〜っぅ




「うーっ!腹へったぁっ〜っ!!」
 がばっと布団から起き上がった悟空は何をおいてもまず食堂を目指した。


「天ちゃんっ!!今日の朝めし何っ!?」
「おやおや、よく利く鼻ですねぇ」
 朝食の準備をしていた天蓬が苦笑まじりに言った。
「だって!すっげーいい匂いしてたもんっ!!」
「そうですか?でもまず・・・・悟空?」
「あ・・・・・」
 にっこりと天蓬に言われて悟空は姿勢を正した。
「おはようございます、天ちゃん♪」
 ぺこり、と一礼。
「はい、おはようございます。悟空」
「それで今日の朝めし何!?」
「今日は和食です。白米に、豆腐とわかめのお味噌汁、ほうれん草のおひたしに
ぶりの照り焼き、里芋の煮ものに海苔の佃煮・・・・悟空の大好きな卵焼きです」
「やったっ♪天ちゃん大好き〜っvv」
 さっそく悟空は食堂の自分の席につくと並べられた料理に手をつけた。
「いっただきま〜すっ!!」
「たくさん食べて下さいね」
 天蓬の言葉どおり・・・・いや、言葉以上に食べて食べて食べまくる悟空。
 朝からこんなに食べて大丈夫なのか?という言葉は悟空には愚問なのだ。
 何しろこれが『普通』なのだから。

 悟空が食堂の料理を片っ端から胃につめこんでいる間に金蝉や捲簾、紫鴛や
是音も起きて食堂におりてくる。
 ついでに今、焔は出張で日本には居ない。
 悟空の冬休みが終るのと丁度入れ替わりに仕事が入ったのだ。
 ・・・・というより冬休みの間は悟空と一緒にいられるように焔が調整していた
だけ・・・だったりするのだが。
 

 この総勢7人の食事をいとも容易く作ってしまう天蓬はやはり、誰が何と言おうと
この家の影の主だった(笑)。
 

「んぁ・・・そうひへば・・」
 悟空が口の中の里芋を噛みながら思い出したように天蓬のほうを向いた。
「おい、口に物をいれたまましゃべるなといつも言っているだろうが!」
 悟空の向かいに座る金蝉がすかさず小言をいれる。
「はっへ、ははく食べないと・・・ごくんっ!ケン兄ちゃんに食われるんだもん!」
「もう十分食ってるだろうが・・・・」
「全然足りないっ!!」
「・・・・・・・・・・このバカ猿が・・・」
 金蝉はこめかみを押さえ、自分の食事に戻ったのだった。
「・・・で悟空、何ですか?」
「朝、何かいい匂いしてたと思ってたんだけど・・・・・ぶり、じゃないよな?」
「ええ、たぶんこれでしょう」
 そう言って天蓬が悟空に示したのは・・・・・・・・・・”炒った豆”
「・・・・・・豆?」
「そうです」
「??・・・・食うの??」
「いえいえ、違いますよ。ほら、今日は2月3日ですから」
「・・・・・・・・誰かの誕生日?」
「バカだな〜お前知らねぇの?節分だよ、せ・つ・ぶ・ん」
「節分・・・・・・・・ああっ!!豆まくやつっ!!」
「そうそう、それです。節分、というのは本当は季節の変わり目を指していう言葉
なんですが特に立春の前日をさして厄払いのために豆をまくんですよ」
「そっか〜・・・・でも、もったいないよな?」
 天蓬の手にある豆をもの欲しそうにみる悟空。
「・・・・・拾って食うなよ」
 金蝉は次に続くであろう悟空の言葉を先んじて注意した。
「やっぱ駄目?」
「ええ、まぁ」
 悲しそうに豆を見つめる悟空に苦笑するしかない天蓬である。
「蒔いた豆は八戒の白竜にあげましょう。悟空のは別に用意してありますから」
「ホントっ!?だったらいいやっ!!」
 どこまでも食欲一直線な悟空なのであった。












「・・・・・とうことで今日の体育は豆まきなっ!!」

 バシィィンンッッ!!

 元気よく宣言した悟空の頭部にすかさず三蔵のハリセンが炸裂した。
「何が・・「ということで」だっ!!ふざけんなっ!!」
 ただ今、3年の体育の時間。
 すでに2月。
 進路もちらほら決まった者もいるが、まだまだ受験まっさかりな中の3年生。
 そんなピリピリした雰囲気の中、な〜にも役に立たない体育ははっきり言って
さぼるしかないような授業だが、皆、担当が悟空ということで出席してきている。

「って〜なっ!!三蔵のハゲっ!!」
「誰がハゲだ誰がっ!!俺たちは幼稚園児じゃねーんだぞ!やりたけりゃぁ一人で
やってろっ!!」
「う〜っ!!」
 いとも容易く提案を却下された悟空はそれでも諦めきれず三蔵の背後の生徒
たちにおねだりモードの視線にちょっぴり涙を浮かべて尋ねた。

「・・・・・・・みんなも・・・・・嫌?」
 首もついでに傾げてみる。

 

「「「「「「「「・・・・・やりますっ!!」」」」」」」」」」
 そんな可愛さあまりまくりの悟空に勝てるわけがない。
 生徒たちは三蔵という脅威がありながらも悟空に賛同したのだった。
「お前ら・・・・(怒)」
「やったーっ!!」
 ますます怒りの色を濃くする三蔵とは反対に悟空は喜色満面。
 ・・・・・・・こうなるともうやけっぱちで付き合うしかないだろう。




「それじゃあ、これな♪」
 悟空は三蔵に”鬼の面”を手渡した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何だ、これは?」
「八戒に豆まきするって言ったらくれたんだっ♪『三蔵センパイに渡して使うといい
ですよ♪』だって!」
「あいつ・・・・・・・・・・・・・・・コロス」
「それかぶるんだぞ、三蔵」
「・・・・誰がするか」
「・・・・・してくんないの?」
 上目遣いで涙をにじませる悟空。
「・・・・ちっ」
 この視線に一番弱いのは誰あろう三蔵なのであった(笑)
 悟空もそれを本能でわかっている。
 ・・・・・・・さすが野生児。


 不承不承ながら鬼の面をナナメにかぶった三蔵は、自分の前に並ぶ豆を持った
生徒一同+悟空を睨みつけていた。
 その眼差しはすでに殺人的なまでに鋭い。
 生徒たちは内心・・・『投げたら殺される〜〜ひぃ〜〜っっ』とすでに顔色が真っ青
になっていたが悟空はわくわくしてはじまるのを待っている。
 ・・・・・・ある意味大物なのかもしれない。

「んじゃっ、用意はじめっ!!」
 元気よく号令をかけた悟空は勢いこんで豆をまきはじめた。



「鬼は〜うちぃっ!!福は〜そとぉっ!!」
 
 その掛け声に生徒たちはがっくりと倒れそうになる。


「反対だろうがっバカ!!」
 三蔵がハリセンで叩いた。
「うぇっ!?」
「厄払いするのに厄を招いてどうするっ!!」
「え〜??んじゃ・・・鬼は外、福はうち?」
「そうだ」
「え〜・・・・・やだ!」
「何がだっ!?」
「だって・・・三蔵は鬼だろ?」
「この面は鬼だな」
「ちがうっ!・・・・ほら、よく悟浄とか三蔵に『鬼畜ぼうず』とか言ってんじゃん」
「・・・・・・・・(怒)」
「あのきちくの”き”て『鬼』だろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一応聞いておくが。それで俺がこの面を
かぶることになったのか?」
「うんっ!!」

 バシィィィンンンッッ!!!!!

「このバカがっ!!」
「いって〜ぇっ!!三蔵のおーぼーっ!!おにーっ!!」
「てめぇが訳わかんねぇこと言ってやがるからだろうがっ!!!」
「訳わからなくなんてねぇもんっ!!オレ、三蔵が家に来てくれたらいいなぁ〜と
思って・・・・それでっ!!」
 やったんだもん・・・と語尾はぐすりという涙まじりの声にかわる。
 どうやら悟空は鬼と三蔵をかけて・・・・・豆まきを計画していたらしい。


「・・・福はうちの”うち”は「家」じゃない、「内」だ。バカ」
 一拍おいて三蔵の口から出た言葉はいつものように素っ気ないものだったが
怒声ではなく・・・・・・穏やかな声音を持っていた。
「・・・・・三蔵?」
「そういうことは、直接に言え。馬鹿が余計なことに気をまわすんじゃねぇ」
「三蔵っ!それって・・・・・家に来てくれるの??」
「・・・・ふん」
 ただ鼻をならしてそっぽを向いてしまった三蔵だったが、悟空はそれが了解の
印であることがわかった。
「やった〜っ♪♪♪」



 喜ぶ悟空は、無邪気でそれはそれは可愛かった。



 しかし。
 しかし、である。


 今は体育の授業中なのだ。
 
 何だからぶらぶ〜な二人の様子に声もかけられず寒風ふきすさぶ中に放った
らかしにされていた生徒たち。








 翌日、受験前だというのに三蔵のクラスは風邪により学級閉鎖となったのだった。












† あとがき †

一週あいての第十三幕です♪
2月はイベントたくさんっありますね♪♪
でも、終幕も近くなるぅ〜★

さて、投票の状況は・・・

三蔵さま!!相変わらずトップを独走中!!
頑張れっ焔!負けるなっ焔!
・・・でも疾風怒濤では出張中(笑)
つづく第三位は金蝉!!変わらず、です!
変わったのは次!!
な〜んとっ!!ナタク君ですっ!!
すごい追い込みですっ!!
このまま金蝉を抜かしてしまうかもしれない!?
そして、八戒・天蓬とつづいて変わらず、です。

ナタクは無制限投票のときに誰かが頑張ったらしいです(笑)
・・・とこのように下位にいても時おり無制限投票があるので
順位はまだまだわかりませんっ!!

さて、次回のイベントはもうおわかりですね?(笑)

では、ご拝読ありがとうございました!!


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