-第十一幕-
【その1】







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 さて、そんなこんなで文化祭二日目。
 何と言っても本日の見所は第一体育館で行われる『演劇』である。
 コメディもあれば悲恋もあり、歌劇もあれば時代劇もある。


 そして、本日最大に注目を浴びているのは天竺学園人気投票では常にトップに
入ってくるという面々によって演じられる『白雪姫』である。
 それだけにチケットの値段も半端ではない。
 通常では1枚千円程度のチケットの値段が、『白雪姫』に限り、1枚5千円で売り
出されている。
 しかもそれでも前売り券は発売当日にわずか1時間で売り切れ、当日券もすでに
なく、ダフ屋の間では1枚2万の値もついたというから驚きだ。





「さて、皆さん心の準備は出来ましたか?」
 にこにこと八戒。
 舞台裏にて白雪姫のキャストが並んでいた。
「なぁ八戒・・・」
「何でしょうか。悟空先生?」
「・・・・・・三蔵が居ないんだけど・・・」
「ああ。そうでした」
 そこでぽんっと手をうつ八戒。
「実は・・・・・」


 三蔵は今朝未明に熱を出したらしい。
 それでも意地になって登校しようとした三蔵をこの学園の校長であり養い親の
光明が止めたのだ。
「いいですか、大人しくしていないとあなたの幼い時のあーんな写真やこーんな
写真をばらまきますからね」
 慈愛ともいえる微笑を浮かべて宣言した光明である。
 それでも抜け出そうとする三蔵を当身いっぱつ。
 昏倒させると寝台へとくくりつけた。
 まさに手段を選ばぬ所業であった。



「まぁ、そういうわけで三蔵は欠席です。で・・・誰かを代役に立てないといけない
んですが・・・・・」


「「「「「「俺がっ!!!」」」」」」

 八戒の言葉に見事にハモル小人たち(笑)。
「だめですよ、あなたたちにはしっかりと小人の役をつとめていただかないと
いけませんから」
「んじゃ、誰がするんだよ?」



「俺がやろう」



「「「「「焔っ!?」」」」」
 現れたのは悟空の従兄、焔である。
「焔、来てくれたんだっ♪」
 もちろんその登場に喜んだのは悟空一人だったが・・・。
「ああ、せっかくの悟空の晴れ舞台だからな。・・・でどうなんだ?俺では駄目か?」
「いえ・・・・まぁいいでしょう」
 実は自分がやろうと思っていた八戒は内心の憤りを隠して肯いた。
「おいおい、そんな飛び入りでセリフは大丈夫なのかよ?」
 捲簾である。
 どうやらまだ諦められないらしい。
「問題ない。悟空の練習に付き合わされていたから王子のセリフならば完璧だ」

「「「「・・・・・・・・」」」」
 何気に惚気られてしまったと思うのは気のせいだろうか・・・・・?

「焔が王子なら大丈夫だなっ!!」
「ああ。普段どおりにすればいい」
「うんっ!」
 微笑ましき家族(?)愛である。

 それを見る一同の視線はかなり凶悪ではあるが。

「それでは遅れてはいけませんから、準備に入ってください。衣装は各自の部屋に
置いてありますから・・・・悟空先生は僕が手伝いますね」
「うんっ!」
 そうしてしぶしぶながら各自は楽屋へと姿を消したのだった。



*悟空の楽屋にて*

「うげっ・・・・きつ・・・苦しい・・って八戒!!」
 悟空の楽屋からうめき声が漏れてくる。
「すみません、悟空先生。これでもゆるめに作ったんですが・・・・ちょっとの間です
から我慢して下さい」
「・・・・て劇の間この格好だろ・・・っ!」
「いえ、これを着るのは始めと終わりだけですから・・・間は別の・・これよりは動き
やすい服ですから」
「マジ・・・・良かったぁ」

 
*小人(笑)たちの楽屋にて*

「・・・マジ?マジでこれ着んの?」
 悟浄がそれをつまんで嫌そ〜に尋ねた。
「着るんだろうな」
 金蝉が不機嫌な顔で肯く。
「ははは・・・まぁ仕方がありませんねぇ」
 苦笑する天蓬。
「・・・せめてこのフランシスコ=ザビエルみたいな襟元は何とかなんないわけ?」
 くいっくぃっと引っ張って捲簾は服からとりはずそうとするがしっかりと縫い付け
られているそれはびくともしない。
「駄目のようだな」
「そのようですね」
 是音と紫鴛があいづちを打つ。
 一人、紅孩児は黙々と衣装を着付けていた。

*焔の楽屋にて*

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
 王子の気も狂わんばかりにひらひらレースのついた服を着こなし、鏡に向かって
ふっと微笑んでいた。


*お后&従者(木こり)の楽屋にて*

「やはり俺さまにはこのくらい豪華な服がよく似合うな」
 捲簾言う、フランシスコ=ザビエル襟のドレスを着て偉そうに鏡の前で笑うのは
お后=観世音理事である。
「それに比べてお前、かなりみすぼらしいぞ」
「・・・放っておいてください」
 だが、内心でこの服で良かったと安堵の吐息をつく二郎神だった。





 さて、一同の衣装をつけての顔見せ・・・・・・・はなく時間の関係でぶっけ本番へ
と突入した。




 客席はすべて埋まり、皆が固唾をのんで見守る中、劇は開幕したのだった。


 ジリリリリリリ・・・・と開幕のベルが鳴る。




――お后さまは願いました。――
 ナレーションが入る。
 ちなみに八戒の声だ。

――この雪のように白く、赤い唇を持つ・・・・そんな可愛い子供が欲しい・・・――
 仲睦まじくも王と王妃の間にまだ子はなく、王妃は祈りました。

 その願いは天へと届き、お后さまの望んだような可愛らしい子供が生まれました。
 しかし、お后さまはその子の成長を見届けることなく天へと召されたのでした。
 悲嘆にくれる王。
 けれど子供は健やかに美しく成長していき・・・王の心の傷もそれとともに
 癒されていきました。

 その姫の名は・・・・・・・・『白雪姫』と申されました。


 
「さぁ、悟空先生。いよいよ出番ですよ」
「う〜すっげー心臓ばくばくいう・・・・っ!」
「大丈夫です、そういう時は手に人の文字を3回書いて呑み込むといいそうですよ」
 悟空はその言葉に素直に実行にうつす。
「・・・・ちょっとはおさまったかも」
「それでは頑張って下さいね」
「うんっ!」
 悟空は八戒に背中を押されて舞台へと一歩踏み出した。






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