第十幕







 さぁ、ついに秋。
 秋の行事といえば文化祭。
 
 通称『釈厄祭』と呼ばれる天竺高校の文化祭は、よくある文化祭のように展示・劇・
飲食物販売にはじまり・・バンド演奏、賭博(第2運動場が大賭博場と化す)、カーレース
銃撃・・・・・・などなど生徒会に案を提出して通れば何でもありである。
 もちろん教師陣は元締めの理事長が何も言わないので何もいえない。
 



 さて、悟空のクラス1-Cのやるものはと言えば。
 普通に飲食店、となった。
 出すものは中華・点心全般である。
 男ばかりながら、かなり腕が達者な奴らが揃っており味はしっかり悟空の保証付だ。
「悟空先生も協力してくださいね」
 学級委員の葉が、点心の味見をしている悟空に言った。
 ・・・・・味見というには少々食べ過ぎのきらいもあったが。
「うぐっ?」
「ウェイターよろしくお願いします」
「んぐ・・ごくんっ、そっか・・・オレも協力しないとな。うん、わかった!!」
 葉が”ありがとうございます”と頭を下げながら、これで売上は黒字になること間違い
なし、と踏んでいた。
 文化祭における収益はすべて、各自のものとなる。
 生徒会から出される準備金と収益の差額で、黒字か赤字か決まるのだ。
 そのため、生徒達はかなり本気で取り組んでいる。
 歴代で収益が一番高かったのは、昨年八戒がいた園芸部でその額は・・・・公にされているだけでも約300万。
 八戒のことなので隠れ帳簿などもあるはずで・・・実際の利益となると・・・・・・・。
 相当な額を稼いでいることは間違いない。
 このように半端じゃない額が文化祭3日間は学園内を飛び交っているのだ。




 教室を使って喫茶形式で店を開くことになっているのでその準備をしていると、
「悟空先生」
 教室の入り口より八戒が呼んでいた。
 相変わらず見た目は”いい人”である。
「あ、八戒♪どうしたんだ?」
「実は悟空先生にお願いがあって来たんですが・・・・」
「え、なに??」
「文化祭のことで・・・ちょっと」
「文化祭のこと?」
「お手伝いをして欲しいんです。何しろわが園芸部は部員が僕と悟浄の二人しかいない
でしょう、しかも悟浄は文化祭の日は賭場のほうの元締めでこちらにもあまり顔を
出せないようなんです」
 実は裏の総元締めは八戒だったりするのだが・・・・・。
「そっかぁ、大変だな。うん、いいよ。できることだったら何でもやる」
 悟空は八戒の謀略に少しも気づくことなくあっさりと肯いてしまった。

「ありがとうございます。では、これが台本ですからよろしくお願いしますね」
 スマイル120%で八戒は悟空に白いエンボス地の紙に金の箔押しで題名が入った
台本を渡した。(ここまで凝ることからして疑わしい)
 その題名は・・・・・・・・・・・・・・・・

 『白雪姫』

「ふーん・・・・」
 ぺらり、と厚い表紙をめくった悟空はそこへ書かれているキャストに目を通した。
******************************************
協賛:家庭科部(衣装担当)

【白雪姫・配役】

7人の小人: 金蝉
         天蓬
         捲簾
         八戒
         紫鴛
         是音
         紅孩児

お后(魔女): 理事長=観世音菩薩

木こり: 二郎神

王子: 三蔵



「・・・主役:白雪姫:・・・・・・・孫悟空・・・・・・てオレじゃんっ!?」
 悟空は大きな瞳をますます大きくさせて驚いた。
「はい、よろしくお願いしますね」
「そんなの無理だよっ!!」
「悟空先生なら大丈夫です」
 どこから来るんだ、その自信?
「大丈夫じゃないよっ!!それに白雪姫て女だろっ、オレやだっ!!」
「・・・・・悟空先生」
 にこにこ顔のまま八戒が悟空の肩にぽんと手を置いた。
「我が天竺高校は男子校なんです。誰かが女役をしないといけないんですよ」
「だったら八戒がすればいいじゃんっ!!・・・そうだっ三蔵がいいっ!!」
「絶対にやってくれないと思いますよ・・・・それに」
「それに?」
「悟空先生、先ほど”出きることなら何でもやる”と仰いましたよね?」
「え・・・・い、言ったかな・・・・・?」
「言ったんです」
「う、うん」
 何だかよくわからないがあまりのプレッシャーに悟空は肯いてしまう。
「男に二言はありませんよね」
「う゛・・・・・・・・」
「ですよね?」
「うぅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった、やる」
 がっくり、と肩を落として悟空はしぶしぶ肯いた。
 口は災いのもとである。
「良かった。悟空先生ならそう言ってくださると思っていたんです」
 どう考えても無理やり肯かせたとしか思えないが、八戒は至極満足そうだ。
 何しろキャストの大半は悟空が出るということで出演を納得させたのだから断られて
は劇自体が成り立たない。
「では、しっかり読んでセリフ覚えておいてくださいね。明日には通し稽古をしますから」
「ええぇっ!?もうっ!!??」
「はい、時間がありませんから」
「そんなの無理だって!!」
「為せば為る、為さねば為らぬ何事も・・・・ですよ、悟空先生♪」
 そういう問題なのだろうか・・・・・・・?
 鈍い悟空だったがさすがに騙されている気がしないでもないのだった。





         ☆゜’*:・。.☆゜’*:・。.,。・:*:・゚'゜’*:・。.☆゜’*:・。.☆




 文化祭当日。
 一般にも公開されているため、朝から校内は凄まじい賑わいをみせていた。
 悟空も自分の出番である劇は文化祭2日目のため、自分のクラスのお手伝いの
時間までは出店(もちろん食べ物)をはしごしていた。
 その姿ときたら、とても教師とは思えず近所の子供が遊びに来たんだろう、と周りの
人々が微笑ましくみつめるほどで、時おり「ひとりなの?」とか言われながら食べ物を
ごちそうになっている始末。
 ・・・・きっとどんなに貧しくても食事にだけは困らないだろう。

「おや、悟空先生」
 丁度生物室の前を通りかかったイカ焼きを手にした悟空に姿を現した清一色が声を
かけた。
 文化祭は部費を稼ぐ絶好のチャンスでもある。
 もちろん生物部も参加していた。
 ・・・といっても部員は清一色一人だけのはずなのだが・・・・・・・・・。
「悟空先生、紹介します。こちら交換留学生のスピネル=フォールス君。薬物の生態
に及ぼす影響に興味があって入部してくれたんです」
 と紹介してくれた人物は眼鏡の向こうからにこり、と悟空に笑いかけた。
「へぇ、オレ、悟空。よろしくな!」
「ヨロシクオネガイシマス。チンイーソさんトテモ親切デス。色々ベンキョにナリマス」
「ところで生物部て何してるんだ?食い物??」
 よだれを垂らさんばかりの悟空。
「残念ながら違います。今回はスピネル君との共同研究ということで実地でリラクゼーシ
ョン効果について試験しているんです」
「り・・・リラク・・・???」
「言うなれば皆さんに日頃のストレスを解消してもらいましょう、ということです。悟空
先生も参加されてみますか?」
「え、うーん・・・・」
 でも、何か食いものとは違うみたいだし・・・・・と悟空。
 あくまで腹を満たすことが第一条件ならしい。


「悟空先生、そんな怪しげなものに参加されないほうがいいですよ」
 やはり現れた八戒。
 早速清一色と火花を散らしはじめた。
「怪しげとは心外ですね。今、話題のアロマテラピーに勝るとも劣らない効果がデータ
では出ているんですよ、ねぇスピネル君」
「ハイ、チンイーソさんの言うトオリデス」
 その手にはゆら〜んと妙な紫色の煙を出している香炉。
「コレ、トテモ画期テキデス。スピードノ2倍ノ効果アリマス。コレで気分スッキリデス」
「・・・・・・・スピード??走るやつの??」
「そういうのは”麻薬”というんですよ、犯罪です。やはり止めて正解でしたね」
「大丈夫ですよ、これはまだ指定されていない植物を使って作ってありますから」
 ・・・・・・・何が大丈夫なんだ、清一色。
「ということは、麻薬と同じ効果があることを認めているんですね」
「ははは、いやですねぇ〜。それ以上の効果があると言ってるじゃありませんか」
 余計悪い。
「とにかく、悟空先生。ここにいては危険です。あちらにバーベキューの出店がありまし
たからそちらに行きましょう」
「え、ホント!?行く行くっ♪」
 所詮、食い気な悟空なのであった。








「あっ!!!」
 八戒の言うバーベキューの出店なるものに向かっている途中、悟空が何かを思い
出したように立ち止まった。
「悟空先生?」
「やっべーっ忘れてたっ!!ごめんっ八戒!!オレ、ちょっと用事があるから!!」
「あ・・・・」
 八戒が引き止める間もなく悟空は背をむけて駆け出してしまった。
 敗れたり、八戒。







「あー忘れてたっ!!どうしよっ!!」
 大丈夫かなー、まだ居るかなー。
 悟空は校門へと走る。









「あっ!!」
 そして見つけた校門横。
 誰かを待つように佇む人影一つ。
「ナタクーっ!!」
 ぶんっぶんっと悟空がその人影に向かって手をふる。
「遅いっ!!」
「ごめんっナタク!!」
 手をあわせて不機嫌な顔をした幼馴染にあやまりたおす。
「どうせ忘れて食い歩いてたんだろう?」
「う゛・・・」
 まさに図星。
「ま、いいさ。いつものことだしな。それより案内してくれよ」
「うん!」
 わざわざ仕事の休みをとり、文化祭に遊びにきてくれた悟空の幼馴染、ナタク。
 普段は軍服を着て、命令を出している立場であるが今日は思いっきりラフな格好を
していてる。
「そうだ、悟空。お前のクラスも何かするって言ってたよな。そこ行こうぜ」
「そうだな。うん!オレも朝から顔だしてないし」
 それは担任として問題発言である。








「あっ、悟空先生!!」
「丁度いいところに!」
「さっきから探していたんですよ!」
 悟空の姿を見つけた生徒たちがわらわらと寄ってきた。
「な、何だぁ?」
「いつまでも帰ってきてくださらないんでどうしようかと思ってました。はい、これ着て
ウェイターして下さい!!」
 問答無用で服をおしつけられて悟空は奥へと押しやられる。
「おいおい・・・」
 取り残されたナタク。
「あ、どうぞ。こちらへ」
 生徒の一人がそんなナタクを席へと案内した。


「ちょ・・・っオレ、こんなのやだって!!」
 ナタクが注文をとって水を飲みながら待っていると何だか奥から騒々しい悟空の声が
聞こえてきた。
「何だ・・・?」
「悟空先生・・・何事もクラスのためです」
「そんなこと言われても・・・っぅわっ!!」
 

 おっとっと・・・とつまずきながら姿を現したのは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 黒地のプリーツのはいったミニスカートに、白いレースのブラウス。
 おまけにうさぎの耳までつけた悟空の姿。

 お盆を胸に抱えて、顔を赤くしている様は”やばいってそれ”と言わずにはいられない
ほどの可愛らしさだった。

「・・・・・・・・・」
 変わり果てた幼馴染の姿にナタクは声が出ない・・・・とういうより惚けている。

「「「しっかり注文とって下さいね!」」」
「う〜〜〜も・・・・・わかった!何でもこいっ!!」
 生徒一同に応援?されてやけっぱちになる悟空に声がかかった。
「こっちだ、悟空!!」
「金蝉っ!?・・・それに天ちゃんも、捲兄ちゃんも!!」
「こちらもお願いしますね〜♪」
「八戒!?・・・に三蔵!?悟浄!?」
 いったいいつのまに現れたのかしっかりと円卓をキープしている。
「何でいるんだよ〜〜〜っ!!!!」
 いくら開きなおった悟空とはいえ、こんなに知り合いがたくさんいる前では嫌にも
なる。
 だが悟空の背後では生徒たちが『先生、クラスのためです!』と一致団結して拳を
にぎりしめている。・・・・・その目は座りきっていた。
「はぁぁぁぁ」
 ふか〜いため息をつかずにはやってられない悟空だった。


「ご、ご注文は何にする?」
「”何になさいますか?”だろ〜♪」
 からかい半分の悟浄は調子にのって、ぴらりと悟空のミニスカートをめくった。

「・・・・っ!!!!」


「ありゃ、残念。スパッツはいてんのな〜悟空センセ」
「何すんだよっ!!」
 持っていたお盆で殴りかかってくる悟空をかわす悟浄は次の瞬間凍りついた。
「・・・・悟浄」
 絶対零度の声音とともに首筋にあてられた冷たい感触。
「・・・・・は、八戒・・・さん・・・?」
 振り向けばにこにこ笑顔の八戒の手に握られているのは銀製のナイフ。
 ・・・・・・・・・切れ味はすこぶる良さそうである。
「余計な行動は寿命を縮めますよ」
「・・・・・・・・・・・はい」
 そろそろと身をすくめる悟浄だった。






 そんな感じで文化祭一日目は過ぎていったのだった。












 



† あとがき †

文化祭一日目です。
二日目が今年中にUPできるといいなぁ・・・(遠い目)


さてさて投票のほうはトップ!!
焔さまが独走態勢に入っておりますっ!!!
どうした三蔵!!
このまま悟空の隣りを奪われてもいいのかっ!?
つづいては金蝉!!
もしかするとまだまだトップを狙える・・・かも?
外伝効果はいかにっ!?
その後を追う八戒。
こちらもまだまだ負けられません!!
どんな卑怯技が出るかわからないのがこの人だっ!!(おいおい)

次回。
劇『白雪姫』
果たしていったい誰が1番いい思いをするのか?
王子ばかりがいいとは限らないのが御華門の小説(笑)
小人だって十分狙える位置にいる!?


では、年内にお会いできることを願い

ご拝読ありがとうございましたっ!!

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