-第十一幕-
【その2】







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 可愛らしく、素直な白雪姫は人間だけではなく動物たちにも愛されておりました。
 今日も窓から空を見上げていた白雪姫は飛んできた小鳥たちにパン屑を与えて
おしゃべりしています。

 (ここで舞台にライト、悟空の姿が現れた)

 うぉぉ、とかきゃぁーっ・・・なんていう悲鳴とも歓声ともつかぬ声が客席より投げ
かけられているのは、やはり悟空のドレス姿があまりにはまっていたせいだろう。
 
 いつもなら耳もとまでしかない茶色の髪は背中まで流れる同色の長い鬘をかぶせ
られている。それだけでやんちゃな少年の顔は少女じみたものになる。
 着ているドレスは八戒が腕によりをかけて製作したもの・・・・淡いピンク色の生地
を素地に真っ白なレースが襟・袖・胸元・スカートとふんだんに装飾に使われ、頭に
はきらきら輝く金色のティアラをのせられていた。
 そしてうっすらと化粧がほどこされ・・・・・

 文句なしの『美少女』がそこにいた。



「さすが悟空、可愛らしいですねぇ」
 舞台のそでから天蓬がにこにことご機嫌でのたまう。
「・・・・ふん」
「あれだな、小さいころ思い出すな」
 幼いころは今のように髪をのばして無邪気に捲簾たちにからんできたものだ。
 ・・・・・・今もそうだと言えばそうなのだが。
「くーっ、本物だったら今すぐデートに誘うのにっ!!」
 そんな悟浄に一同の冷たい視線が突き刺さる。
「な、何だよ・・・お前らもそう思うだろうが・・なっ紅孩児!」
「な・・っ」
 突然にふられて慌てふためく紅孩児。
「お前、悟空先生お気に入りだもんな〜」
「・・・うるさい、お前には関係ないことだ」
「またまた〜〜」
「おい、うるさいぞ。静かにしろ」
 その間も舞台では劇は進み悟空が小鳥にやるはずのパン屑を自分で食べて、
八戒にブロックサインを出されている。

「・・・ちょっと腹減ってたんだよなぁ・・・てあ、劇の最中だった!・・・えーと・・・・
小鳥さんは今日も元気だな!!」
「白雪姫、あなたは何だか元気がないわ。どうしたの?」
「んーと・・・父様が新しいお母様をお迎えになったの・・・・それでオレ・・じゃない私
仲良くできるか心配で・・・・・」
「大丈夫、だって白雪姫は本当に優しいもの。きっと新しいお母様も愛してくださる
わ」
「・・・そうね、お父様が愛された方だもんなっ!」

―――しかし、新しい后は近所でも有名な魔女で、王様をだまくらかして王妃の
座を奪ったのでした―――

「鏡よ、鏡。この世で1番美しいのは誰だ?もちろんこの俺様だなっ!!」
 お后扮する理事観音はそれはそれは楽しげに鏡にむかって尋ねる。
 ・・・・・心なしか鏡に汗が流れていると思うのは気のせいか・・・・
『まことにこの世で最も美しいのはお后さまあなたです』
 木こり兼鏡の精役の二郎神が顔をひきつらせながら答える。
「ふっ、やっぱりなっ!!」
 こちらもハマリ役である。

―――そして月日は流れ、白雪姫は16歳の誕生日を迎えました―――

 白雪姫はますます美しくおなりあそばし、国一番の美少女となりました。

「鏡よ、鏡。この世で1番美しいのは誰だ?」
『お后さま、確かにあなたはお美しい。けれど白雪姫はもっと美しい』
 
 がしゃんっ!!べしっ!!ばごっ!!

 不用意な一言で鏡はその使命を終えた。
「ふっ・・・・木こり!!白雪姫を殺してこいっ!!」
「え・・・っ!?」
「世界で一番美しいのはこの俺だっ!!邪魔するやつは容赦せんっ!!」
「・・・・・・・はぁ」
 木こりは言い出したら聞かないお后の言葉に、しぶしぶ白雪姫を森へとつれて
出たのでした。


「なぁ、おっちゃんっ!!美味いもの食べさせてくれるって言ったけどまだ?」
「・・・・・・もう少しです」
「♪♪♪〜♪」
 白雪姫は木こりの『美味しいものを食べにつれていく』という言葉をまにうけ、一人
森の奥へ奥へとつれだされていました。
「白雪姫、すいませんっ!!ああ・・・不殺生を掟とする私にはとても白雪姫は殺せ
ませぬっ!!せめて城へは帰ってこられませぬようっ!」
「は?え?え?」
 突然に頭をさげられ、脱兎のごとく駆け出した二郎神を呆然と見つめる白雪姫。

「・・・・美味いもんは?」
 ・・・・・・・全く事情を理解していなかった。

 しかし、このままそこにいても仕方がありません。
 白雪姫は食べるものを探して森を彷徨いました。

「う〜腹へった〜・・・・何で食い物ないんだよぉ〜」
 木の実どころかきのこさえありません。
 このままでは白雪姫はひもじさに死んでしまいそうでした。

「・・・・・っ!?」
 白雪姫の嗅覚に食べ物の匂いっ!!
「食い物だっ!!」
 白雪姫はくんくんっとまるで犬のように鼻をきかせて、その匂いのもとを辿ります。

 そしてたどりついたそこには、可愛らしい家がありました。

「食い物〜〜っ!!!!」
 空腹の白雪姫にはそこが他人の家であることなど、頭の片隅にもなく・・・扉を
いきおいよくあけると暖炉でぐつぐつと湯気をたてている鍋に直行しました。
「すっげーうまそうっ!!!」
 白雪姫は手をあわせて、凄い勢いでたべはじめました。




「・・・・何かさぁ、悟空て地でいってねぇ?」
「何を今さら」
「美味しそうに食べてますね〜、腕によりをかけて作ったかいがありました」
「いよいよ俺たちの出番だな」




 さて、満腹になった白雪姫は森を一日中歩いていた疲れもあり・・・7つあるベッド
の一番はしの大きいものに身を横たえ、熟睡してしまいました。




「おいっ誰かいるぞっ!!」
「侵入者かっ!!」
「・・・・・」
「いや〜綺麗に食べてますね〜」
「・・・マジに熟睡してやがる」
「可愛いねぇ〜」
 と、ここで目を覚まさなければならないはずの悟空(白雪姫)は熟睡して起きる
様子はない。

「・・・・・・・この猿っ!」
 ばごっ!!
「っ痛っ〜〜〜っ☆☆」
 金蝉の一撃は悟空の頭をクリティカルヒットした。
 あまりの痛さに白雪姫は本気で涙をにじませる。
「本気で寝てんじゃねーっ!!」
「だからって殴らなくてもいいだろっ!!」
「はいはい、ここで喧嘩しないで下さいね、一応劇の最中ですから」
 一応なのか?
「・・でお前はいったい何なんだ?」
「オレ?オレは悟・・・じゃなくて白雪姫!!」
「お姫さまがな〜んでこんなとこに居るわけ?」
「ん〜美味いもん食べさせてくれるってついて来たら置いていかれた」
「「「「・・・・・・捨てられたんだな」」」」
 それもそうだろう、あの7人分の鍋の中身を一人でぺろりと食べつくす胃袋の
持ち主である。
 城のエンゲル係数は相当のものだったのだろう。
「オレ、捨てられたのか?」
 しゅん、と悲しげな様子に小人たちは胸をときめかします。
「・・・・ここで暮らしますか?」
「・・・え、いいのか?」
「いいですよね、皆さん」
「俺は全然構わないぜ〜」
「私も構いません」
「願ったり叶ったりだな」
「・・・・勝手にしろ」

「・・・・というわけで今日からあなたは家族の一員ですよ」
「ホントっ!?ありがとっ!!」
 白雪姫はあまりの嬉しさに小人たち一人一人の頬にちゅっとキスをしました。
 皆、まんざらでもない様子。

 そして7人の小人たちと白雪姫のなごやか(?)な生活ははじまりました。

 小人たちが働きに言っている間、白雪姫は家事全般をこなしていました。
 
 がしゃんっ!!
「あちゃ・・・・またお皿割っちゃった・・・・ま、いいか♪」
 時には失敗もありましたが。

 愛らしい白雪姫は小人たちの宝物でした。
 天真爛漫な笑顔。
 ちょっとした一言が疲れを癒してくれました。

「白雪姫、僕たちのこと好きですか?」
「うんっ好きーっ!!天ちゃんも捲兄ちゃんも金蝉も・・・・悟浄も紫鴛も是音も
紅孩児も大好きだよっ!!」
 

 しかし、そんな幸せも長くは続かなかったのです。
 



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