-欠落−











 三蔵は長安のはずれにある人里離れた寺院へ身を寄せていた。
 三仏神に命じられた牛魔王蘇生実験阻止については、天界へ戻り闘神として復活した焔がいとも
 容易く施設ごと、牛魔王を滅したため西へ向かう必要が無くなったのだ。
 もっとも、三蔵にとっては三仏神の命は二の次であり、本命は奪われた師の経文。
 だが、それさえも労せずして観世音菩薩の手により、嫌味付きではあったが三蔵の元へと戻された。

 西に向かう必要も、仲間と共にある必要も無くなった三蔵は元の大寺院へ戻ることも無く、檀家も
 抱えないただ、在るだけという寂れた寺院へただ一人で暮らしていた。

「三蔵は・・・一人、なんです」
「??」
 三蔵の近況を話し出した八戒に悟空が首を傾げる。
 それを知っているということは、少なくとも八戒は三蔵に会いに行っているのではないのか?
「いえ、三蔵は、一言も口をきいてくれないんです」
「・・・不機嫌なときは、だいたい無視されたけど・・・」
 いいえ、と八戒は首を振る。
「悟空が・・・いえ、正確には観世音菩薩が経文を手に現れて以来、三蔵は誰とも口をきかず、また
 視界へもいれません。何をしても、僕たちでさえ、居ないものとして扱われるんです」
「!?」
「見えているはずなのに・・・三蔵は、誰も視界に映ることを許さないんです」
「どう、して・・・」
「悟空」
 目を見開き、あえぐ悟空の手を焔が握る。
「・・・わかりません、三蔵の考えは。・・・でも、もしかすると悟空ならば、三蔵も許すかもしれません」


「・・・・・・。・・・・・・・無理、だよ・・・・・・それこそ許してなんかもらえない・・・・俺は、俺・・ずっと三蔵の
 傍に居るって言ったのに、それを裏切って・・・焔を選んだんだよ・・・?」
「悟空」
 悲しむ悟空の姿に耐え切れなくなった焔が立ち上がり、後ろから抱きしめた。
 今の悟空には、そのぬくもりだけが支えだった。

「なーに言ってんだよ。それこそあいつがはっきりしなかったのが悪ぃーんだろ」
「そうですよ、悟空。自身の立場に胡坐をかいて、悟空のことを思いやらなかった三蔵が元はと
 言えば悪いんです。自業自得というものです」
 悟浄と八戒は口々に悟空をなぐさめる。
 二人とも、悟空と会えなくなった元凶=三蔵には容赦がない。
「でも・・・っ」
 言い募る悟空に、八戒は柔らかい微笑を浮かべた。
「でも放っておけない・・・悟空ならそう言うでしょう?」
「・・・・う」
 見透かされている。
「だから、お願いです・・悟空。こんなことをあなたに頼むのは、僕としてもかなり・・・本気で嫌なんです
 けど、あんな腑抜けた三蔵を見るのはもっと嫌なんです。・・・気持ち悪くて」
「「・・・・・・・。・・・・・」」
 付け足したのが、八戒の本心なのだろう。焔と悟浄は何ともいえない視線を交わす。

「三蔵に、会いに行きませんか?」
 
 八戒の言葉に、悟空は迷うことなく頷いた。







   

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