−今昔如何−
「悟空、お前が黙って俺たちの前から消えて以来だな。元気そうで何より」 「・・・・悟浄・・・・・何で・・・」 何故悟浄がここに居るのか。 悟空が悟浄・・・三蔵たち三人たちと別れたときはまだ西へ向けての旅の途中だったはず。 それともここはその牛魔王の城なのだろうか? 「・・・ふ、落ちたな。ついに狂ったか?お前がここの親玉なのだろう?」 混乱する悟空に焔がさらに混乱する言葉を放った。 親玉・・・て、狂った・・て・・・・ 「いや〜別に狂ってねぇけど?いちおーまだ正常。でも親玉っていうのは正解。せめてボスっ て言ってくれよ。そのほうがカッコイイだろ?」 「・・・ご、悟浄っ!!」 城壁にもたれかかってにやにやと見慣れた笑いを浮かべている。 「どちらでもこちらには関係ない。沙悟浄、神の名をもってお前を討伐する」 「焔っ!」 何で、どうして悟浄を・・・と悟空は焔の腕を掴んだ。 「悟空、お前は下がっていろ」 「はははっ、こりゃいいね。前と立場が反対になったわけだ」 「悟浄っ!」 焔は本気だ。それなのにいつものおどけた様子を崩さない悟浄へ叫ぶ。 その悟浄の目がやっと真っ直ぐに悟空へ向いた。 「お前が悪いんだぜ、悟空?」 「・・・・っ!?」 「お前が・・・そいつのところに行って、しばらくは三人で西に向かっていただがな。どう考え ても俺ら三人がお前なしにもつわけがない。ささいな喧嘩がヒートアップしてあっさり空中 分解てわけ。で、することないから俺はこーして暇つぶししてんの。そしたら勝手に妖怪たち が集まってきやがってあれよあれよという間にこの立場。わかった?」 「・・・・・・・・。・・・・・・」 「ま、確かにもともとの元凶は三蔵だろうさ。あの生臭坊主がはっきりしないせいでお前は そっちの焔を選んだ。・・・・・・・俺たちを捨てて」 「っ俺は!」 痛みを覚えるような悟空の悲痛な叫び。 「悟空を責めるのはそのくらいにしておけ。恨むなら悟空を留め置けなかった自分たちの 不甲斐なさを恨むんだな」 「おーおー、選ばれたモノは強気の発言するね〜」 悟空はいたたまれない気持ちでいっぱいだった。 悟空にとっては、三人を捨てたという気持ちは無い。三蔵、八戒、悟浄・・三人は悟空が居な くてもちゃんと立っていられる人たちだからと。 そう思って焔のもとに来たのに・・・それなのに。 「是音。ここで悟空を見ていろ。片は俺がつける、すぐにな」 「了解」 「焔っ!・・・悟浄は」 「悟空、待っていろ」 闘神である焔に与えられた使命は標的を抹殺すること。 焔は悟空にかつての仲間が殺されるところなど見せたくはなかった。 「・・・・嫌だっ!」 悟空は大声で叫んだ。 「嫌だっ!悟浄が殺されるなんて!焔が殺すのも嫌だっ!俺は・・・誰にも死んで欲しくないっ!」 「悟空」 「悟浄が・・っ俺のせいだっていうんなら・・・・・俺を殺してもいいからっ!だから悟浄は・・・っ」 焔が困ったように悟空の肩に手を置いた。 「悟空、無理を言うな。俺にお前が殺せるわけが無いだろう。自分の命より大切なお前を」 「お願い焔・・・悟浄を殺さないで・・・」 「悟空」 「悟浄は・・・エロガッパでスケコマシで、いつも俺のことからかってばかりのむかつく奴だけど でも!俺の・・・俺の仲間なんだ」 必死で訴える悟空の金色の目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。 悟空は滅多に泣かない。似合いもしない。 その悟空をここまで泣かせることになったのは・・・・ 「悟空・・・」 焔は悟空を抱きしめた。 悟空がこれほどに苦しんでいるのは目の前の悟浄でも、三蔵でも無い。 己を選ばせた焔自身のせいだ。 いつかこんな日が来るのではなかろうかと恐れていた。 「泣くな、悟空。・・・お前が泣くと、どうしていいかわからなくなる」 次々とあふれ出る涙を手のひらで受け止め、その頬に口づける。 「悟空・・・」 「焔・・・」 見つめ合う二人。 「・・・ていうのは冗談で〜・・・て言おうとしたんだけどな。聞いちゃいねぇ・・・」 何か、いちゃついてやがるし・・と高みから二人の様子を見ていた悟浄がやさぐれる。 「貴様、許さんぞ」 向き直った焔が手の青龍刀を振り下ろす。 「っどわっ!・・・だから冗談だって言ってるだろうがっ!」 青龍刀から放たれた衝撃が悟浄のもたれかかっていた城壁の一部をえぐる。 「貴様が敵であろうと味方であろうと、悟空を泣かせた奴は俺が許さん!」 「だあっ!お前はそれでも神様かっ!」 次々と放たれる衝撃破を巧みに避けながら・・・悟浄は悟空のもとまで降りてきた。 「悪ぃ。お前は泣かすつもりはなかったんだけどな・・・いきなり消えたお前に俺たちが心配 したのは本当だ」 「・・・悟浄、俺・・・・・・ごめん」 「謝らなくていいって、俺だってお前に泣かれるのは・・・つらい」 「自分が泣かせたのだろうが」 「横からうるせーつぅの。だいたい元凶はあんただろうがっ!悟空を掻っ攫いやがって」 「俺を選んだのは悟空だ」 「この・・っ!」 ぬけぬけと言い放った焔に悟浄はさすがにキレそうになる。 「おいおい、焔。そこらへんにしとけって。・・・悟空をまた泣かせたいのか?」 今までずっと傍観者をきどっていた是音が焔をおさえる。 「倦簾・・じゃねぇ、お前だって言っていい冗談と悪いもんがあるってくらいわかるだろうが」 「ああ、悪かった。すまない、悟空」 真面目な表情を浮かべた悟浄が悟空に頭を下げる。 一緒に居たころには一度も見たことがないそれに悟空は目を見開いた。 「俺がここに居たのは街の人間にここを根城にして悪さする妖怪に困ってるて言われて 退治しにきてただけだ。ちょっとした退屈しのぎのつもりだったんだけどな、外が騒がしく なって何事かと思ったら・・・・お前がいるからさ・・・・悟空」 悟浄は悟空の頭を引き寄せ、抱きしめた。 「・・・会いたかったぜ」 「・・・・・・悟浄」 悟浄の言葉が本当だとわかるから、悟空は素直に悟浄に引き寄せられた。 本当に心配していてくれたのだと、わかったから。 「悟空、八戒もこの近くに住んでいるんだ。会いに・・・行ってやらないか?」 「うん。行く」 「悟空っ!」 自分を放って進む話に焔が叫んだ。 「焔・・・行ってもいいよな?」 「う・・・・」 弱い。焔は悟空の”お願い”にとてつもなく弱い。 首を傾げて頼まれれば、嫌とは言えない。 「・・・いいだろう。だが!俺もついていく」 「おいおい。大将は仕事があるだろうが・・・」 「ふ、そんなものはお前にまかせる」 まかせるな。 ここに紫鴛が居たなら無表情で焔を連れ帰っただろうが、あいにくここに居るのは是音である。 是音は何のかの言いつつも、焔に逆らうことは滅多に無い。 「・・・ったく、紫鴛にバレないうちに帰れよ」 すでにバレているかもしれない可能性があるとは考えないのか。 「ありがとうっ、是音!」 「悟空、焔を頼むぜ」 「うん!」 |