SeneX










「あーもう、暇なんだよねー」
 岩の上にだらんと手足をのばしてそう愚痴をもらしたのは魔王=カミサマである。
 先日、そもそも己を呼び出した清一色を無くし、本来ならば魔界に帰らねばならないところを
”どうせ帰ってもつまんないし”とこちらの世界に留まっているのである。
 
 ぱさり、と清一色から手渡された紙をめくる。
 そこにあるのは名前と身分・・・・が、こちらの世界の住人ではないカミサマには意味不明
だった。
「・・・・しょうがないから手近なところで面白そうなの探そう♪」

 一瞬後、カミサマの姿は消えていた。











「ああ、国境ですね」
 精霊を追うべく花果山から天竺皇国へと足を向けた三蔵一行はサイツェの町の門前にいた。
「・・・で、どこだ?」
 三蔵は不機嫌なまま変化したジープに問い掛けた。
「・・・あちらだな」
 こちらも三蔵に負けず憮然とした声で・・・・これが地だ・・・・町の方角を指差した。
「ということは、町の中に入らないといけませんね」
「そうだな」
「・・・?何だ?何か問題でもあるのか?」
 何故か町の中に入ることを確認しあう三蔵と八戒に事態を一人理解していない悟浄は首を傾げる。
「悟浄、あなたパスポート持ってます?」
「はぁ?」
「あの町に入るには必要なんですよ・・・ほら、一応僕たち桃源王国から来たわけですし・・・とりあえず
僕は持ってます。あ、ジープは元の姿に戻ればいいので必要ありません」
「僧侶に国境は関係ない」
 By三蔵。
「・・・・・つまり俺だけ無いと?」
 三蔵と八戒は頷いた。
「マジ?」
「マジ、です♪」
「俺は先に行くぞ」
「僕も野宿する気はさらさらありませんから」
「・・・・・・お前ら仲間を思いやろうて気持ちがないわけ?」
「誰が仲間だ」
「はははははは」
 思いやる気は無いらしい。
「・・・・・・・・わかった、不法侵入すればいいんだろ」
「はい、そうして下さい♪」
 あっさりと言い放った八戒。
「さっさと行くぞ」
 こちらは元から眼中にない。
 ちょっとキレそうになった悟浄だった。



「それじゃあ、宿が決まったら黄色いハンカチをくくっておきますからね〜」
 有り難いの何なのかよくわからない言葉を悟浄に告げて二人と一匹はサイツェの門をくぐった。
「さっさと案内しろ」
 三文節以上の会話はしていないような気がする三蔵は相変わらず倣岸不遜、傍若無人がよく似合う。
「ジープ、よろしくお願いしますね」
「ああ、わかっている」
 白竜の姿から再び人間の姿に戻ったジープは通りを先導して歩いていく。
「ああ、やっぱり桃源王国とは違った食材がたくさんありますね〜。ああ、料理人魂が刺激されます」
 大通りに並ぶ店々の食材たち。
 コック八戒には魅力的な品々ならしい。
「ああ、このちょっといびつでオレンジと緑のイボがあるのなんか素敵ですね〜vv」
 ・・・・三蔵が見る限りそれは食欲を殺ぐこと限りない外形をしている。
「買ってもいいですか?」
「いらん」
 もちろん即却下。
 八戒は残念そうな顔を再び違う食材へと向ける。
「ああ、これなんかちょっとへにゃんとしてて歯ごたえ悪そうなところがやみつきになりそうじゃ
ありませんか?」
「・・・・誰がなるか」
 正体不明の紫色の物体をふにふにと触る八戒に三蔵の眉間に皺が増える。
 そして恐ろしい考えが浮かんだ。
 ・・・・このサイツェに来るまで幾度が八戒の作るものを口にした。
 そして、今。
 八戒の選ぶ食材にまともなものは無いと証明され・・・・・すると・・・・・・これまで己が口に入れて
きたものたちは・・・・・・・・・・・・

 即座に三蔵は考えるのを止めた。
 懸命だろう。

「ところでジープ、精霊の気配はまだ遠いですか?」
「いや、近い・・・・もう、ほとんど・・・・このあたり・・・・・」
 と告げるとジープはポンッと元の白竜の姿へ戻り、きゅいーっと空を飛んだ。












「ぷはーっ!うまかったぁっ!!」
 テーブルいっぱいに積み上げられた皿に囲まれた悟空は歓声をあげた。
「そうか、良かったな」
 焔は食後の紅茶を口にしながらそれを満足そうに眺めた。
「・・・・・いったいどこに入っていったんだ?」
 店の全メニューを3人前たいらげた悟空に是音は呆れた。
 紫鴛に表面上の動揺は現れていない。
「満足したか?」
「うんっ!」
 尋ねる焔に満面の笑みで答えた悟空は「でも・・・」と続ける。
「またちょっとしたら腹減るかも・・・」
「そのときはまた食べればいい」
「いいの?」
「構わん」
「へへっ♪」
 すっかり焔になついた悟空である。
「それでは、そろそろ向かいましょうか」
 花果山へ。
 このままほのぼのモードに突入しそうな主君に参謀役はきっちり仕事をこなす。
「そうだな」
「え?どこ??」
 席を立ち上がった三人にただ一人悟空はわけがわからずそれぞれの顔を見回す。
「この近くの山だ。俺たちはそこに用があるんでな」
「ふーん」





 ピーーッ!





 と、そこへ。
 一匹の白竜が鳴き声をあげながら現れ、悟空の肩へと旋回しながら降り立った。
「わっ・・・と??え?お前、いったい何?」
 一瞬驚いた悟空だったが擦り寄る白竜の首をなでてやる。



「お前かっ!」
 そこへ再びいきなり悟空は腕をひっぱられた。



「え?え?え?」
 混乱して見上げた先には、きらきらと輝く金髪に縁取られた端整な顔。
 悟空は思わず見惚れた。
 すっげー綺麗・・・・と。


「「「「「「「三蔵!!」」」」」」」」
 それを傍で見ていた焔、紫鴛、是音・・・カウンターに居た金蝉、天蓬、倦簾の声が重なった。

「おやおや、皆さんお揃いですか」
 それをにこやかに観察する八戒。
「・・・・・・金蝉か・・・・・それにてめーは、焔。何で貴様らがここに居る?」
 悟空と三蔵を取り囲む形になった一同に三蔵が不機嫌に尋ねる。
「それはこちらのセリフだ」
 焔は三蔵とは反対の悟空の腕をとりながら訝しげに答えた。
「三蔵・・・何でここに居る?花果山に向かったはずじゃないのか?」
 金蝉の問いに三蔵は答える。
「花果山に目的のものはもう無い」
「何?」
「ちょっと待って下さい」
 紫鴛が穏やかに割りこんだ。
「どうやら、桃源の方々は花果山に何があるかご存知のようですね」
「てめーらもな」
「それが無い・・・とはいったいどういうわけなのですか?」
「無いものは無い。それ以上の意味も無い」
 人の神経を逆なですること限りないセリフを吐く三蔵。
 場には殺気が巻き起こる。





「なぁ、あんた誰?」
 その場の緊張した状況にも気づかず、のほほんとした幼い声が三蔵に問うた。
 悟空である。

「悟空」
 焔が何か感じたのか悟空の名を呼んだ。


「・・・・・・・・三蔵、だ」
「さんぞう・・・・・・・・」
 それは焔の名前を聞いたときと同じくらいに悟空の中に染み渡った。
 

(オレ・・・・知ってる・・・・・・・・知ってる・・・・・・・・・・・・・・何で?)
 
 呆然と三蔵を見上げる悟空の頬にほろりと涙が一粒零れた。


「バカ猿・・・・」
「悟空・・・」


(そういつか・・・・そうやって優しくオレのことを呼んでくれた人たちが居た・・・・・・)













「あれ〜、このへんに強い気を感じたんだけどなぁ・・・??」
 空間から姿を現したカミサマは赤や黄色や青・・・色々な太さのコードが縦横無尽に覆い尽くす部屋で
首をかしげた。

「住居不法侵入で訴えますよ♪」
 うさぎのぬいぐるみを持った最遊帝国参謀ニィ博士は部屋の入り口で笑顔で告げた。
「あ〜見つけた♪君だよ、君」
「さて、僕にあなたのような知り合いは居ないんですけどねぇ〜」
「うん、僕も君のこと知らない。でもね・・・力は感じるんだよね」
「さて、何のことやら」
 含みある邪笑のにらみ合い。
 カミサマは明るく告げた。


「殺されてよ、ね♪」
 その言葉と共に部屋には各所から火花があがり暗闇が訪れた。
 
 


 静けさの戻った部屋の中で、ぽとりと落ちたのは白いウサギと煙草の明かり。
 床には黒い染みが広がった。
















† あとがき †

ちょっと悟空に関しての謎設定が出せました♪
最遊帝国ペア(・・・てもうペアじゃないけど/笑)以外は皆合流いたしました!
5でやっとというあたりが・・・(涙)
ようやく争奪戦はスタートラインといったところです。
(・・・え?紅孩児はどうしたって?/笑)
それにしても投票は三蔵ファン恐るべし!といった感じです。
あれだけの票を入れるのは相当大変だと思うんですよね(しみじみ)
頑張れ!焔ファン!(笑)
そして今回の抹殺はあの方(笑)
最遊帝国は人材不足でヤバイです(笑)

では、また次回に。
ご拝読ありがとうございましたm(__)m






  Sene W   SeneY



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