Sene W










「・・・・・・これはいったいどういうことなんだ?」
 三蔵は今にも発砲しそうな殺気を放ちながら背後にいる二人・・・いや、独り言のように呟いた。
「どういうことなんでしょうね〜」
 そんな殺気も何のその。
 コック八戒は相変わらず一点の曇りもない白衣をまとってなごやかに答える。
「俺らに聞かれてもなぁ?」
 悟浄の頬に冷たい汗が流れる。


 はるばる、桃源王国から花果山へ。
 頂上は雲の遥か上に位置するその花果山を登るのはなんと手間のいったことか。
 そして、やっとたどり着いた頂上。
 そこには一つの洞窟があった。
 

 ・・・・・・・洞窟だけが。


「精霊とやらはどうしたんだ?」
 三蔵の声が地を這う。
 きっと今ならば視線だけで人が殺せるだろう。
「そうですねぇ、地面の土のへこみ具合からみて確かに誰かここに居たことは間違いないよう
ですが・・・・・さて」
「用足しに行ったとか?」
「それにしては人の気配が全く感じられません。だいたい精霊といっても自分の意志を持った
存在でしょう。僕たちが来るのを動かずここで待っていると思うのがそもそもの間違いなのでは
ありませんか?」
「・・・・・ちっ」
 八戒の実に的を射た分析に三蔵は舌打ちをもらした。
「どうしますか?」
「探しに行くのか?精霊とやらを」
 二人は三蔵に問う。
 何といっても三蔵がリーダーだ。

「・・・・・戻る」
「どこへですか?」
「義務は果たしてやったんだ。俺は職場に戻る」
 つまり寺院に帰るというわけだ。
 三蔵は言葉どおり二人に背を向けて山を下り始める。
 その背中へ八戒がぽつりと。
「・・・光明さまはどう仰るでしょうねぇ」
 ぴくりと僅かだったが三蔵の背中がゆれた。
「精霊というものをご覧になるのをかなり楽しみにしていらっしゃったようですけど」
「・・・会ったのか、貴様」
「ええ、僕のお店にお食事に来て下さったんです。それは美味しいとお気に召していただいて
ぜひあなたのお供にと請われまして」
「・・・・・・ちっ」
 この世で唯一の三蔵のアキレス=光明。
 『知ったことか!』と思いつつ”江流”とにこやかに微笑む光明の笑顔が脳裏にちらついて
 離れない。
「・・・・探せ」
「は?何を?」

 ガウンッガウンッ!!

「決まってるだろうが、精霊だよ、精霊!」
 キレた三蔵さまはここが洞窟だということも忘れて発砲した。
 ミシっと音がして、岩壁にひびが入る。
「仕方ありませんねぇ・・・ちょっと占ってみましょうか」
 といった八戒は白衣のポケットから一枚のカードを取り出して白竜にくわえさせた。
「それじゃあ頼みますよ」
「ピーッ」

 一声鳴いてくるっと宙で一回転した白竜。


 ポンッ!


「うおっ!何だっ!?」
 悟浄は目の前にいきなり現れた銀髪の男に口にくわえていたタバコをぽとりと落とす。
「何だ、貴様は・・・」
 三蔵も露骨に怪しげな視線を向ける。
「いやですねぇ、どこからどう見ても白竜じゃありませんか」
 ・・・・・・・・・いったいどのあたりが?
 悟浄は心の中で突っ込んだ。
「それじゃあ、白竜。消えた精霊の気配を辿ってくれますか?」
「あい、わかった」
 表情を変えないままに頷いた白竜は目を閉じ、気を研ぎ澄ませる。


「・・・あちらだな」
 やがて白竜は北・・・・・天竺皇国を指差したのだった。









「さぁ、今日も頑張りましょう!」
 朝からきらーんっと笑顔もまぶしい天蓬に残る二人はうんざりした顔になる。
「てめぇは朝から鬱陶しい」
「・・・何でそんな元気なわけ?」
「何しろ僕は2位!!ですからね2位!!怖いもの無しです!!」
 ・・・・・何の2位なんだよ・・・・・
 とにかく天蓬は毒づく二人も何のその、まさに無敵だった。
「さっさと起きてくださいよ、精霊まですぐそこなんですから!たちを待っているんですから」
 微妙に”僕”に力を入れた天蓬はすでに準備万端、いつでもOK!の装いになっている。
「「・・・・・・・・はぁ」」
 今回ばかりは金蝉と倦簾は同時にため息をつくしかなかった。


「僕の予感ではもうすぐ精霊に会えます」
「・・・・何を根拠に」
 自身満々な天蓬に金蝉が眉ねを寄せる。
 ついでに一行は朝食をとるために宿の食堂におりていた。
「それは”勘”です♪」
「・・・・・・・・」
 そんなあやふやなものが信じられるかと言いたいところだったが天蓬の勘はただの勘ではない。
 経験と知識、観察により導き出された「勘」である。
 それを説明しろ、と金蝉が目でうながす。
「では・・・ちょっと後ろ、隅のテーブルのあたりを見ていただけますか?あ、ちらっとですよ。
気づかれてはいけませんからね」
「「あぁ?」」
 金蝉と倦簾は仕草に紛れて天蓬の言う場所に視線を走らせる。
「・・・!おい・・ありゃぁ」
 己の見間違いかと再びそちらに視線を向けようとした倦簾の頭を天蓬が戻す。
 ぐきっ・・・という妙な音がしたのは聞き間違いか・・・・。
「・・・・・焔じゃねーか」
 金蝉が見覚えのある顔に苦々しく呟きをもらす。
「焔だけじゃねぇ、紫鴛も是音もいるぜ」
「どうやら、天竺皇国首脳部が勢ぞろい・・・ですね」
「・・・何だか知らないおまけが居るがな」
 焔の隣には一心不乱に皿をかきこむ小さな体がある。
 顔は見えないが・・・・動きにあわせて大地色の髪がぴんぴん揺れている。
「いくらここが天竺皇国の領内といえど、こんな辺境にあの3人が揃うなんて妙だと思いませんか?」
 天蓬の言葉にもっともだ、と頷く二人。
「おそらく・・・・」
 その先は言わずとわかる。
 おそらく、あの3人(4人か?)は金蝉たちと同じ目的でやって来ているに違いない。
「ふふふ・・・やっぱり楽しくなりそうですねぇ」
 天蓬は上機嫌。
「・・・・・ちっ、めんどくせぇ」
 金蝉は不機嫌。
「久しぶりだな、是音と手合わせするのは」
 倦簾は武人の血が騒ぐらしい。









 
「・・・悟空」
 囁きかけるような声に悟空がうっすらと目を開ける。
「悟空」
「ん・・・・・ほむら?」
 寝起きの舌足らずな悟空の声に焔の頬が自然に緩む。
「もう、朝だぞ」
「・・・朝」
 ごそごそと身じろぐ悟空は焔の腕の中にいた。
 これには少々わけがある。
 昨日、悟空の同伴を決定した焔一向だったが、そのときにはすでに宿をとっており、当然人数分
しか用意していなかったのだ。
 空き部屋を探したのだがあいにく満室で仕方が無く悟空は焔の部屋に泊まることになった。
 まぁ、ソファでいいという悟空を広いからという理由でベッドに誘ったのは焔なのだが・・・。
「食事はいいのか?」
 依然、寝ぼけたままの悟空に焔が問い掛ける。
 その問いかけの効き目は凄まじかった。
 ばちんっ!と目を見開いた悟空は「腹減った!メシっ!」と叫ぶと焔を吹き飛ばす勢いで跳ね起きた。
 どうやら、ようやく覚醒したらしい。

「おはよう、悟空」
「あ・・・おはよう、焔」
「着替えて準備したら、下に。食堂がある」
「わかった!」
 悟空は一目散に準備を・・・といっても上着を着るだけだが・・・・すると焔の後につづいた。


「さて、何を食べる?」
「んー」
 焔の差し出したメニューを端から端まで悟空は目をやる。
「あー、オレ・・・・・・・・・読めないや♪」
 がくっと体を揺らす焔、紫鴛、是音。
 だったら今の行動はいったい何だったのか?
「では、適当に頼むぞ」
 気を取り直した焔が悟空に言う。
「うんっ!焔にまかせる!」
 にっこり笑った悟空に焔は頷くと、給仕を呼び寄せメニューに載っている料理を片端から頼み出した
のであった。
 さすが皇帝、太っ腹!



「焔、是音・・・気づきましたか?」
「あん?」
 突然、不明な問いかけをする紫鴛を是音がいぶかしげに見る。
 焔は別に変わりなく、悟空は食事中(夢中)だ。
「・・・・あちらのカウンター寄りのテーブルです」
「あぁ?・・・・・・・・ておい」
 紫鴛の言葉に目をやった是音は大きく目を見開いた。
「ありゃぁ・・・桃源の・・・・・・・」
「ええ、他人の空似ではないでしょう。3人揃っているとなると」
「俺たちと同じ狙いだろう」
 焔は表情を崩さない。
「どうしますか?」
「放っておけ・・・・・・・・・・俺たちの邪魔をしない間はな」
「なるほど」
「・・・・邪魔になればやっちゃっていいわけ?」
「好きにしろ」
 焔の言葉に是音の口元に不穏な笑みが浮かんだ。
 








 



 


† あとがき †

ちょっと体調不良により遅れてしまいましたが何とかUP♪
やっと一つかち合いましたね(笑)
おそらく次あたりは三蔵たちも合流できるのでは・・・・
紅孩児はそのころ何してるかな〜(おいっ/笑)
今回は誰も落ちませんでした(笑)
話の都合上カミサマ出してると長くなりそうだったので(苦笑)
御華門は白竜の変身が書けて満足、満足♪
書く前に落ちたらどうしよう・・・と投票見ながらドキドキしてましたから(笑)

それでは、次回にまた!
(^×^)/~





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