≫8 駆引 





愛している・・・お前だけを
















「・・・ここ、ですか?」
 八戒の問いに無言で頷いた三蔵はジープから降りるとさっさと中へ入っていく。


 そこは香港では珍しい、地味な仏教の寺院だった。
 

「・・・三蔵と寺か・・・合わねぇな」
 悟浄もぽつりと漏らす。
 およそ信心などとはほど遠いところに居る三蔵がまさか寺院に足を向けるとは。
「”三蔵”というのは・・・本当のところただの肩書きじゃなかったのかもしれませんね」
「ま、こんなとこでうだうだ考えても仕方ねぇし・・・さっさと入ろうぜ」
「ええ、悟浄。ちゃんと悟空を連れて行って下さいね」
 笑顔で言う八戒は悟浄に一番の重労働を割り振った。
 かなり荒い運転のジープの中でも悟空はすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。
 いや、正確には眠らされていたのだが・・・。





 見た目は古そうな寺院だったが、ちゃんと掃除がされているようで埃一つない。
 人の気配は無いから、おそらく信者の誰かが掃除に来ているのだろう。
「三蔵」
「適当にしろ。武器はこっちだ」
「・・・・・・」
 全く事情を説明する気が無いらしい三蔵にさすがの八戒も顔がひきつる。
 しかも武器?
「武器があるんですか?」
「ああ。ここは隠すに丁度いいからな」
 不信心な、と思うほど八戒も信心深くない。
「悟空をどこか寝かせておく場所がありませんか?悟浄がいつ落とすか心配で・・」
「おいっ!」
 八戒の後ろから悟空を抱き上げて入ってくる悟浄が文句を言った。
「奥の部屋にベッドがある。そこへ運んでおけ」
「ということで、よろしくお願いしますね。悟浄」
「・・・・・・・へいへい」
 疲れたように返事をかえすと悟浄は言われた通りに奥の部屋へ消えていった。
 それを見送り、八戒は武器を見繕いはじめた三蔵に改めて視線を向ける。
「・・・三蔵。武器の調達も必要でしょうが・・・この香港から出る方法も・・・」
「それは心配するな。すでに手は打っている」
「そうですか」
 わかりました、と八戒は頷く。
 三蔵がそういうのなら”可能”だということなのだ。出来ないことは言わない。

「・・・で、どうすんのよ?」
 悟空を置いてきたらしい悟浄が現れる。
「港へ行く」
「船ですか・・・無事には辿りつけませんね。焔たちも警戒しているでしょうし・・・」
「その武器で応戦するってか?」
「好きなものを選べ。足で纏いは捨てていく」
 つまり、行きたければ己の命は己で守れと。
「落ち合う場所は・・・・」
「わかりました」
「りょーかい」





 ズガガガッッ!!!





「ちっ、もう嗅ぎ付けやがったか」
「おいおい、今の音・・・機関銃だぜ・・・いいのかよ、そんなもんぶっ放して・・・」
「どうせ裏で警察と繋がっているんでしょう。それよりも悟空を」
「八戒、裏へジープをまわせ。連れて行く。悟浄、てめーはここで食い止めろ」
「へいへい・・・ったく俺が一番貧乏くじなんだからな」
 はっきり言って命の保障は無い。
 だが三蔵と八戒は悟浄をおいていく。見捨てるのでは、無い。
「まかせましたよ、悟浄」
「はいは〜い、と」
 それだけの修羅場をくぐってきた。必ず生きて帰るという暗黙の了解がある。
 三蔵と八戒は背を向け、走り出した。

「さて、と・・・」
 悟浄はすぐに姿を現すだろう敵のために銃を2,3丁持ち、手榴弾をいくつかズボン
 のポケットに忍ばせると近くの部屋へ姿を隠した。
 多数を相手に正面からぶつかるほど馬鹿では無い。

 (早く来いよ〜・・)

 ・・・・が、待ち受ける悟浄の元へ近寄ってくる気配はただ一つ。

 (・・・どういうことだ?)
 

 ダダダダダッ!!


 扉の形に弾が打ち込まれ、ガシャンッという音とともに瓦礫と化す。
 男が一人、その瓦礫を踏み越えて部屋に入ってきた。
 確か、”是音”と呼ばれていた男だと悟浄は思い出す。

 (他の奴らは・・・)


「残念だったな。焔たちは悟空を追ったぜ?」
 男が壁で見えるはずの無い悟浄に向かって声を発した。

(・・・ったく、やっぱ貧乏くじかよ・・っ)

 内心舌打ちする悟浄に男――是音がくっくっと笑いを漏らした。
「俺たちの裏をかこうとしたんだろうがな・・・悟空が居る場所ならどこでも焔は
 見つけ出す・・・・たとえそれが地獄であろうと」
「・・・・それは凄まじいことで・・・・」
 どうせ居場所は向こうにわかっているのだ。悟浄は声を発した。
「お前も中途半端に悟空に近づくな。命が惜しいならここで手を引くんだな」
「ご丁寧な忠告ありがとさん・・・・けどな」


 ガウンッガウンッ!!


「俺って他人に指図されるのが一番嫌いなのさ」
「損な性分だな」

 悟浄の不意打ちを難なく避けた相手は楽しそうに返した。







  


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