≫5 錯 綜
追いすがる影に
逃げて
逃げて逃げて逃げて逃げて―――――・・・
「悟空っ」 「・・・んっ」 薄暗い中に、青と金の光が見える。 「・・・ほむ、ら・・・?」 「どうした?魘されていたようだが・・・」 「ん・・・」 先ほどまで夢の世界に居た悟空には今の状況がよくわからない。 ぼう・・とした頭で悟空を覗き込む焔を見ながら・・・今はまだ夜なのかな、と 暗い部屋に思ってみたりする。 ぎしっと音がして焔がベッドから下りると、ベッドヘッドに備えつけてある水差し からグラスに水を注いでいる。 「喉は渇かないか?」 「・・ん、渇いた・・・」 焔からグラスを受け取ろうと身を起こした悟空を、焔は手で制するとグラスの 中身を己の口に含み、悟空に覆いかぶさり口伝いに水を飲ませた。 「んっ・・・」 喉がごくりとなり、飲みきれなかった水が筋となって口元を伝い落ちていく。 そのまま焔は悟空の唇を貪り、悟空の手が抗議するように焔の胸元を叩くころ 漸く解放してやった。 悟空の目はすっかり覚め、目が涙で潤んでいる。 「・・・焔の、バカ・・・」 「くっくっく・・これでもう悪夢など忘れてしまっただろう?」 「・・・・・そう、だけどさ・・・」 何だか納得できない悟空だったがこんな焔に言っても無駄なだけとわかっている のかすねたように顔をぷいっと背けるとシーツに押し付ける。 子供っぽい悟空の仕草に焔の顔に笑みが浮かぶがこれ以上機嫌を損ねさせては 後が大変になるので、焔は静かに悟空の隣へ横になった。 「もう少し寝るといい。朝までまだ時間がある」 「・・・うん・・・」 悟空はくるりと反転すると焔の胸元にうずくまるように身を丸める。 焔はそんな悟空の体を抱きしめ、ぬくもりの中二人は再び目を閉じた。 「焔が日本人?それは確かなんですか?」 黒天に潜入していた八戒は三蔵からの呼び出しに出向いてみれば、待っていたのは 煙幕に覆われたホテルの一室と昼間から酒を嗜む悟浄だった。 「悟浄に裏づけを取らせた。まず間違いないようだ」 三蔵の言葉に悟浄がそうそう、と相槌を打つ。 「・・・そうですか、焔が・・・では、もしかして悟空と何かそちらで関わりが・・・?」 「いや、それはまだわかってねーんだわ。国籍もすげぇ巧妙に操作されててな、半端 なことじゃちょっと調べようが無いくらいだなったな」 「日本での前身はまだ明らかになっていない。だが、あれほど目立つ容姿だ。すぐに 判明するだろう」 「なかなか手強いですね。さすが金蝉総帥が手をやいて僕たちにまわしてきただけ あるヤマですね」 「ホントだぜ。普通に家出少年を連れて帰るだけならさっさとガキをさらってでも 日本へ強制送還すりゃいいんだが・・・」 「見張りが終始はりついてますしね。ちょっとあの警備を巻くのは無理ですよ」 「よほどご執心なわけか・・・そんないいかね、あんなガキが」 俺はもっとグラマラスな美女がいい、と空になったグラスにブランデーを注ぐ悟浄。 そのボトルもすでに3分の2が消えている。 「いいですよ。本当に・・一緒に居ると放したくなくなるかもしれません」 「おいおい、ミイラ取りがミイラになってじゃねぇだろうな?」 「くすくす、そこまで理性は無くしていませんよ。でも本当に何と言うか、あの子・・・ 悟空は不思議なんですよ。別に特別なことは何も無いはずなのに傍に居ると 凄く心地いいんです。語らなくても全てを許し、受け入れてくれるような・・・・・・・。 でも・・・」 「でも?何だ?」 「明るすぎるんです。普通、親元から離されればあの年頃の子供なら不安に思って 当然です、それが全く無い。すっかりこちらの生活に馴染んでいるみたいで・・・・ あれは間違いなく記憶操作されてますね」 「か〜、そんなことまでしてんのかよ」 「・・・なるほど」 「悟空をどうにかしようとした場合、まず本来の記憶を取り戻さないと何をするにしても 難しいことになるでしょう」 「・・・お前では無理か、八戒」 「・・・正直、わかりません。ちょっと綻びが見えるようなときもあるんですが、そんな時 はすぐに焔か・・その腹心が傍に居て悟空を連れて行ってしまうので・・・」 三蔵は煙草を灰皿に押し付けると立ち上がった。 「時間を作ってやる。その間に何とかなるか試してみろ。・・・悟浄」 「へーへー」 またこき使われるのかと悟浄の返事もおざなりだ。 「・・・わかりました、やってみます」 頷く八戒に、三蔵は悟浄を連れて部屋を出て行く。 詳しい打ち合わせなどしないのはいつものことだった。 |
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焔・・やりたい放題(笑)
でも次回あたりピンチ・・・かな??