≫3 黒キ天






 反映を続ける香港のきらびやかな表世界。
 そこと表裏一体をなす黒社会に数年前、突然現れ、数多あった大小の組織を
 併合・吸収しながら勢いを増し、今や1,2の権勢を誇る組織がある。
 呼称を『黒天(ティエン)』。
 『黒天』を率いるのは、双眸に金と青のオッドアイを有する美貌の青年。
 彼は圧倒的なカリスマで組織に君臨した。














「そろそろ、帰るか。悟空?」
「う〜ん・・・・ねぇ、ちょっと踊って帰ったらダメ?」
 焔が立ち去った後、腹を十分以上に満たした悟空は語りかけてくる是音に上目遣い
 でおねだりしてみた。
「踊りか・・・焔が後で知ったらまた文句言いそうだけどな・・・それでも踊りたいのか?」
「うん、踊りたい」
 黄金の瞳を期待にきらきらと輝かせ、微笑みかけられればその願いを無下に
 できる者はそう居ない。
「・・・仕方ねぇな。少しだけだぞ」
「ホントっ!?ありがとうっ是音!」
 ぎゅ〜っと是音の首に抱きつき喜びを体現する悟空。
 この場に焔が居なくて良かった、と是音はしみじみ思った。
 己がどれほどに焔に大切に愛されているのか全く自覚の無い悟空は、その無邪気
 さでいつも周りをはらはらさせてくれる。

「じゃ、行ってくる!」
 いつも傍に置いてある扇子を手にとった悟空は店にある舞台へと歩いていく。
 普通に歩いているはずなのにその足取りは軽く、舞うようだ。
 幼いはずのその顔は店内のほの暗い照明の下、はっとするように大人びた表情を
 見せる。




 店の証明が落ち、音楽が変わる。
 焔の息がかかったこの店は、悟空のことを心得ていた。

 ゆっくりと単調な笛の音と、かすかな太鼓の音がはずむ。
 カン・・・と甲高く鳴り響いた音と共に舞台にスポットライトが灯された。

 手にある扇が華開く。
 金箔で全装されているその扇は、普通ならば派手で下品に見えるものが時代を
 重ねることで落ち着きと厚みを増し、悟空の手の中で輝く。
 唯一の飾りである朱と金の房が宙を静かに舞った。

 悟空の舞は美しく、そして艶やかだった。
 騒々しい店内は悟空の舞と共に静まり、全ての人間が息を呑んでその姿を
 見つめずには居られなかった。

 誘うように。
 拒むように。

 愛するように。
 憎むように。

 金色の瞳は、全ての視線を虜にする。

 
 やがてふわりと扇が閉じ、悟空が動きを止めたとき。
 人々は言葉を忘れたように、ただ陶然と一夜の夢に酔っていた。





























 ピクトリアピーク。
 高級住宅が立ち並ぶ、その中でも更に最高の立地条件を備えた、まさに城と
 呼んでいい場所。
 それが、『黒天』を支配する焔の住居だった。

「悟空、今日も舞ったそうだな」
「・・・え!?どうして知ってんの!?」
 驚く悟空の顔は、まさか焔にばれるとは思いもしなかったのだと告げていた。
「当然だろう。あそこは俺の店だ」
「うぅ・・・・」
「悟空、俺との約束を忘れたのか?」
「・・・・・・忘れたわけじゃないけど・・・・」
 悟空は焔の手招きに、焔が横になっているソファへと近づく。
 何げなく置かれているそのソファも普通の人間が一生かかってもお目にかかれない
 ほどの代物である。
「俺はどう言った?」
「・・・・・。・・・・焔が一緒に居ないときは舞わない」
 しゅん、と悟空が俯いた。
「ちゃんと覚えているじゃ無いか」
 からかうように言われて悟空は気色ばむが、覗いた焔の瞳が笑っていないことに
 気づいて狼狽した。

「・・・・・ごめん、なさい」
 悟空は決して焔を怒らせたいわけでも、悲しませたいわけでも無い。
 ただ、どうしても・・・自分でもよくわからないけれど・・・本能が悟空に舞うことを
 強いるのだ。本当にどうしようも無いほどに強く。
「・・・・今回だけだぞ?」
「!?・・うん!」
 それは許してやる、ということ。
 喜ぶ悟空に手を伸ばした焔はそのまま引き寄せ、倒れこんできた悟空に口づける。
 そのままくるり、と焔は悟空と上下の位置を入れ替えると、焔の広い腕の中にすっ
 ぽりと収まった悟空の体を見下ろした。




「ただし、相応のお仕置きは必要だがな・・・」
 焔のオッドアイが輝き、その瞳を真正面から見ていた悟空はふっと意識が遠のく
 ような感覚に襲われる。
 悟空の金色の瞳がゆらいで、焦点が合っていない。
 
「ほ・・・む、ら・・・・」
「お前は俺だけのものだ、悟空」
 耳元で、言い聞かせるような焔の言葉に悟空はこくり、と頷く。
「オレは・・・ほむら、だけの・・・」

「そう、お前は俺だけのものだ」
 悟空の体からゆっくりと力が抜けていく。



「ほ、む・・・ら・・・・」
 金色の瞳は閉じられた。








  


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う・・・裏仕様か!?裏仕様なのかぁ・・っ!?
・・・・と己で書きながら暴走中の御華門(笑)
・・・ぎりぎりセーフ(何がだよ/笑)