≫11 執着
いっそのこと
壊してしまおうか?
腕の中の存在はどんな宝物より勝る。 迷いなく、己の腕の中に飛び込んできた存在に、焔は歓喜した。 「悟空」 悟空を抱く白い衣は血を吸って、酸化し、どす黒く変わっていく。 しかし、焔はそんな痛みも感じる様子もなく、腕の中の悟空を愛しく抱きしめていた。 「焔、手当てを」 こちらも動揺した様子もなく、紫煙は手当てを促す。 「・・・・焔?・・・どうしたの?」 今まで眠らされていた悟空には事態がわからない。気づけば、遠く焔から離れていく所だった。 何で?どうして? そんな疑問が渦巻いて、悟空は焔が叫ぶままにその身を投げ出した。 「何でもない、いつもの騒ぎだ」 安心させるように耳元で囁いてやると、悟空はほっと力を抜いて・・・再び目を閉じた。 焔は悟空の額にかかる髪をなで、現れた額に口づける。 奪われずにすんだ、この世の至宝を焔は自ら、丁重に船内のベッドルームに運んだ。 「どうやら掠っただけのようですね」 紫煙が傷口に消毒をほどこし、包帯を巻いていく。 「そのわりに大げさじゃねぇか?」 銃を肩にかつぎ、周囲に目を走らせている是音が肩をすくめる。 「雑菌が入っては困りますから」 「この程度で悟空を取り返せたなら安いものだ。・・・だが、とうとうあいつらがやって来たようだな」 包帯を巻き終えた腕を着替えた服の袖で隠しながら、いかにも愉快だと焔は笑いを漏らす。 「予想していた事態です」 「でもさっきの連中は予想外だろ」 「いや、なつかしい顔だ・・・もっとも、向こうはこちらの顔は知らんだろうが」 紫煙と是音が、焔に目をやる。 「玄奘三蔵、冷たい目をした細い子供だったが・・・よく育ったものだ。紫鴛、あの三人について 調査を」 「了解しました」 「是音、お前は守りを固めろ・・・ただでは済まんだろうからな」 「おう」 油断なく用意を整えつつも、焔の顔に浮ぶのは余裕の笑みだった。 恐れるものはただ一つ。 この腕の中の存在が失われること。奪われること。 焔を魅了してやまない金色の瞳は、今は瞼の奥に眠り、規則正しい息が漏れる。 捜し求め、願った存在は今、ここに。 「悟空・・・・お前を誰にも渡しはしない」 キングサイズのベッドに寝かせられた悟空を、焔は腕に抱く。 小柄な悟空の体は腕の中にすっぽりと納まり、動かされた体に、悟空の唇から声が漏れた。 「悟空・・・」 少年らしい少し骨ばった体、手触りのいい肌は、幾ら触れても飽きることが無い。 もっと余すところなく、触れていたい。 肌という肌に己の徴を刻みつけ、これは自分のものだと叫んでやりたい。 「・・・・ほむ、ら・・・?」 「・・・目が覚めたか」 「う・・・ん?・・・あれ?朝・・・?」 「まだ夜だ」 「ん・・・何か、凄くよく寝た気がするけど・・・・」 焔の腕の中に閉じ込められたまま、うーんと悟空は伸びをするとぱちぱちと目を瞬かせた。 「・・・焔、ずっと傍に居た?」 「ああ、お前の傍を離れるわけが無いだろう?」 「んっ」 口づけられて、悟空の体から力が抜ける。 「悟空、俺から離れるな・・・俺を一人にするな」 「ん・・・焔・・・オレ、ずっと傍に居るよ・・・焔のこと、大好きだから・・・ぁ」 吐息のような嬌声が漏れる。 焔は悟空の体に手を這わせながら、耳元で囁いた。 愛している、悟空。 ・・・・壊してしまいたいほどに。 ペニンシュラホテル、最上階VIPの部屋へ案内された6人は応接間に居た。 金蝉と三蔵は向かい合わせにすわり、残る二人は左右に立っている。 見事に似通った2対。探しても探せるものではない。偶然の産物か、はたまた・・・・・。 「こんな所で油を売っていてもいいのか?」 「焔はすでに俺たちが香港入りしたのを知っている。今更潜んでも仕方ないこと。窮屈な思いを して隠れているのは馬鹿らしい」 「・・で、どういう手を取るつもりだ?」 その三蔵の言葉に驚いたのは両脇に立っていた八戒と悟浄だった。 どこまでもわが道を貫き通す三蔵の、協力するような発言は空耳かと思うほど珍しい。 「あいつがただの黒社会の人間では無いことは薄々わかっていると思うが」 「確かにそうですよね。あれだけ派手なことをして、警察の一人も駆けつけないんですから」 相当に、政府と深い繋がりがあるとみていい。いくら政治と金は切り離せない、とはいえ、あまりに 手出しが無さ過ぎる。格好でも規制するような動きもあっていいはずなのに。 「地の利はあいつにある。どうあってもこの香港では俺たちのほうが不利だ」 「御託はいい。さっさと言え」 相変わらず横暴な三蔵の発言に、金蝉の眉がよる。 「焔は俺たちの身辺を探らせるだろう、それを逆手にとって、悟空の居る場所を突き止める」 「それで?」 「悟空の居場所さえ発見できれば、ポイントをつけて衛星からの情報をこのコンピュータで操作し 退路を絶ち、彼等を追い詰めます」 天蓬の眼鏡がきらり、と光を反射する。 「で、俺とそっちの・・えーと、悟浄だっけか?は行動部隊てな」 ボディガードがよく身に着けている超小型無線機を指で示して、倦簾が笑った。 「必要な武器があれば、天蓬に言え。何でも用意する」 「グレネードランチャーでも戦車でも、お好みをどうぞ♪」 「・・・・・・・。・・・・・・・」 香港を破壊するつもりなのか・・・・? 悟浄は内心、ツッコミを入れた。 「わかった。・・・なら、俺は勝手に動く」 「三蔵!」 「問題ないだろう?」 くっと口角を吊り上げ、三蔵が挑戦的に金蝉を睨む。 「問題は無い。勝手にするがいい」 その言葉が終わるまでもなく、三蔵は部屋の扉へと歩いていく。 「一つ、教えておいてやろう」 足が、止まる。 「光明を殺したのは、あの男だ」 |
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ああ、収拾つくんだろうか・・・・