#\ 三 鼎









 窓から月光がそそがれる。
 その部屋の寝台には蒼白い顔をした悟空が横たえられていた。

「悟空・・・」
 金蝉は天蓬に抱かれて帰って以来、目を覚まさない悟空の傍にずっと付き添っていた。

 
 











「僕と出かけたときはいつもと変わらない悟空でした」
 珍しく慌て、息をきらせて駆け込んできた天蓬は悟空を金蝉に渡し、一息して口を開いた。
「花かんむりを作ると・・・僕から少し離れたんです・・・・・そこで」
「何があった?」
「あの、新しい闘神の焔太子に会いました」
 いつになく短気な友人に驚きつつも平静を装い、天蓬は出来事を順序よく語っていく。
「焔太子?・・・・・ああ」
 金蝉は思い出すように眉を寄せた。
「まさか彼があんなところにいるとは思いませんでしたから・・・・・彼は悟空を驚いた・・・いえ、
信じられないものを見たような目で見つめていました」
「悟空は焔と会ったことがあるのか?」
「いいえ、悟空ははじめてだと言っていました。彼は僕が来ると・・・・そのまま言わずに去って
しまいましたが・・・・・・それから悟空の様子がおかしくなったんです。焔太子の後姿を眺めて
いた悟空は・・・・・・・泣いて・・・・」
 金蝉がぴくりと身をゆらした。
「いえ、悟空自信は泣いていることがわかっていなかったようですが・・・・その原因は僕にも
わかりません・・・ぱっと見た目には悟空に怪我をしたところはありませんでした。けれど・・・
悟空はそのまま気を失って・・・・・・・・」
 天蓬は黙ったままの金蝉を見た。
「・・・・・悟空は俺たちのような天上人でもなく人間でもない。その体に何が起こったかは俺
にもはっきりしたことは言えん」
「そうです、か・・・・・」
 だが、少なくとも・・・・・・・彼が関係していることは可能性としてありうる。
 天蓬が訪ねていくべきか・・・と思ったところへ金蝉が口を開いた。
「俺が会いにいく」
「・・・金蝉」
 滅多に自分で動こうとはしない金蝉が・・・・・その事実に天蓬は悟空が金蝉にとってどんな
存在なのか、あらためて思い知った。
「・・・・わかりました。では何かわかったら僕にも教えてください」
「ああ」
 そして、天蓬は傍らに眠る悟空をみやる。

 ”元気になって・・・・また笑顔を見せてくださいね”


「では、僕は失礼します」
「・・・・悪かったな」
「いえ、悟空は僕にとっても大切な存在ですから」
「・・・・・・」
 顔をゆがめた金蝉に微笑すると天蓬は静かに部屋を後にした。












 金蝉は思い出す、悟空を預けられた日のことを。
「・・・・・・封印が解けかかっているのか?」
 だが、何故?
 悟空の金錮ははずれてはいない。
 では・・・・・・悟空が自ら?
 自ら過去の記憶を求めたのだろうか・・・・・・・・無意識に。
 それほどに悟空に衝撃を与えたものは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 確か、焔太子も最近まで地上に居たと伝え聞いている・・・・・まさか。
 悟空と関わりがあったのか?
 いや・・・それならば何故、黙って去って行った?
「・・・・・金リ眼、か」
 片目に悟空と同じ金リ眼を持つ・・・・・・・・・焔太子。


「ん・・・・っ」
「悟空っ!」
 傍らから漏れた声に金蝉は考えるのをやめ、名前を呼んだ。
「ん・・・・・・?こん、ぜん??」
 舌足らずに金蝉の名を呼ぶ悟空に、ほっと一息つく。
 ・・・・・・封印は解けてはいない。
「悟空・・・」
 日頃、悟空を叩く以外には使われない金蝉の手が、悟空の髪をなでる。
「ん・・・・・・」
 悟空がうっとりと目をつむる。



「・・・・・・・・ら、大好き・・・・・・」



「・・・・悟空?」
 金蝉の呼びかけににっこり笑うと悟空が手を差し出してきた。
「・・・・・・?」
「・・・っと・・・・・ずっと・・・・一緒・・・・・・」
 金蝉の手の中にすっぽりとおさまるほどの小さな手だった。
 けれど、掴めなかった。

 ”誰に言っている!?”

 確かに悟空は金蝉のほうを向いているのに、言葉は金蝉に投げられているのに・・・・・
 それでも”自分”に悟空は言っているのではないのがわかった。

「・・・・・っ」
 沸きあがる強烈な怒り。

”悟空”に対して?
”誰か”に対して?

 いや、そんなことはどうでも良かった。
 その金の瞳が自分を見ていないことに比べれば。


「悟空・・・・・・・・・・・・・・・・・・さっさと起きやがれっ!!」
 悟空の頭部に拳骨が落ちた。



「・・・・っ!?・・・・・・??へ?・・・・・・・・あれ?金蝉?」
 頭を抱えて飛び起きた悟空はきょろきょろと周囲を見回し、はてな?と首を傾げた。

「・・・・もう朝?」
「違うっ!・・・・お前のいびきが煩くて眠れねーんだよっ!」
「へ?・・・・・・え〜・・・・・・あれ?」
 悟空が自分にかけられたシーツをめくる。
「オレ、どうして金蝉のベッドに居るんだろ?」
「知るか・・・・・・」
 不機嫌に眉をしかめた金蝉に、悟空は嬉しそうに笑った。
「金蝉と一緒に寝る〜」
「誰が寝るかっ!」
「寝るっ!」
「駄目だ!」
「寝るもんっ!」
 悟空は宣言するように叫ぶとシーツをぎゅっと掴んで布団にもぐりこんだ。
「・・・・この馬鹿サルが・・・・・・・」
 苦虫をつぶしたように呟いた金蝉だったが悟空をそれ以上叱ることもなく・・・・いや、
”いつも”の様子にほっとしてさえいた。

「・・・ったく、お前がそんな真ん中で寝てたら俺が寝れんだろうが!端へよれ!」
「・・・うんっ♪」
 シーツから顔を出した悟空が満面に笑みを浮かべてぎゅっと金蝉にしがみついてくる。



『・・・ずっと・・・ずっと一緒・・・・・』




 金蝉の見守る中、悟空は再び眠りの淵に落ちていった。























  翌日、金蝉は『何処に行くのか?』と煩い悟空を天蓬と倦簾に預け、闘神である焔が
いる宮に足を運んでいた。
 階位から言えば、金蝉のほうが遥かに焔より上にあり、本来ならば金蝉が焔を自分の
宮へ呼ぶことが普通だったが、ことが今回は悟空に関することであり・・・本人が居るところ
でするのを憚られたためであるlことと、呼びつけるのは金蝉の性に合わなかったため
こうなった。
 擦れ違わないように一応は先触れを出してある。

「焔太子・・・・・か」
 ごく最近、地上より昇天した者。
 詳しいことはいまだよくわからないが、天蓬がこれまで調べたところによれば天帝の血に
連なる存在であるらしい。
 だが。
 あの手の鎖は?
 あの目の色は?
 わからないことは多いままだった。


 宮の入り口には誰も立っておらず、呼びかけても誰一人現れないので金蝉はそのまま
足を進めた。
 金蝉の宮も悟空が来るまでは静かだったが・・・・ここは空気が重い。
 
(もしかして場所を間違えたのか?)
 金蝉が不安に思ったところで、声がかかった。

「もし、金蝉童子様でいらっしゃいますか?」
 背後からかかった声に振り向くと、白髪の男が立っていた。
「ああ、そうだが」
「お待ちしておりました。焔のところへご案内いたします」
「貴殿は?」
「闘神の補佐をしております、紫鴛と申します」
 紫鴛はゆっくりと会釈する。
「そうか・・・」
「こちらへ」
 紫鴛の後につき、案内された場所。
 
 執務をする机と椅子。
 窓。
 
 無駄なものを一切省いた部屋。
 それに金蝉はなつかしさを覚える。
 悟空が来るまでは自分の部屋も似たようなものだった。

「焔、金蝉童子様をお連れしました」
「ああ」
 相手が立ちあがるにつれて、じゃらり・・・と鎖のこすれあう音が耳に届く。
 金蝉たちに向かっていた背が反転した。

「わざわざ、こんなところまで足を運ぶとは酔狂であるのだな、金蝉童子は」
 とても初対面の相手に対するとは思われぬ挨拶だったが、金蝉は眉をしかめるに留める。
「まぁ、それだけの用があるということか・・・・何もないが座ってくれ」
「いや、急なことで悪いがすぐに済む」
「それはどうかな?」
「・・・・?」
 人に椅子を勧めたくせに自分は立ったままの焔は、皮肉げな笑いを口元に浮かべた。

「”悟空”のことで来たのだろう?」
「・・・あいつを知っているのか?」
 焔の親しげな・・・いや、『悟空』と口にするときにだけ浮かべる穏やかな表情に金蝉は
自分の予想が当たっていたことを確信した。



「知っているとも・・・・・・・・・・・・悟空は俺と誓いあった仲だからな」
「・・っ!?」
 かえってきたのは、予想を越えたものだった。
「探していた・・・・ずっと、だ。まさか天界に居るとは思わなかった・・・・しかも記憶を奪われ
てな・・・・・・・・・・ふん、天帝とやらはとんだ食わせものだ」
 馬鹿に見えてもそれなりな策謀をめぐらすらしい・・・、焔はくっくっと笑った。

「・・・・・・どこに、そんな証拠がある?」
「俺が悟空と誓った仲だという証か?そんなものは必要ない。俺と悟空のことを何故、誰か
に証だてなどしなければならない。俺と悟空がわかっていればいいことだ」
「・・・・・では、貴殿の言葉を信じることはできん。俺は天帝に悟空のことを預けられ、その
保護を命じられている」
「くっくっくっ・・・・」
 金蝉の言葉を受けて笑う焔に不審な目を向ける。
「素直に言ってはどうだ、金蝉童子」
「何を、だ?」



「悟空を手放すのは嫌だ、とな」



「・・・・・っ」
 金蝉は開きかけた口を閉じ・・・見つめる焔を睨みかえした。
「図星か?」
「・・・・・・・・・・・・馬鹿が」
「悟空はいい意味でも悪い意味でも人を惹きつける。ましてや腐りきったこの天上界では
悟空の存在は何よりも変えがたいだろう?」
「・・・・・・・・・」
 普段、悟空の存在を”うるさい””面倒だ”と言う金蝉だったが・・・・焔の言葉を否定すること
はできなかった。


「悟空は俺のものだ」
 あっさりした口調が余計に焔の真意を伝える。
「・・・・・どうするつもりだ?」
「決まっているだろう?あるべき場所に・・・・俺の傍らに。悟空は返してもらう」
「だが、あいつにお前の記憶はない」
「そう・・・・・全く、どこまでも神というのは卑怯なことをする」
 がしゃり、と腕の鎖が鳴る。


「金錮、だろう?」
 窓から外を眺めながら焔が世間話をするように金蝉に問うた。
「・・・・・」
「悟空の記憶を封じているのは・・・あの額にはめられている」
「・・・・・・・さぁな」


 しばし、落ちた沈黙。
 外からチーチチチと鳥の鳴く声が響く。






「悟空は・・・・・・・・渡さん」
「そう言うだろうと思っていた、金蝉童子」
 焔は不敵に笑う。






「では、俺は俺のやり方で悟空を返してもらうことにする」
 それは焔の宣戦布告だった。














† あとがき †

・・・・これ、本当に焔空ハッピーエンドになるんでしょうか・・・・(おいっ)

焔さまが妙にブラック入ってまいりました(笑)
金蝉も負けずに「渡さん」とか言ってるし(笑)
いや〜もてる男はつらいね〜(*_*)\

さて、比翼連理はこれから毎週更新予定(は未定)で
頑張りたいと思いますっ!(出来るのかっ!?)

では、また次回にお会いいたしましょう♪
ご拝読ありがとうございました!






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