
#W 転 換
山が深い緑から明るい春の緑に模様替えするころ。 陽気はすみずみまでゆきわたり、眠っていた動物、植物たちも目覚め始めた。 「待て―――っ!!」 少年特有の澄んだ声が森に響く。 その少年の目の前には死に物狂いで逃げる一匹のウサギの姿。 「絶対に・・・・・・食ってやるからなっ!!」 ・・・・・・少年の決意は固い。 そして動きも野生のうさぎに負けず劣らず素早かった。 そして、一人と一匹の差はどんどんとちぢまり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「つかまえたぞっ!!」 哀れうさぎは少年の手の中に。 「これで昼飯は決まりだなっ♪」 少年はそれはそれは嬉しそうに手をうったのだった。 「はい、焔♪」 朝食をとった後、いずこかに姿を消していた悟空は昼前に帰ってくるなりまるまると太った うさぎを焔に差し出した。 「・・・これは?」 「食べようと思って・・・・・丸焼きがいいかな〜♪それとも・・・・」 悟空の頭の中でうさぎの料理がめくるめく。 「焔は何がいいっ?」 「・・・・そうだな、俺ならば香草でもつめて蒸し焼きにするかな」 焔の言葉に悟空はよだれを垂らさんばかりである。 「んじゃ、それにする!!」 「では、早速準備にとりかかるとするか」 「オレも手伝う〜!!」 大地の色の髪を元気よく跳ね上げて悟空は笑った。 「すっかり暖かくなったな」 昼食をすませた後、二人は陽だまりの中で山の景色とさわやかな風を楽しんでいた。 厳しい冬を乗り越えれば春が来る。 そしてすぐそこまで夏がせまっていた。 「うんっ!!ウサギだけじゃなくてイノシシとか熊とかもいたよ♪」 みんな美味そうだったなぁ〜と悟空は夢心地に焔に語る。 「はははっ、悟空にかかっては動物たちも形無しだな。そんなに美味しそうだったか?」 「うんっ!!明日はイノシシとってくるから楽しみにしてろよな!!」 それで鍋しような!!と焔にねだる。 冬の間、ずっと焔の世話にばかりなっていた悟空は少しでも恩返しがしたくて自分ができる 精一杯のことをやろうと心に決めていた。 そんな悟空の姿がいじらしくて焔は見守りつつ好きにやらせているのだった。 焔はこれまで人間に比べると信じられないほどの長い時を生きてきた。 だが、その生はあいまいでさしたる感動も覚えることない味気ない・・・いや虚しいとさえ言える ものだった。 それが悟空と過ごしたこの数ヶ月。 何と満たされていたことだろう・・・・。 悟空の笑顔を見るたびに凍り付いていた心が解けていく気がした。 ”焔”と呼ばれるたびに胸がうずいた。 夜、寒さに身を寄せてきた悟空を懐に抱き、そのあたたかさに孤独を癒された。 ふと横を見れば悟空は木にもたれてうとうととしはじめている。 目を細めた焔は悟空が本格的に寝始める前に声をかけた。 「悟空・・・・」 「・・・・ん、ほむら〜・・・・んっ・・・」 焔の言葉に反応して寝ぼけ眼の悟空はごろんと転がり焔の膝の上へ。 そのまま悟空は焔の服の裾をぎゅっと掴むと深い眠りに突入した。 「・・・・・・・・・・・・・まったくお前は・・・」 呆れたような口調でいながら焔の口元に浮かんでいたのは穏やかな微笑。 風に遊ぶ悟空の茶色の髪にそっと手を伸ばして梳いてやった。 「おやすみ、悟空。お前の眠りは俺が守ろう・・・・・」 木々が祝福するようにさざめいた。 |
死の苦しみなく、永久に花咲き誇る至高の喜びに満ちた天上の世界。 そこは数多の人間が迎えられることを希求した夢の楽園。 「一年中おんなじ景色ってのも色気がねーよなぁ?」 だが、どこの世界にも変わり者はいるらしい。 立派な幹をした桜の枝の上、酒が入っているであろうとっくりを傾けながら男が呟いた。 「色気があるかどうかは別にして、時には枯れた枝というのもいいかもしれませんねぇ」 答える声はその枝の下。 白衣を風になびかせた男が穏やかにうなずいた。 「・・・・地上の花でも愛でに行くかぁ・・・」 「はははは、仕事が山積みしてるのに遊びに行くつもりですか?僕は引き受けるつもりは さらさらありませんからね」 「・・・・・・・副官だろう?」 「あなたが責任者です」 「・・・・・・・・・はぁぁぁ」 「頑張ってくださいね」 わざとらしいため息など意にも介さずにこやかにエールを送る男に、今度こそ枝上の存在は 深い深いため息をついたのだった。 「・・・そういえば、最近、長安のほうの城隍神が興味深い報告をしていましたよ」 「・・・・俺は何でそれをお前が知ってるのかのほうが不思議なんだけど」 「蛇の道は蛇ですよ♪」 ・・・・全然理由になっていない。 だが、問い詰めたとしてもこの男が簡単に吐くとは思われないので諦めたように手をあげるに とどめた。 「・・でどんな報告なわけ?」 「気になりますか?」 「そこまで言われちゃぁ気になんないほうが嘘だろう?」 「それもそうですね」 くすっと笑うと枝の上から男が軽い身のこなしでおりてきた。 「で?」 話をうながす。 「ええ、それが・・・・・・・・・・・・・・・大地の精霊らしきものを見つけた、と」 「ほぅ・・・・」 それまで興味半分に聞いていた男の目が輝きを増した。 「それはぜひとも詳しいことを聞きてーな」 「・・・ではお話しましょうか♪」 |
「ん・・・・っ」 そろそろ帰らなければと思っていた焔の膝の上で悟空が身じろいだ。 「悟空、起きたのか?」 「ん〜〜〜っっ・・・・・・」 だが、悟空は低くうめいて目を開けようとはしない。 「悟空?」 問い掛ける焔に悟空の口ではなく、腹の虫が返事をかえした。 きゅるるうぅぅ〜〜〜っっ!!!! 「・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・」 一瞬、沈黙がおりる・・・・そして。 「・・・・くっくっく、悟空・・・どうやら腹の虫はお前よりよほど正直なようだぞ?」 「・・・・焔っ!!」 勢いよく顔をあげた悟空の顔は少々赤くなっていた。 どうやら狸寝入りをしようと思っていたことが自分の腹の音で台無しになってしまったらしい。 「そう、怒るな。俺はお前が望めばいくらだとて膝くらい貸してやるぞ」 「・・・・・・・今、がいい・・・・」 珍しい悟空の我侭に焔の眉がくいっとあがった。 「どうした、悟空?」 いまだ焔の腕の中にいる悟空の髪を落ち着かせるようになでていく。 その優しい手にうつむいていた悟空は意を決したかのように顔をあげて口を開いた。 「ねぇ・・・・・どうして、どうしてっ!!・・・焔はそんなにオレに優しいんだ・・・っ?」 見上げてくる悟空の金色の瞳はとまどいに揺れていた。 「オレ・・・焔に面倒ばっかかけてるし・・・できるのは獲物をとってくることぐらいだし・・・・・・・ 何も・・・何も焔にしてやれないのに・・・・・っ!!」 己を蔑む言葉を言い続ける悟空を焔は強く抱きしめた。 「・・・・悟空」 (笑顔の裏にお前はそれほどの気持ちを押し殺していたんだな・・・・) 「そんなに自分を蔑むものではない」 「でも・・・・・・っ」 「俺が悲しくなる」 「・・・・・・っっ!?」 焔の言葉に至近距離にあった悟空の顔が驚愕に目を見開いた。 「俺はお前が思っているほど優しい人間じゃない。いや、それ以上に自分勝手な人間だ。無用 なものを我慢して傍に置いておくような性格はしていない」 「焔・・・?」 「俺はお前が必要だから、傍に居る。役に立つ、立たないの問題ではない。俺は・・・お前に会って はじめて生きていることに喜びを感じた・・・・・人のぬくもりを知った。心から笑うことができた」 悟空の顔を真正面に見ながら焔は言葉をつづる。 「お前はたった数ヶ月で何百年と生きてきた俺に誰も与えられなかったものをくれた。他の誰でも ない。それは悟空、お前だったからこそだ」 「・・・・・・・・ほむ、ら・・・・」 「だから自分を蔑むような言葉は口にしないでくれ」 そして焔は悟空の頬に手をふれさせると安心させるように笑いかけた。 「・・・・ったら・・・・・」 「悟空?」 ようやく聞き取れるほどの悟空の声に焔は聞き返す。 「だったら・・・・・・・・オレ・・・・」 「オレ・・・・・・・・ずっと、ずっと焔の傍に・・・・・・居ていい・・・・・?」 「・・・・・・・・・」 悟空の涙まじりの訴えに焔はすぐに返事をかえすことは出来なかった。 なぜならばそれほど驚き・・・・・・・・・・・・それ以上に喜びに震えていたから。 自分ばかりが悟空を求めていると思っていた。 けれどその言葉に、悟空も自分と同じように思っていてくれたことを知ったから。 「・・・・・ほむら?」 不安に満ちた悟空の声に焔は我にかえる。 「・・・・・悟空っ」 焔は腕の中の悟空をいっそう強く抱きしめると天をあおいだ。 (ああ・・・全てのものに感謝する!!俺に悟空を与えてくれたことを・・・・悟空がこの世に存在 することを・・・・・っ!!) 「悟空・・・俺の傍にずっと共に居てくれ・・・・・俺の傍で笑っていてくれ・・・・」 「・・・・・じゃあ、オレずっと焔と一緒にいていいの・・・?」 「ああ、悟空。もちろんだ」 「・・・・焔っ!!」 泣き笑いでぐしゃぐしゃになった顔を悟空は焔の肩にうずめた。 「悟空・・・」 焔はあふれんばかりの愛情をこめて名を呼び、涙の残る悟空の瞳に口づけた。 「焔・・・」 「もう、俺はお前を手放すことはできない・・・・」 「・・・放さないで、焔・・・・ずっとずっとオレの傍にいて・・・・・」 金色と碧緑の瞳が交錯する。 「約束する・・・・・・・俺はずっとお前の傍に居る。だから悟空、お前も俺の傍に居ろ」 「うん!!約束するっ!!」 花の散った緑溢れる桜の大木の下で二人は口づけとともに誓った。 『ずっと・・・永遠に共にあること』 けれど、その約束はすぐに破られることとなるのだった。 |
† あとがき † 先週UPできなかったので一週送れてUPさせていただきました 比翼連理、パートWでございます♪♪(^◇^) ほのぼのらぶらぶは今回まで!!!! さぁ、いよいよ次回からは波乱万丈だっ!!(笑) 途中、挿話で出てきた二人ももちろんご出演♪ その他にもいろいろ・・・・・フフフ★ 焔と悟空、二人の行く末はどうなるのか!? どうぞお楽しみに〜〜(^.^)/~~~ |