#U 存在






知らなければ
何も起きようがない

知ってしまったら



おしまいだ























 身を切るような寒さの日に出会った「悟空」という名の少年は食事を与えた焔に
すっかりなつき、気づけば半居候のような立場になっていた。



 いったいどうやってかぎつけてくるのか不明だが、朝、焔が朝食の準備にとり
かかっているとどこからともなく現れて部屋に座っている。

 少し前まではそれでもやって来た悟空は料理の下ごしらえや配膳の手伝いをしようとしていたのだが、これが逆に手間のもとで・・・・米を洗わせればとんでもない力で粒は粉と化し、包丁を持たせればまな板ごと真っ二つ。
 かと言って配膳の準備をさせれば皿を片っ端から割っていく。

 不器用・・・・という言葉がこれほど当てはまる者もいないだろうと最初こそ感心
していた焔だったが、家の備品が少なくなるにつれて悟空には何もさせないこと
が一番なのだ、と悟った次第。
 そして、悟空は焔の言いつけに従い大人しく”座って”いるのである。


「悟空、前々から思っていたんだが・・・」
「なに?」
「その服装で寒くないのか?」
「寒いよ」
「・・・・・・・・・では、もっと暖かくしようと思わないのか?」
 このあたりは先月に雪が降り出して以来、山には常に積雪がある。
 そんな中に悟空のような薄着で居れば、人間なら間違いなく凍死している。
「だってオレ、これ以外の服持ってないもん」
 別にこのままでもいいし・・・とあつけらかんと答える悟空は焔の用意した朝食
を腹に次々とおさめていく。
 それを呆れたように見つめると、焔は立ち上がり奥から毛皮のコートを持って
きた。
「俺の服はお前には大きすぎるだろうからな、これでも着ていろ」
「ふぇ?ふふふへへっほほっ!」
「・・・・・・食べてから話せ」
 口に食べ物をいっぱいに頬張って話そうとした悟空は焔の言葉にしばし咀嚼
すると、ごくんっと呑み込み改めて口を開いた。
「でも、それって焔のだろ?無いと駄目じゃん!それにオレ・・・・人と違って丈夫
みたいだし・・・・」
 悟空はちょっと悲しそうに顔をしかめた後、何でもないように微笑んだ。

「それならば俺も同様だ」

「・・・・・・え?」
 驚きに見開かれた黄金の目が焔を見つめる。
「何故、俺が麓の村ではなくこんな山の中で暮していると思う?ただの人嫌いな
わけではない・・・・・人々の好奇の視線が鬱陶しかったからだ」
「・・・・・・・」
「悟空。俺の中には人と神の血が半分ずつ流れている。その半分の神の血のせい
で俺は人並みに老いることがない・・・・・人が幼児から老人になる時間は
俺にとっては1年にもならない・・・・そんな体で村や町には居ることは出来ない
だろう?」
 自分の生い立ちなど今まで他人に話したことが無かったというのに、何をこんな
子供に語っているのか、と焔は苦笑した。

「・・オレ・・・・・オレねっ!!・・・その、よくわかんないけど!」
 悟空は手に持つ箸を握りしめて必死で言葉をつづる。



「オレ・・・・・・焔がここに居てくれてすっげー嬉しい!!ホントにっ!!本当だよ」
 訴えるように袖を掴む悟空の様子に焔は微笑むと、大地色をした髪にぽんと
手を置き、軽くなでた。
 悟空はその扱いが嬉しかったのか目を細めて笑う。
「ああ、お前は嘘をつかない」
「うんっ!!」
 その言葉に悟空は真実に嬉しそうに肯いた。
「なぁ、悟空。俺にお前のことを話してくれないか?お前のことが知りたい」
 自分以外の存在のことがこれほど気になるのは初めてのことだった。
「オレのこと?・・・・でも自分でもよくわかんないんだけど・・・」
 しかし悟空は焔に請われるまま、とつとつと話し出した。






「・・・・気がついたら、岩の上にいた。それまでも何だかあたたかい何かに包まれ
ているような気もしたけど・・・・・・風が”おめでとう”て言ってた・・・・・・・・・・・・
オレがはじめて見たのはすっげー大きくて綺麗な金色の月・・・・ずぅっと消えるまで
見てた・・・・・・」
 悟空はその光景を思い出すかのように目を閉じた。
「名前は・・・・よくわかんないけど・・・・・たった一つだけ頭に浮かんだ言葉だった
から・・・・それからお腹がきゅるる〜て鳴ったから・・・・・・食べるものを探して
山をおりた」
 そこで悟空はおかしそうに、焔をみた。
「そしたら、みんなオレのこと見て慌てるから何かな〜と思ったら・・・・おばちゃん
とか女の人が寄ってきて”なんて格好をしてんだいっ!?”て・・・・この服、本当は
もっと袖とか色々ついてたんだけど邪魔で取っちゃって・・・くれたんだ。それから
たくさん食べ物も貰った♪」
 美味かったな〜と悟空の目がきらきらと輝く。
「・・・良かったな」
「うん!・・・・・・・・・でも、それからちょっとして、皆、オレに近づかなくなって・・・・
どうしてなんだろう・・・て思って聞こうと思ったら・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「”黄金の瞳は吉凶の徴、村から出ておゆきっ!!”て言われた・・・・・オレ、何の
ことか全然わからなくて・・・・でも、居ちゃいけないんだってことだけはわかった
から・・・・・元の山に戻った」
「・・・・・」
「今でも”きっきょう”て何のことかわかんないけど・・・・・それから時々会う人たち
もそう言ってどっかに行ったり・・・・・石投げられたりしたから・・・・たぶん、悪いこと
なんだろう、とは思うんだけど・・・・」
 おそらく悟空は言葉で言う以上に酷いことを言われたはずだ。
 ・・・・・そしてきっと酷いこともされたはず。
 人間というのは異端なものに対して厳しい。
「それで悟空は山の上で暮していたのか?」
「うん、下のほうで貰った食いモンみたいに美味しいものはねーけど、鳥とか友達
はたくさんいたし・・・・・綺麗な丸いものに一番近かったから!」
 あとちょっとで手が届きそうだったんだ・・・・、そう言って笑う悟空が酷く愛しくて
焔は気がつけばその胸に抱きしめていた。


 どんな理不尽な扱いを受けようと笑顔を失うことのない悟空。


「お前は・・・・・・・・偉い、な」
「えらい?・・・・??」
「凄い奴だってことだ」
「・・・?何で?」
 きょとんとした顔で悟空は焔を見上げてくる。

(自分は・・・・人の勝手さを憎み、卑屈さを嘲笑った・・・・・)

「お前は強い・・・力が、じゃない。心が強いんだ。・・・・・心が強いから人に優しく
できる・・・・・・・俺とは全然違う」

「えっ!?焔は優しいよっ!!」
 だって、だって・・・・と言葉を続ける。
「オレが勝手にごはん食ったのに怒らなかったし・・・こうやってあったかい服を
くれたし・・・・・・・それに」
 悟空は口を閉じ、焔に真っ直ぐに視線をそそいた。



「オレのこと 『悟空』 て呼んでくれるの焔だけだもん!」
「悟空・・・」
「オレ、焔に名前呼ばれるのすっげー好き♪なんかふわふわして・・・・食ってるわ
けじゃないのに胸がいっぱいになるんだ!!」
 輝く太陽のような笑顔は焔の氷塊した心をとかしていく。
「俺も・・・・・・・お前に名前を呼ばれるのは・・・・好きだ」
 (お前に呼ばれる時だけ何かから解放されるような気がする・・・・・)
「ホントっ!?んじゃ、たくさん呼ぶな!!」
 焔の言葉に素直に喜び、”焔、焔・・・”と繰り返す悟空。



 どんなに人に忌避されても妬まず、くじけず、卑屈になることなく真っ直ぐに生きて
きた・・・・・穢れを知らぬ魂。
 その輝きはなんと強く。
 そして
 焔を魅了するのか・・・・・。



「悟空・・・」
 無邪気に焔の名前を呼ぶ悟空の様子を優しい眼差しで見ていた焔の指が悟空
の頬にそっと触れた。
 
 触れた指先にぬくもりが伝わる。

「ん?」
 なに?と悟空が焔を見上げてきた。
「お前に口づけてもいいか?」
「口づけ・・・?え?・・・・よくわんかんないけど・・・・・・・焔ならいいよ!」


 何故、そこまで自分を盲目的に信じることができるのか・・・・・。
 酷いことをされるとは思わないのだろうか?
 裏切られるとは?
 それとも・・・・・・・・その全てを許すというのだろうか?

 
 自分でも呆れるほどの、唐突な衝動。
 自分の名前を呼ぶ悟空の唇を感じたかった。



 焔は知らず微笑むと金色の瞳が見つめる中、そっと悟空の唇に口づけた・・・・。






 






 そして、気づいたのだった。

 これこそまさに―――――――――――――――――『一目惚れ』














悟空とのはじめての口づけは
外を降る雪のように
静かで

やわらかく
溶けていった










† あとがき †

頭の中で色々と書きたいネタはたくさんあって
比翼連理は長くなりそうです(^^ゞ
でも、まだ最初なんで二人にはゆっくりと親交(笑)を
深めていただこうと思い、今回の話を書きました♪
それから焔さまの設定で、小説を読んだだけではわからない
部分をここにて・・・焔さまの右目は実は金色ではありません。
両目ともにダークブルーです。
これは後々のお話に関わってくるので詳細は秘密ですが(笑)
悟空に関しては名前以外は原作設定そのままです。
年齢が微妙なとこですがTで焔には13,4くらいに見えたらしいので(おいっ)
それよりは上・・・ということで15,6?くらいでしょうか・・・。
焔さまは・・・・見た目は26,7・・・くらい。実年齢は・・・***(笑)

さて、月2回の更新なんで次回は再来週ですが
そのぶんお話は長めです・・(たぶん)
読んでいただいた皆様に楽しんでいただければ幸いです(^^)

では、ご拝読ありがとうございましたm(__)m





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