#]U 後 継 












「・・・・はぁ?」
 突然やってきた(いつものことだが)観世音の言葉に金蝉は眉ねを寄せて露骨に
不快を表した。
「耳が遠くなったのか?」
「誰がだ」
「悟空はどこへ行った?」
「そのへんで遊んでいるだろう」
「お前が行かないと言うなら俺が連れて行くぞ?」
「・・・・・・ちっ」


「こーんぜんっ!」
 その金蝉の舌打ちにあわせるように扉が開かれた。
「おう、チビ。今日も元気だな」
「チビじゃないっ!悟空だ!!」
 グッドタイミングで現れた悟空に金蝉はますます不機嫌になる。
「悟空、ちょっと出かけないか?」
「お出かけ!?」
 観世音の言葉に最近、一人で出歩くことを許されない悟空は目を輝かせる。
 しかし、机に座る金蝉にちらりと視線を走らせると。
「・・・・・・でも」
 不機嫌な顔の金蝉にどうやらこの外出はよくないものらしいと悟空はしゅんと気落ち
してしまう。
「金蝉も行くから心配するな」
「ホントっ!?」
「なぁ、”お父さん”?」
「ちっ・・・・・悟空、とっとと用意しろ。その泥だらけの服は着替えて来いよ」
「うんっ!!」
 途端に笑顔を浮かべてみせた悟空は自分の部屋にたたたっと駆けていった。


「・・・どういうつもりだ?何故悟空を如来のところへなど連れて行かなければならない?」
「そんなことは自分で確かめろ。お前だって考える頭があるだろう?」
 とことん人の勘にさわるセリフしか言わない観世音である。
「悟空は天地の子供・・・・・・そういうわけだ」
 それだけで事態を察することができる奴が居るなら連れてきてもらいたい。
 ますます金蝉は眉間の皺を深くした。


「金蝉っ!できた!」
 余程急いで着替えてきたらしい悟空は髪は飛び跳ね、服のボタンは思いっきり
掛け間違えている。
「バカ猿」
「猿じゃないっ!」
 頭を押さえつつ悟空に近寄った金蝉は掛け間違えているボタンをはずして正しく直して
やる。
「やっぱ”お父さん”じゃねーか」
「うるせぇ、クソばばぁ」
 悪態をついてみるが確かに金蝉は自分でも涙が出るほど、その通りだと思ってしまう
あたりがまともな反論につながらない。
「ありがと、金蝉!なぁなぁ、どこ行くんだっ!?」
 だが、悟空はそんなことは気にならない。
 久しぶりの外出に金色の瞳をきらきらと輝かせている。
「行ってからのお楽しみてやつだ」
「美味いもんあるっ!?」
「てめーはそれだけしかないのか・・・」
 がっくりと肩を落とす金蝉である。







「ここだ」
 観世音の案内でやってきた阿弥陀如来の宮。
 質素でありながら厳かな宮は下賎な者は近づくことさえ許されない。
 天界でも”聖域”と呼ばれる場所。
 天帝でさえ礼を尽くさねばならない。
 だが、悟空にはそんなことはわからない。
「なー、ここ誰の家?」
 その程度の認識である。
「ああ、出てきたな」
 観世音の言葉に目を向ければ門から二人の人影がやって来る。
「お久しぶりでございます、観世音菩薩」
 二人は声をあわせて伏礼する。
「ああ、阿難に迦葉か。用件はわかっているな?」
「はい、如来さまよりくれぐれもとお言葉を賜っております」
 如来自らという言葉に金蝉は目を見開いた。
「こいつらは、俺の甥の金蝉にその被保護者の悟空だ」
「お初におめもじ致します。我は阿難(あなん)と申します」
「我は迦葉(かしょう)と申します。阿難と同様如来さまの弟子のうちの一人でございます」
「俺は・・」
 自分もと口を開きかけた金蝉に悟空の声がかぶさった。
「オレ、悟空!よろしくな〜!!」
「・・・・・・」
 あまりのお気楽さに金蝉は頭を振るばかり。
 相手が気にしていないのがせめてもの救いだろう。
「では、如来さまがお待ちですのでご案内させていただきます」
「ああ、頼む」
 観世音はいったいどういうことなのだ、という視線を向けてくる金蝉を無視して二人の
後に続く。
「金蝉?」
「ちっ・・・・行くぞ、悟空」
「・・・うんっ♪」
 差し出された金蝉の手に悟空は満面の笑みを浮かべると小さな手でぎゅっと握った。


「こちらへ、お入り下さい」
 阿難と迦葉は3人を広大な両開きの扉の前に案内すると脇へ身をよけた。
「如来さまがお待ちです」
 その言葉とともに扉がゆっくりと開かれる。
「さぁ、行くぞ」
 いつもの口調の観世音の言葉だったが何かが違った。
「金蝉?」
 その違いを感じとったのが悟空が不安げに金蝉を見上げてくる。
 その悟空の視線に答えるように金蝉は繋いでいる手にわずかに力をこめると観世音
に続いて中へと足を踏み出した。





『よくぞいらした、観世音菩薩、金蝉童子、孫悟空』
 如来の声は奇妙な抑揚をともない3人の体に響いた。

「久方ぶりでございます、阿弥陀如来」
 観世音が膝をついて頭を下げる。
 その姿に金蝉は驚愕を隠せない。
 何しろ、天帝にさえ「耄碌じじぃ」と呼んではばからない観世音が膝を屈して謙譲語を
使っているのだ。
 これを驚かずに何を驚けと?な心境である。
 そして、改めて如来の偉大さを思いしる。

「金蝉、あのおばさん誰ー?」
 慌てて、悟空の口元へ手を持って行ったが一歩遅かった。
 すでにセリフは口の外へ。
「・・・・バカ猿・・・・・・」
 天界人に寿命など無いに等しかったが金蝉は寿命が縮まった気がする。


『元気の良いことだ。私は阿弥陀如来』
 慈愛の笑みを浮かべる如来は悟空の暴言を気にすることなく手を広げた。

『こちらへ、悟空』
 如来の呼びかけに躊躇する悟空。
 そんな悟空の背を金蝉は促した。
 悟空は金蝉を振り返りつつ、如来に近づく。

「にょらい?」
『そう、それが私の名です。孫悟空、それがそなたの名であるように』
「うん!」
 素直に頷く悟空の頭を如来の優美な手が撫でる。

『そなたはまだ幼い。私の元へ弟子に来る日はまだ遠かろう』
 ぽつりと漏らされた如来の言葉に目を見開いたのは金蝉である。
 そんなことは一言も聞かされていない。

『金蝉童子はよくしてくれるか?』
「うんっ!金蝉大好き!!・・・ときどきすっげー怒るけど」
 余計なことを言うな!!・・・と心で悟空を殴る金蝉。
『そなたは良い環境にいるようだ。孫悟空』
「ん?」
『本日より、そなたはここへの出入りが自由となる。いずれ来るべき日のために私は
そなたに出来る限りのことを教えよう』
「????」
『まだ、わからずとも良い。いずれ・・・そう、いずれわかること』
「・・・・?うん」
 悟空はわけのわからないまま頷いた。
『それから』
 如来の視線が玉座の脇を向く。
 三人の視線もそれを追った。

『本日は太上老君もいらしています』
 そこにはいったいいつからいたものか、全く気配を感じさせなかった小柄な老人が
にこにこ顔で立っていた。

「おじーちゃん、誰?」
 ”太上老君”という名に身を固くした金蝉とは対照的に悟空はやはりどこまでも悟空
だった。
 (しかし何故、太上老君が・・・・)
 太上老君といえば、全ての神の師父と言ってもいい存在であり、天帝さえもその言葉に
は重きを置く如来と同等、もしくはそれ以上の神である。

「わしは太上老君、したが呼びにくかろう。おじーちゃんで構わぬよ」
「わかったー♪」
 元気よく返事をした悟空は太上老君の足元にしきりに視線をやる。
「どうした?これが気になるか?」
「うんっ!それ何?!」
 太上老君の足元に何か白い物体がちらついている。
 太上老君は身をかがめるとそれを手にとった。
「これは今朝方生まれた白虎の子供だ」
「へぇ〜〜、触ってもいい??」
 興味津々な悟空に太上老君は白虎の乗る手を差し出した。
「うわ〜・・ちっちぇ・・・・」
 幼い悟空の両手の大きさほどしか無い白虎の子供は悟空に触れられてびーっと声を
あげ、ぺろりとその指を舐めた。
「くすぐってぇっ!」
「ほっほっほっ、どうやらこいつはお主のことが気に入ったらしい」
「ホントか!?」
 悟空の声にあわせてまた白虎がびーっと泣き声をあげる。
「こいつはお主にやろう」
「うわーっホントかぁ!!・・・・あ、でも」
 そこでようやく金蝉を思い出した悟空がちらりと視線を向ける。
 ”飼っちゃだめ?”と伺うように。
 ここで普段の金蝉ならば『動物が動物を飼ってどうする!とっとと元に戻して来い!』
とでも言うところであるが、モノが白虎であるだけにそうもいかない。
 四聖獣である白虎は幼くても、自分の主は見極める。
 たとえ朝生まれたばかりだとしても・・・・・・・・・・・・・・・・・・たぶん。
 その白虎が悟空を選んだのだ。

「・・・・・面倒は自分で見ろよ」 
 一瞬悩んだ後に金蝉は悟空にそう告げた。
「うんっ!ちゃんと見るから!金蝉、ありがとう!!」
 太上老君から白虎を受け取ると悟空は嬉しさのあまり、それを空中へ放り投げた。
 さすがにそれには白虎も慌てたか、空中で足をじたばたさせて無事にキャッチされた
悟空の手に全身でしがみついた。


「その白虎が成人したころ、わしのところへ来るがよい」


「・・・・・・!?」
 何気なく言われた太上老君の言葉。
 しかし、それは如来の『弟子』というセリフ以上の響を持って金蝉の元へと届く。


(・・・・いったい悟空に何が・・・・・・・・?)


「うんっ!こいつが大きくなったら見せに行くね!」
 ありがとう、おじーちゃん!と悟空は礼を言ったのちに金蝉の元へと戻ってくる。
「見てみて!金蝉!!こいつすっげー可愛いっ!!」
「・・・・・・良かったな」
「うんっ!!」
 邪気なく笑う悟空。

 (これが・・・・天地の子供・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさか!?)
 
 金蝉の胸中をよぎった予想に咄嗟に観世音、如来、太上老君へと視線を流す。
 その顔はどれも悟空をやさしげに見つめ、慈愛に満ちている。

 (まさか・・・・・・・・・・・)



 如来の弟子になり。
 太上老君の教えを受ける。
 


 
 それはかつて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・











 天帝が辿った道。













† あとがき †

うわー、どうするんだよっ御華門!・・・てな話の流れです(爆)
焔はまたもや登場なしだし・・・はぁ。
先の話は頭にあるんですがその間が抜けているので
それを埋めるのが大変なのです(と言い訳してみる)
まさしく暗中模索・・・・どうなるのやら、です(+_+)





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