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第二幕
*2*
- 罪 -
くっ・・・。 くっくっくっ・・・・・・っ。 声無き笑いがこみ上げる。 口元を歪め、両手ばかりでなく手足までも鎖につながれた己を笑う。 悟空を腕に抱いたのは夢だったのか。 己の見せた願望? ・・・・いや、あのぬくもりは真実だった。 闇の中でぼんやりと想う。 一瞬、すりぬけていった・・・愛しき存在。 『焔、お前はわかっているよな?自分の罪を』 観世音菩薩が焔に宣告する。 『・・・・・ああ』 わかっているとも。 まがりなりにも天帝の名のつくものを殺した・・この手で。 それがどれほどの重い罪か・・・。 そして。 自分がその気になれば、その罪を無視することが出来ることも・・・・。 その結果。 悟空の立場が悪くなることも。 わかりすぎるほどにわかっていた。 だから。 たいした反抗もせず、鎖に・・・・牢につながれた。 全ては悟空のために。 カシャン・・・ッ。 遠く、どこかで鍵の外される音がした。 「焔」 抑揚の無い静かな声。 「・・・・・如来か、尊き身がこんなところへ何の用だ」 皮肉だった。 焔は如来が仕掛けたことを・・・決して許してはいない。 機会が・・・力があれば、如来だとて滅ぼすつもりだった。 「今日は天帝の即位式でありました」 「・・・っ!?」 天帝、すなわち悟空・・・その近況に焔は目を見開いた。 「まだ、幼き御身ながら立派に天帝としての勤めを果たされました」 「・・・・そんなことを言いに来たのか?」 言われるまでもないこと。 悟空は一度やると決めたことは必ずやり遂げる。 ・・・・どこまでも信じて。 「けれど・・・・」 「何だ?」 「お倒れあそばされた」 「・・・っ!?」 「・・・焔、そなたの次期闘神ナタクの祝いの言葉を受け取り、すぐに」 では。 悟空は知ったのか。 自分がすでに闘神としての位を剥奪されたのを。 「お目覚めになられた天帝はそなたに会いたいと・・・無理だと申し上げても聞き入れて 下さらずお嘆きになっている」 「・・・・・・」 会いたかった。 ・・・・ただ、悟空に会って笑顔を見たかった。 「焔。そなたが存在ゆえに天帝はお心騒がせられる」 「・・・・何が言いたい?俺に消えろとでも?」 冗談ではない。 ・・・黙って消えるために天帝を殺したわけではない。 全ては悟空をこの手に取り戻すために。 ・・・傍にあるために。 「話し合いでそなたの処遇が決まった」 「それはまた早いことだな」 くっと口を歪ませる。 どうせ、その話し合いとやらはろくでも無い奴らが勝手に決めたこと。 ・・・悟空は知らされていないに違いない。 「焔。そなたは天界を永久に追放。重ねて・・・・獄界へ繋ぐこととなった」 淡々とした如来の言葉。 ・・・・悟空に会いたかった。 「金蝉っ!!」 厚い扉の奥に閉じ込められた悟空は現れた金蝉の姿にぶつかるように走り寄った。 「・・・っと、何しやがるっ!この馬鹿サル!」 何とかそれを受け止めた金蝉はすぱーんっと悟空の頭を一打ちした。 ・・・・悟空が天帝となっても対応は変わっていないらしい。 「何だよっ!!こんなとこに閉じ込めたくせにっ!!」 ただ、自分は焔に会いたかった。 それだけなのに。 何故、それが許されない? どうして、こんなところへ閉じ込められる? ずっとずっと・・あの腕にあることを焦がれていたのに。 「悟空。今のお前は天帝だ。・・・・誰か一人に縛られることは許されない」 「・・・許されなくてもオレは焔の傍に居たいっ!好きな人の傍にいられないなんて俺が 天帝になんかになった意味ないじゃんっ!」 「・・・・・・・・」 「金蝉っ!!」 「・・・・・そうだな、悟空」 ここで理不尽な処遇に頷けば、天界は変わらない。 以前と同じく腐るだけだ。 金蝉はそんなものを見たくて悟空の傍にあるのでは無い。 ともすれば旧体制にしがみつく天界上層部の思惑から悟空を守るために。 「焔に会わせてやろう」 「・・・・うんっ!」 差し伸べられた金蝉の手に・・・・笑顔を浮かべて悟空が手を重ねる。 お前は・・・・笑っていろ。 「どこ行くんだ、金蝉?焔の宮ってこっちだろ?」 正反対の方向に進む金蝉に悟空が首を傾げる。 道はだんだんと荒れ、景色は展開に有らざる暗さを帯びる。 ・・・・・空気が違う。 「焔は・・・・宮には居ない」 「だって・・・宮に幽閉されたって・・・」 「お前に教えられたのは偽りだ。本当は・・・・・・神族用の牢に繋がれている」 「・・・っ!?嘘っ!!何でっ!!」 「・・・それほどの危険人物だと思われているんだろう」 金蝉も未だ、足を踏み入れたことのないその牢。 暗く、冷たく忌まわしいそこは、力の全てが封印されると聞く。 「ここだ」 「?何も無いよ?」 金蝉が立ち止まったそこには、草も花も無く・・・ただ荒れた大地が広がる。 「よく見ろ」 「・・・・・?」 金蝉の言葉に前方をじっと見詰める。 陽炎が・・・・立ち昇った。 その奥に現れた、そびえ建つ鈍色の無機質な箱。 「・・・・ここに、焔が居る、の?」 「ああ」 「・・・・行く」 悟空は金蝉の手を握りしめ、一歩足を踏み出した。 「待てよ」 背後から声がかかった。 「・・・・邪魔をするな、観世音菩薩」 「心外だな、ただ忠告してやろうという優しい叔母さんの気持ちがわからないのか?」 「わからんな」 「・・・観音のおねえちゃん・・・・」 突然、現れた観世音菩薩を悟空は見上げる。 「悟空、悪いことをした奴にはちゃんと罰を与えてやらないとダメだ。わかるな?」 子供に言い聞かせるように、観世音は悟空に告げた。 「わかるよ・・・・でも、焔がどんな悪いことしたって言うんだよっ!」 「天帝暗殺は何よりも罪が重いだろ?」 「・・・違うもん、焔はやりたくてしたわけじゃないっ!!天帝が最初に悪いことしたんだ!」 悟空を問答無用で天界に連れ去り、騙すように焔を闘神にした。 放っておけば良かったのだ。 全てを・・・・・・二人を。 「それでは、皆が納得しない。お前を天帝と認めない」 「それなら天帝になんかならないからいいっ!!」 「・・・・・チビが随分と口が立つようになったじゃないか・・・なぁ、金蝉」 「知るか」 こんな状況だというのに、どこか面白がっている観世音の気配を感じて金蝉は 眉間に皺を寄せる。 「焔に会わせろよっ!!」 会いたくて会いたくて・・・・・眩暈がした。 「悟空」と優しい声で・・・ただ、傍に居てくれるだけで・・・・・満たされた。 「・・・・一足、遅かったよ、悟空」 観世音は静かに宣告した。 「ど・・・・・・・・どういうことだよっ!?」 「焔はもう天界には居ない」 「・・・・・・・っ!?」 「光届かぬ、闇へと落とされた」 |
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† あとがき †