【14】 闇






 いったいどうなることかと思っていた濃姫の輿入れは、つつがなく執り行われ、尾張中が沸き立っていた。
 ほとんど人質のような立場の濃姫だったが、信長との夫婦仲も良いようで、喜ばしい。
 だが、日吉だけは。
 秀吉、と名乗った悪魔に言われたことがずっと頭の中でぐるぐるとまわり・・・離れなかった。

 (あいつと・・俺が、双子・・・・・・)

 いやいや、と首を振る。
 そう思わせることが悪魔の狙いなんだ・・・・そう考えるのが当然だと思う・・・けれど。
 天使としてはまだまだ見習いの日吉に近づいて、騙して・・・どんな利益があるというのか。
 そもそも日吉が下界に来るなんて悪魔にわかるわけが無い。

 (悪魔が言うことは嘘・・・嘘のはず・・・でも、もしも、本当だとしたら・・・)

 日吉も、悪魔なのか?
 出来損ないっていうのは?

 わからない。

「・・・・わからないことだらけだ・・・・」




 ガツッ!!




 突然の頭への衝撃。日吉の目から星が飛び出した。
 あまりの痛さに声もなく頭を押さえて視線を上げると、血管を浮き立たせた信長が仁王立ちしていた。
「の、信長様・・・?」
「てめぇ・・俺を無視するたぁ、いい度胸じゃねぇか・・・」
 声が、地を這っている。
「はっ!?そ・・・そそそそ、そんなことするわけないじゃありませんかっ!!」
「うるせぇっ!さっきから呼んでんのに無視しやがって・・・あぁ?」
「すすす、すみませーんっっ!!」
 また殴られる、と思って頭をかばい、目を瞑った日吉だったが・・・何故か、衝撃がこない。
「・・・・??」
「・・・何が、だ」
「は・・・・?」
 訳がわからず、信長を見ると・・・照れたようにそっぽを向いている。
「あ、の・・・・??」
「・・っ何でもねぇっ!!おらっとっとと行くぞっ!!」
「は、はいっっ!!」
 馬が駆けていくのを日吉が一生懸命追いかける。
 いつもの風景。


 それを見ていたのは・・・・。







「覗き見とはやることがせこいね〜」
「・・・・・。・・・・・くそ死神が、てめぇこそ人のことが言えるのか?」
「俺のは覗き見じゃなくて、”見つめてる”の。愛しい愛しい俺の天使を、ね♪」
 丘の上にそびえ立つ1本の大木、その下に秀吉、上に五右衛門。
 秀吉は五右衛門の言葉に地に唾を吐いた。
「あいつが天使・・・?お笑いだ」
「”ただの”天使じゃないよな。でも俺にとっちゃ、日吉は天使さ・・・だから、あいつに手出す奴は容赦しない
 つもり〜、そこのとこよろしく。お・と・う・と君?」
「・・・・・・・」
 死神に殺気が投げつけられる。
「おーこわ」
 全くそんなことも思って居ない軽い口調で言われ、秀吉は死神の立っていた枝を塵に化す。
 だが、死神は元の姿勢のまま宙に浮き、ひらりと秀吉の前に降り立った。

「ただし、日吉を天界へ帰らせない、て協力ならしてもいいけど?」
「・・・・・・・・お前、あいつのがことが好きだのふざけたことを言っていなかったか?」
 嫌だなぁ、とへらへら笑いながら五右衛門がパタパタと手を振ってみせる。

「好きだから傍に置いておきたいんでショ?」

「・・・・死神が」

 吐き捨てるように言い、秀吉は姿を消した。






   

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