【10】 約束






「もう大丈夫だぜ、目開けても」
 言葉と共に、とんと地面に下ろされる。
 気分の悪さも不思議と収まっていた。
「あ・・え・・・・?」
 事態の急展開についていけない日吉は、おたおたと視線を泳がせ・・・笑っている死神を見て
 ぺこり、と頭を下げた。
 死神の眉がぴょこり、と跳ねる。
「あの・・ありがとう・・・」
 何が起こったのかはよくわからなかったが、この死神に日吉が助けられことは確かなので
 お礼を言わなければ、と頭を下げたのだ。
「いいって、いいって。俺には大したことじゃないしな〜」
 死神がぱたぱたと手を振る。
「あ〜でもどうしてもお礼がしたいっていうなら・・・」
「お礼・・・あ、うん・・・俺、持ち合わせがこれだけしか無いんだけど・・・・」
 日吉は懐から薄汚れた巾着を取り出す。
 口を開くと中には本当に僅かな額の永楽銭が見えた。
 それは日吉が信長につかえるようになってからもらえる雀の涙ほどの給金を少しずつためて
 いったものだった。
 死神は苦笑する。
 人間の世界でしか通用しないものを貰ってどうしようというのか。
 何の計算もなく、本気でそれを渡そうとする日吉があまりに面白い生き物に映った。

 (うわ・・・当分退屈しないですむかも・・)

「そんなもんいらねぇって」
「あ、そうだよね・・・これだけしかないし・・」
 どうやら日吉は金額が少なくて死神がいらないと言ったのだと勘違いしているらしい
「そうじゃなくってな、俺ってば死神の中でも優秀でさ〜、雇うにはそれなりに報酬が必要なわけ。
 で、その報酬ってのは当然・・・・魂の力だったりするんだけどな。しかも上級ね♪」
「あ・・・」
 漸く日吉も思い出したらしい。
「でもさぁ、お前見習いだろ?俺に報酬として支払えるような魂の力なんて持ってなさそうだしな。
 ここは、通りすがりの俺の気まぐれてことにしとこうや」
「え・・・でも。それでいいの・・?」
「俺がいいって言うんだから、いいの。ま・・もし日吉が出世して極上の魂を扱えるようになったら
 そん時はよろしく頼むね〜」
「は・・・・い・・・てっ!そんなのダメに決まってるだろっ!!」
 危うく頷きそうになった日吉は、重大な任務違反の誘いにとんでもないっと首を勢い良く振った。
 そして軽く笑う目の前の死神を睨みつける。
 だいたい助けてもらったのには感謝しているが、天使である日吉が死神なんかと和気藹々して
 いる場合では無い。

「それじゃ、一つだけ」
「・・・なに?」
 とりあえず、聞くだけは聞いてやろうと日吉は死神を上目遣いで見上げた。
「名前呼んでよ、俺の」
「・・・・あんたの?」
「そ!」
「・・・・・・。・・・・・・・・何で?」
「呼んで欲しいから♪」

 この瞬間から、日吉の死神・・・五右衛門に対する印象は確定した。
 つまり―――― 『変な奴』

「な、な、日吉♪」
 
 どうしてそこまで死神が日吉に名前など呼んで欲しいのかわからなかったが、助けてもらった
 ことだし、それぐらいですむのなら・・・と口を開いた。

「・・・・五右衛門」

 日吉に呼ばれてよしっと五右衛門は破顔すると、頭二つぶんは低い日吉の体を引き寄せて
 その額にキスを落とした。

「困ったことがあれば呼べよ、助けてやるからさ♪」

 額を押さえて呆然としている日吉に五右衛門はにやり、と笑うとぽんと肩を叩いて「じゃぁな!」
 とどこかへ消えうせた。

 












 その後、日吉が城に帰り着いたのは地平線に日も落ちようかという頃で、待っていたらしい信長に
 さんざん殴られ、蹴られ、散々な目にあったのだった。




   

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最後の”額にキス”のシーンが書きたくて連続更新を
頑張ってみました!(笑)
ネタは忘れないうちに書くに限ります(苦笑)

『鉄は熱いうちに打て!』

・・・です(笑/おいおい)


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