【9】 死神
| 『いいですか、下界には天使でもなく、悪魔でもなく、そして人間で無いものも存在します。それを 何と言うかは皆さんも知っているでしょうが、『死神』といいます。彼等は不遜にも”神”の名を 冠してはいますが、それは全くの間違いであり、どちらかといえばそれは悪魔に近い存在で あるといえるでしょう。この世の理において、全ての魂は正しき場所へと導かれなければなりま せん。すなわち、神の御許です。死神はその導かれる魂をどのような手を使うのか、私たち天使が その場所へつくまでに惑わし懐にいれてしまいます。・・・どうしてそのようなことをするのか?これ まで実際に死神に出会った仲間たちによると、己の力に変化させてしまうこともあり、また取引材料 にして悪魔から力を得るのだといいます。どちらにしろ、彼らのような者を相手にしてはいけません』 日吉は学校で習った死神についての講義を思い出していた。 何しろ、目の前にその死神が現れたのだ。 「・・・・さ、さようならっ!」 相手にしてはいけない・・・となれば、ここは逃げるしかない!・・と日吉は思い込み死神に 背を向けた・・・・のだが。 いっこうに体は進まない。日吉の足は空をきっている。 ・・・死神ががっちりと日吉の衿を掴んでいるのだ。 「まぁまぁそう、急ぐなって〜。見習い天使に会うなんて滅多にない機会だからな〜」 「は・・・放せ〜〜ぇっ!!」 (うぅ・・先生・・・相手にしたくないのに捕まったときはどうすればいいのか教えてもらって ませ〜んっっ!!) 「んで、名前は何ていうの?」 「・・・・・・」 日吉は貝になる。 「言わないんだったら勝手に呼ぶけど・・・ゴンベエ?」 「違いますっ!日吉っていいます!」 いくらなんでもそんな名前で呼ばれたくはない。 すると、死神は再びツボに入ったらしくくっくっくっと笑い出している。 何なんだ・・・?笑い上戸なのか? 「いや〜何か・・・いいね〜、今まで俺が見てきた天使てみんなお固くてつまんなかったのにさ〜 見習いってみんな日吉みたいなの?」 「・・・うるさい」 死神は日吉のコンプレックスを刺激した。 死神も言ったように、日吉は・・・周囲の天使たちとはどこか違っていた。 まず、日吉は”美しく”無い。 天使という存在は、何故か皆、”美しい”という形容をつけられることが多く、実際に美形が多い。 というよりは、美形ばかりなのだ。・・・その優劣に差はあったとしても。 だが、日吉はとてもではないが美しいという容姿ではない。 そのせいで仲間たちに馬鹿にされたことは数しれず・・今では笑ってかわせるようになったが 根深いところで日吉のコンプレックスになっている。 そしてもう一つ。 日吉には親が居ない・・・知らないのだ。 天使などは人間と違い生殖活動によって増えるわけではない。力の交感によって新たな”力”を 生み出すのだが・・・日吉は自分の元となった天使を知らない。 通常そんなことは在りえない。 かくして日吉は天使の中でも『異色』とされて、見習いにもなれなかった”子供”の頃はよくイジメ られたものだ。 「ごめんっ!」 「・・・は?」 いきなり死神が日吉に頭を下げた。 「何か悪いこと言っちゃったみたいだな。・・でも俺は日吉みたいな奴のほうがいいと思うぜ」 「・・・・あ、ありがと・・・」 悪魔と同じくらいに酷い存在であるはずの死神があまりに素直に頭を下げるので拍子抜けした 日吉も思わずお礼を言ってしまった。 「お詫びにメシ奢ってやるて、な?」 「え・・いや・・・俺・・」 そんな暇は日吉には無い。 用事を済ませたのだから一刻も早く信長のもとへ帰らなければならない。 「何か用事があんの?それなら仕方・・・」 ないな〜と続けようとした死神が突然真顔になって、日吉を抱えると数メートル後退した。 その足跡に、何か鋭いものがドスドスドッ、と突き刺さる。 「な・・・っ!」 突然の事態に日吉は抱かれたままで言葉をなくした。 「危ないね〜」 死神はのほほんとした緊張感の無い感想を漏らしている。 「な・・・何が・・・??」 何かが飛んできた先に・・・小さな影があった。 体勢が悪く、はっきりと日吉にはその顔が確認できない。 「・・・そいつを放せ」 「嫌だね〜、お前こいつのこと殺そうとしただろ?」 「悪いか?お前には関係ないことだ」 日吉の体がびくり、と震えた。 (・・・殺す・・・・て・・・・・・・・・・・・・俺をぉぉっ!??) 「関係あるある。だって俺、日吉のこと好きだもん」 「・・・くだらねぇことを・・・てめぇ死神だろうが、天使なんかと仲良くしてんじゃねぇよ」 (・・死神・・・天使??・・・な、何で・・・知って・・・・だ、誰???) 「あ、俺。はぐれだから。それこそ関係ないって」 「・・・邪魔するなら、てめぇも殺すぞ?」 「出来るんだったらな?」 死神が笑う気配がする。 対する相手は凄く不機嫌そうで・・・殺気がびんびん伝わってくる。 (何・・何で・・?・・・・う・・) 「気持ち・・・わる・・・・」 日吉の顔色がどんどん青く変わっていく。 寒気がして、頭痛がする。 今まで感じたことのない”負”の気に日吉の体が拒絶反応を起こしているのだ。 「日吉・・?大丈夫か?」 死神の心配そうな声がかかるが、日吉の体はぐったりしてしまっている。 「・・・ここは一時撤退だな」 「っ待ちやがれっ!!」 「と言われて待つ馬鹿はいな〜いの〜」 死神は日吉を抱えたままで、容易く宙を飛んでみせる。 ギャラリーが居れば、さぞかし驚いてくれたことだろう・・・が、ここにはぐったりした日吉と 正体不明の敵しかいない。 「じゃ〜な〜〜」 「この・・・クソ死神がっっ!!」 敵の悔し紛れの一言に死神は不適に笑うとその姿を消した。 |
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敵なんです。うん(おいっ)