【8】 遭遇
| 「あれ〜、何でこんなとこに見習い天使なんかがいんの?」 背後からかかった声に、日吉は固まった。 ++++++++++++++++++ 命からがら逃げ出した美濃から尾張に帰ってきて一ヵ月。 何やかやで嫌がっていたはずの信長の結婚はあっという間にまとまって、濃姫様の お興いれも目前に迫っていた。 尾張は世継ぎの君の祝いごとに、お祭りムードで明るかったし、日吉もその後信長に 無理難題を言われることもなく、上司に言われた迫りくる魔手とやらも影も形もなく、 日吉は概ね・・・そう、まぁ、平和に過ごしていた。 「おい、サル」 「は、はいっ!」 「ほらよ」 信長は遠乗りから帰ってくると、日吉へぽんと金貨を差し出した。 「へ・・・?」 いったい何事かと日吉はわけがわからず、手のひらの上のずっしりと思い金貨に 目をそそぐ。 「使いだよ、使い。頼んでた着物が仕上がったらしいんでな、てめぇ取りに行ってこい」 「は・・・」 はい、と頷きそうになって日吉は留まった。 一応、日吉は悪魔から信長を守るために傍に居る。離れては意味がない。 光秀ほどになれば多少離れていても守護する人間に結界でも張れば大丈夫なのだろが 日吉はまだまだ見習い。そんな高等なことできるはずもない。 「えーと・・・・」 「つべこべ言ってないでさっさと行けっ!」 「は、はいぃっ!!」 けれど、信長に逆らうことが出来ない日吉は涙を流しながら城下へと走り去った。 「えーと、傾奇堂・・傾奇堂・・・」 いつもは信長に引っ張られるままに連れてこられる店を探しながら日吉は歩いていた。 きょろきょろと小動物のように首を動かし、時折足元の石につまずく様子は盗人ならず とも”カモがねぎしょってるぜ”、てなものだが、日吉の主が信長であることを知っている 街の人々は仕返しを恐れてそんなことはしやしない。 かくして、尾張の街は治安がいいよな〜と日吉はしみじみと思っていたりする。 誤解である。 「あ、ここだ・・・ごめんくださ〜い」 「はいはい、いらっしゃいませ・・・ああ!これはこれは信長様のっ!」 「着物が出来ていると伺ったので頂きに参りました」 腰の低い主人に、日吉も負けず劣らず腰を低くして答える。 「はいはい、こちらでございます」 「・・・・・相変わらずな柄ですね・・・・」 「ははははは・・・(汗)」 示された着物を見て、日吉は口元をひきつらせつつ評した。 店主もどことなく、笑顔に無理が見える。 信長の趣味は常人の理解を超えている。 「いつもご苦労をおかけします。これが代金で・・」 「いえいえ、こちらこそ毎度ご贔屓にしていただきまして。はい、確かに。ありがとうございました」 品物を信長に預けられた金貨と交換して、店を出た。 信長には言われなかったけれど、日吉は城への道を急ぐ。 こうして日吉が留守にしている間も、もしかすると信長に悪魔が近づいているかもしれない。 そんなことにでもなれば、目も当てられない。 日吉をみこんで、見習いであるにも関わらず下界に下ろしてくださった上の方々に申し訳が たたない・・・・それに。 それに・・・・。 「あれ〜、何でこんなとこに見習い天使なんかがいんの?」 背後からかかった声に、日吉は固まった。 ++++++++++++++++++ 「よいしょっと」 そんな掛け声と共に、すっと何かが落ちてくる音がする。 日吉が強張る顔を必死で後ろに向けると、ぴんぴんとはねた元気のいい髪形の妙に軽そうな 男が立っていた。 「なぁなぁ、あんた天使だろ。しかも見習い」 「・・・・さ・・・・さ・・・・な、何かの間違いじゃないですか・・・?」 狼狽のあまりどもりつつも、日吉は笑顔を作ってみる。 「そんなまっピンクの羽根出してて間違いも何も無いだろ〜?」 「えっ?!」 そんなはずはっ!?・・・と日吉は己の背中をおたおたと撫でてみる。 ・・・・出てないじゃん・・・ 嘘ばかり、と目の前の男をにらみつけると、腹を抱えて笑っていた。 「くっくっく・・・そんな素直な反応・・っ自分で認めてるようなもんじゃんっ?」 「あ・・・・」 さぁ・・と日吉の顔が赤くなり、青くなる。 そんな日吉に男がますます笑いころげる。 (・・・いったい何者・・・・?) こう見えても日吉は見習い学校では主席を争う立場にあった。完全に主席になれなかった のは、運動能力にちょっとばかり足りない部分があったからで、一旦腹を決めれば強い。 日吉は自分の正体がバレたのは置いておいて、目の前の相手が何者か見定めようとじっと 観察する視線を注いだ。 天使・・・では無いだろう。 天使であれば、自分をこんなふうにからかったりはしないはず。 では・・・悪魔? 「あー、違う違う。俺、悪魔じゃないから」 「え・・・」 「お前ってすぐ顔に出るのな〜気をつけたほうがいいぜ?」 「う・・・・だ、だったら・・・あんた誰?」 「俺?俺は石川五右衛門。職業は死神でぇ〜すっ♪」 「は・・・・・?」 あまりに明るすぎる死神だった。 |
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五右衛門登場♪