【6】 救命






「はぁっはぁっはぁっ・・・もうっ・・・酷すぎます・・っ!!」
 しつこく追いかけてくる武士たちに日吉は息も絶え絶えだ。
 もともと羽根の補助がある天使の日吉は足腰もそう強くは無い。
 ・・・信長に仕えるようになって鍛えられてはいるが。

 日吉は体を支えようと目の前にある石へ手を置いた。





 ぐぁらんっ。



「・・・・・・・・・え゛」
 その石がごろんと転がる。
 ・・・・・・日吉も転がる。

「えぇぇぇぇっっっ!!!!!」
 叫び声をあげながら。
「ななんななん・・・・何だぁぁぁっっっっ!??!?!??」


 いきなり天地がさかさまになったと思ったら、日吉はどこかを勢いよく滑り落ちていく。
 滑って滑って・・・・

 ぽんっと宙へ放り出された。



 どすんっ。


「いっ・・・たーーっ!!」
 腰を打ちつけた日吉は生理的に浮かび出た涙をにじませながら、顔をあげた。

「あら、女華。可愛らしいお客様よ」
「左様でございます」
 美しい女性と、その女性を守るように長刀をかまえた勇ましい(いかついではない)
 女性が目の前に立っていた。

「・・・えーと・・・・・???」
 ここはどこ?
 あなたたちは?
 日吉の脳裏に疑問が駆け巡る。

「せっかくのお客様なんだからお茶を用意してさしあげて♪そういえば京から取り寄せた
 お菓子があったでしょ、それも出してちょうだい」
「かしこまりました、姫様」
 日吉が呆然としている間にも二人の間で話は進んでいく。
「あなた、お名前はなんと言うのかしら?」
「え・・え・と・・・えとあの・・ひ、日吉といいます」
「良い名前ね」
 にっこりと微笑む女性に日吉は頬を染めつつ、やはり女性というのは教えてもらった
 ように美しく儚く、か弱い存在なのであって、信長が言うような怖いものでは無いと
 考えなおす。
「姫様、用意ができました」
 ほけ〜と見惚れていた日吉は女華と呼ばれた女性の声にはっと我にかえる。
「ありがとう。では日吉、ちょっとお部屋を移動しましょう」
「え?・・・は、いや・・・あのっ俺・・」
 ついつい二人のマイペースに流されそうになっていたが、こんなところで暢気に
 お茶などしていたことを知られれば信長に後で何を言われるかしれない。
「よ・・用事があるので、申し訳ありませんっ!」

 日吉は立ち上がると、部屋を飛び出した。




「あーーっ!!」

 ・・・が、その日吉の目の前に何故か信長が仁王立ちして日吉のことを指差している。

「あ、信長さま・・・」
「てめぇ、何でそんなとこに居るっ!?」
「何で、て・・・何ででしょう・・・??」
 そもそも美濃に無理やり連れてきたのは信長だが、今現在日吉は何故自分がここに
 居るかはわからない。転がって滑り落ちたらここだったのだ。


「こっちだぞーっ!」
「こっちに曲者が居るっ!!!」

 二人の騒ぎを聞きつけて武士たちがかけてくる。

「うわっ、やべ・・」
「信長様っ!」
「馬鹿っ!名前で呼ぶな!!」
「な・・そんな・・・っ」
 

「騒々しい、何事ですか」
 騒がしい場に凛とした涼やかな声が響く。
 それは、日吉をお茶と菓子でもてなそうとしてくれた美しい女性の声だった。

 日吉と信長、武士たちの視線が一斉にそちらへ向く。

「帰蝶姫さまっ!いけませんっ!」
「曲者です!お出になっては危険ですっ!」
 叫びつつ武士たちは日吉と信長を包囲する。
 ますます不味い。

 日吉は真っ青になって信長の裾にすがりついた。

「へぇ・・・あんたが帰蝶姫か・・・・美人だな。とてもマムシの娘には見えねぇぜ」
 だが信長は慌てず騒がず、帰蝶と呼ばれた女性をじろじろと眺めている。
「無礼なっ!!」
 それに怒ったのは帰蝶ではなく、傍で長刀を構えていた女華だった。
 主人である帰蝶の前に立ちはだかり、信長の視線から帰蝶をかばう。
 帰蝶はそれを手で制すと、美しい笑顔で信長に言い放った。

「どこの誰だかわかりませんが、よくぞここまで忍こみました。ですが無事で帰れるとは
 思わないことです。皆の者!すっぱりやっちゃいなさいっ!」

『『おうっ!!』』
 帰蝶の言葉に二人を取り囲む武士が気持ちのいい返事をかえした。

「あ、でもその子は駄目よ。今から私のお茶の相手をするんだから」
 ね、とにっこり日吉へ笑いかける帰蝶。
「・・・サル、てめぇ・・・人が苦労してるときに何してやがった・・・・?」
 日吉の頭上から信長の冷たい視線が突き刺さる。
「ごごごご、誤解ですっ!何もしてないですっ!!ていうか逃げてただけなのにっ!!」
「うるせぇっ!てめぇ帰ったら覚悟してろよっ!」
「ひぃぃぃぃっ!!」

 何だかよくわからないが絶対絶命の危機である。
 日吉も・・・・武士に取り囲まれてやっちゃいなさいと言われてしまった信長も。






・・・何だかよくわかんないけど、止まれーーっ!!」

 日吉は天に向かって叫んだ。






   

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頑張れ、日吉!(笑)
負けるな、日吉!(笑)


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