【5】 下命






 ・・・ちょっと、て言ったはずなのに・・・・・

 日吉は主である信長と共に草むらの影に潜みながら涙を流した。







 ちょっとついて来い!と信長に言われ、馬の上で揺られるままにたどり着いたのは。
 
「・・・あの、ここはどこなんでしょう?」
「美濃に決まってるだろが」
 何がどうして決まっているのか到底日吉にはわかりもしなかったが、美濃といえば
 確か、光秀様がお仕えしているという・・・
「ああ、信長様の奥さんがいらっしゃる・・」
「アホかっ!まだ結納もかわしてねぇのに奥も何もあるかっ!!だいたい俺はこの
 結婚には反対なんだ!だいたいあのマムシの娘だぞ!?ブスに決まってる!」
「そんな・・・っ!」
「そうだろう、お前だって反対だろうが」
 信長は日吉に同意してもらって満足のようだが、ところがどっこい。
「そんな・・・女の人に向かってブスだなんて・・・酷すぎますっ!!」
 天使である日吉は見習い学校で、人間の女性とは儚くか弱い生き物だから魂を
 導くときには細心の注意が必要であると習っていた。
「サル・・・」
 だが、信長は改心するどころか恐ろしい形相になって日吉に迫る。
「いいか、夢と現実は別なんだ。女ってのはな、それはもう〜恐ろしく強い生き物で」
「そ、そうなんです・・・か?」
「そうなんだよ。いいか、あいつらは一度怒らせるともう手におえん。忠告しておいて
 やる。絶対に女を怒らせるな」
 鬼気迫る信長の言葉に日吉はごくり、と唾をのみこみ神妙に頷いたのだった。

「・・で、話は元に戻るんですが・・どうして信長様はここへ・・・?」
「決まってるだろうが、顔を確かにきたんだよ。俺はブスを嫁にするつもりはねぇ!」
「・・・・人の価値は顔では決まりせんよ」
 人の価値はその魂にこそある。
 外見がどれほど美しくとも黒く醜い魂がある。
「だが、顔で第一印象は決まる」
「・・・・・。・・・・・」
 確かに一理ある、と日吉は納得。
「というわけでお前は囮だ」
「・・は・・はいぃっ!?」
「妙な返事をするな!お前は囮となって護衛の兵をひきつけておけ。その隙に俺は
 マムシの娘とやらを見に行く」
「・・・えーと、その場合、俺を助けてくれるのは誰なんでしょう・・・・?」
「・・・・・・・。・・・・・・まぁ、頑張れ」
「信長さまぁぁっ!!!」
「つべこべ言わずにさっさと行けっ!!」
 信長は日吉に蹴りを入れた。



 ごろんと、草むらから転がり出る日吉。



「何だっ!?」
「曲者かっ!!」
「怪しい奴っ!!」




「あうぅ・・俺はただの通りすがりですーーーっ!!(涙)」
 叫んでみるがそんなことを誰が信じるというのだろう。
 ここは城の奥。
 日吉のようが下人が通りがかるような場所ではない。


「捕まえろっ!」
「何奴っ!!」


 追いかけられれば逃げるしかない。


「うー、信長様の・・・・バカヤローーーっ!!!」


 日吉の叫びは秋の空に消えた。
 さて、日吉は無事に逃げ延びることが出来るのか?








   

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酷いな〜信長様。
苦労人だ、日吉(笑)


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