【4】 来命








 馬は駆けていた。
 どこまでもどこまでも、地に砂埃をあげて。

「ひーーっ!もうっ勘弁して下さいって!」
 その後を悲鳴が続く。
 ・・・・日吉、だった。
 
 
 







 
 信長に助けられ、うまく仕えることが出来ることになった日吉は・・信長の草履撮り・・
 雑用係というか、まぁはっきり言ってしまえば下僕として、信長が行くところどこへでも
 徒歩でついて行かされた。
 ・・・例え信長が馬を走らせたとしても。

「遅れるな!サル!」
「はいぃっっ!」
 そうは言っても馬の足に人間の足が敵うわけがない。
 また小柄な日吉は体力もあまり無い。
 最初こそ一生懸命について行っても、だんだんと遅れ・・・信長の背が遠くなる。

「の・・信長さま・・っ」
 叫ぶ声も、かすれて肩で荒く息をつく。
「む・・無茶苦茶ですよ・・」
 それとも人間というものは皆、そうなのか?・・いや、彼だけだと思いたい・・これから
 人間としてやってかなければならない日吉としては。

「おら、何をごちゃごちゃ言ってやがる。そんな暇あれば足を動かせ足を!」
「・・・っ信長様っ!」
 いつの間にか戻ってきていた信長の声が頭の上からかかる。
 そして、信長はそのまま日吉の腕を掴み・・馬に鞭を当てた。

「の・・信長さまっっっっ―っ!」


 本日も尾張の空に叫び声が響く。


 こうして、日吉にとっては大変でも傍から見れば至って平和な日々が過ぎ去っていく。
 出会った頃は、青々とした緑に覆われていた森も、今は赤く色づきはじめ、秋の訪れ
 を告げていた。

「・・・・」
 日吉は目の前をひらひら落ちていく葉をぼんやりと見つめる。
 このまま、何も起きることなく織田信長という人間の人生は終わっていくのだろうか?
 だが、それでは日吉が遣わされた必要も無い。
 第一己にそっくりだという悪魔はどうしたというのだろう?

「ふぅ・・」
 日吉は小さく吐息をつくと、再び落ちてきた葉を箒で庭の片隅に出来ている葉の山へ
 と掃いていく。
 

『秋!秋といえば焼き芋!サル、葉を集めろ!』

 そんな信長の言葉に日吉はせっせと箒に庭の葉をかき集めているのだが・・・言い
 出した当の本人はここには居なかったりする。
「・・どこに行ったんだろう・・?」
 芋でも賄いからちょろまかして来るのだろうと思っていたがなかなか帰ってこない。
 仕方なく探しに行こうとした日吉はふと、背後に視線を感じて振り向いた。


「・・・・・・・・・・・っ!」

 かたーん、と日吉の手から箒が離れて倒れる。
 驚きに目を見開いた日吉はそこに立っていた人物をまじまじと見つめてしまった。

 だって、そこに居たのは。

「あ・・・」

「・・・日吉?」
 あちらも日吉と同じく驚きに目を見開き、そしていぶかしげに日吉の名前を口にした。

「・・・光秀、様?」
 そこに居たのは見習い学校で先輩だった明智光秀その人だった。

 
























「ど・・・ど、どうしてこんな所にっ・・・??」
「それはこちらのセリフだ。確かお前はまだ見習いだったはずだろう?」
「あ、はい。そうなんですけど・・・」
 さて、光秀に自分の仕事のことを言っていいものなのか、日吉は逡巡した。
「・・・逃げ出して来たのではなさそうだな」
「そ、そんなことしませんって!」
 本当に稀なことであるが、天使の中には見習い修行に耐えられず下界に逃亡する
 天使が存在する。
「では、何か特別な理由があってここに来たんだな。・・・ああ、いい。事情は話さなくとも。
 下界において天使同士は仕事に関係ある場合を除いては互いのことには干渉しない
 のが決まり。お前が来ることを俺が何も知らされていないということは俺の仕事とは
 関係ないのだろう」
 日吉はほっと肩をなでおろした。
「・・で、光秀様はどうしてここに?今まで織田で見かけたことが無かったんですけど・・・」
「ああ、確かに俺は織田の家臣じゃない。隣国の美濃の家臣だ。実はその美濃の斉藤家
 の姫とこちら尾張の信長の婚儀が決まってな。その代表団の一人としてこちらに来て
 いるのだ」
「ああ、なるほど・・・・・」
 どうりで信長がいつになっても帰ってこないわけだ。
「・・・・・信長様、ご結婚なさるんですね・・・」
 まぁ、たかが草履取りにそんなことは知らされるはずも無いのだが、ちょっと寂しい気
 がしないでもない日吉だった。
「まぁ、そういうわけだから。俺は戻らなければならんが・・・日吉、もし困ったことがあれば
 相談に来るといい。見習いのお前には下界はまだまだ慣れない場所だからな」
「はい、ありがとうございます。光秀様。光秀様もお仕事頑張って下さい」
 日吉は去っていく光秀に礼儀正しく45度の礼で見送った。



 だが、そんな日吉を見ている目があった。
 何を隠そう、織田信長当人である。






「サルっ!!」
「っっ!!!」
 日吉は文字通り飛び上がって驚いた。
 
 
 (ま・・・まさか聞かれたっ!?)


「のののの・・信長様っっ」
「てめぇ、何キンカン頭としゃべってやがった?」
「き・・・・キンカン頭???」
 もしかして・・・光秀のことだろうか・・・けれど凄いネーミングセンスだ。
「サルっ!」
「は、はいっ!あの・・えーと・・・厠はどこかって・・・」
「・・・・それだけか?」
「えーと・・・あと、信長様とお姫様が結婚されると・・」
「ちっ、おしゃべりめが・・・。だいたいいっぺんも顔も見たことねぇ人間と所帯が持てる
 かってんだ!それを・・・・サルっ!」
「はいっ!」
 サル、と信長に呼ばれると条件反射で背筋を伸ばして返事をしてしまう。
「ちょっと出てくるからついて来いっ!」
「え・・で、でも・・・」
「あぁん?」

 (うわぁ・・目が目が・・・・・/涙)

「は、はい。お供させていただきます!」



 と答えた日吉は一刻後馬上で揺れていた。









   

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えー。この話は一応日吉総受け(今更言うな/笑)です。
というわけで皆に愛されている日吉エンジェル。
最後に誰とくっつくかは御華門にもわかりませ〜ん♪



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