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手紙持つ、秀吉の手は震えていた。 表情に浮かぶのは、怒りと混乱・・・・何よりも強い悔やみ。 「籐吉朗・・っ」 手紙に書かれていたのは・・・・・・ 尾張を去ること。 母親と兄弟を頼むこと。 そして。 信長のこと。 『信長様には”サル”は一人でいい。秀吉が居れば俺なんか必要ない。 どうか・・・どうか、信長様によろしく』 最後の字は擦れいてた。 こんなに動揺しておいて『よろしく』も無いものだ。 そう冷静に思いつつ、ふつふつと湧き上がる怒りは抑えられない。 自分一人になり、手柄を独り占めできる。 だが喜びなど感じなかった。 何故、俺は気づけなかった。 あいつが尾張を去ろうとしていることに。 あいつの不審な行動に。 「・・・・・くそっ!」 愚かにも、何も気づかず安眠を貪っていた自分。 その間に籐吉朗はどこかへ消えた。 ・・・・・・・・永遠に・・・・・・ 「・・・もの・・か」 秀吉は信長への書状を掴む。 「・・・誰がお前を失うものかっ!」 そのまま清洲城に走り出した。 ------------------------- 「・・・何だぁ、これは?」 案の定、信長は秀吉の差し出した書状を受け取り不審な顔になった。 「給料はあげてやらんぞ」 「違います!とにかくそれを読んでください!・・・籐吉朗の手です」 「・・・・サルの?」 封を解いた信長の目が紙の上を走る。 だんだんと険しくなる顔。・・・・そして怒り。 「・・・・何だ、これは?」 再び同じ問いを秀吉にした信長の声は恐ろしいほどに冷たく、またひやりとする 殺気を投げかけていた。 「・・・朝、目が覚めたら置いてあったんです。俺にもわかりません」 籐吉朗は去る理由を秀吉への手紙のどこにも書いていなかった。 おそらく・・・信長のものにも書いていなかったのだろう。 「ふーん・・・」 信長の手がひらひらと籐吉朗の書状を弄ぶ。 「・・・追いますか?」 このセリフを言うのはかなりの勇気がいった。 信長は部下の裏切りを許さない。去る者を追うのは信長のプライドが許さないだろう。 それでも・・と秀吉は一縷の望みをかけた。 追いたかったのだ。秀吉自身が。 「捨て置け」 だが、信長の口から出たのは冷徹なまでの一言。 予想していたとは言え、気分が暗く沈んでいくのを止めることが出来なかった。 「出るぞ」 「・・・・・はい」 不承不承に頷く秀吉に信長は鼻を鳴らす。 おそらく秀吉の内心などとうに見通しているのだろう。 「山へサル狩りだ」 「・・・・は?」 信長の言葉に秀吉は呆けた顔で見上げた。 「行きたくないなら一人で行くが?」 「・・・っお供させていただきますっ!」 秀吉は勢いこんで頷いた。 信玄は籐吉朗を迎えると、顎をしゃくり背を向けた。 『付いて来い』ということなのだろう。 およそ籐吉朗が逃げ出すなど考えてもいないのだろう。 ・・・いや、逃げられるわけがない、と。 籐吉朗は手をぎゅっと握りしめて、歩き出した。 信玄は玄関をくぐらず、庭を突っ切って奥へ進んでいく。 誰にも会わないのは・・人払いをしているのかもしれない。 どんどん歩いていく信玄に幾度も話し掛けようとするが・・・信玄の背中がそれを 拒否しているようで・・・・籐吉朗は何も言えずにただついていく。 やがて、信玄が足を止めたのは、木々に囲まれ他とは隔絶されたこじんまりとした 茶室だった。 にじり口を開けるとその中へと身を滑らせる。 籐吉朗も一瞬ためらったものの、その後に続いた。 中には、信玄以外に誰も居なかったが、用意させていたのだろうほどよく 暖められていた。 信玄は主の席に座り、茶をたてる。 籐吉朗は客席に座った。 信玄の手は軽やかに緑の液体をかき混ぜ、お茶の香りが漂いはじめる。 無骨で粗雑・・・そんな武将が多い中でかなりのたしなみがあるらしい。 すっと差し出された茶を・・・籐吉朗は無言で受け取った。 ―――――何故、自分はここで、こんなことを・・・しているのだろう。 緑色の液体に不明瞭に映る自分の顔の表情はわからない。 だけど・・・きっと無表情だ。 一気に飲み干した。 ――――――――――――苦い。 「単刀直入に言おう」 笑う信玄は、ひたと籐吉朗に視線を定めた。 まるで獲物を狙う肉食獣のように・・・その目は鋭い。 「この国に・・・いや、この俺に仕えよ」 「・・・・・・・・・・」 やはり、と思う心と・・何故自分など・・と問う心。 「即答・・・しなければ、いけませんか?」 喉がひきつる・・・潤したばかりというのに。 「言わずともわかるだろう、お前ならば」 うつむいた頭の上に声を感じて上向けば、音もさせずに近づいた信玄が 籐吉朗を見下ろしていた。 「・・・・母・・・は?」 「お前が城中に入ったと同じく、尾張へ帰りついただろう」 「・・・・・・・・」 「一目たりとも見ておきたかったか?」 「・・・・・・・」 籐吉朗は無言で首を振った。 もし・・・もし、会ったとしたら。 罵ったかもしれない。恨んだかもしれない。 憎しみにも似た思いを向けたかもしれない。 そんなことをするくらいならば・・・・・・会わないほうがいい。 母に罪はない。 あるのは・・・・・・・・籐吉朗自身だ。 つめていた息をふっと吐き出した。 「・・・・・・信玄さま」 うつろに頷こうとした籐吉朗を信玄が遮った。 「言っておくが、上辺だけの忠誠などいらぬ」 「・・・・・・・」 「お前は、その体と、頭脳と・・・・・・命をかけて俺に尽くすのだ」 「・・・・・・っでき・・・・・ませんっ・・・・!」 泣いてしまいそうだった。 籐吉朗の心は今でも尾張の・・・・信長のもとにある。それを目の前の人物に かけることなど到底出来るはずが無かった。 「俺は否定の言葉など聞くつもりはない。籐吉朗、お前には肯定の道しか残されて いないのだ。わかっているだろう?あの信長が裏切ったお前を許すと思うか? この敵国である武田に仕えようとしているお前を」 「・・・・・・・・・」 がしっと肩をつかまれ、籐吉朗は身を震わせた。 戦場で鍛え上げられた武将の手は・・・小柄な籐吉朗には手をつかずにはいられぬ ほどに強いものだった。 「・・・・酷い」 胸が痛い。 心が悲鳴をあげる。 無表情の籐吉朗の頬に・・・涙が一筋流れた。 「どんなに罵られようとお前さえ手に入ればそれでいい」 逃げられない、逃げられないのだ・・・自分は。 この手から・・・この腕から・・・この視線から。 籐吉朗は・・・・崩れ落ちるように首を縦に振った。 信玄が笑う。 勝利に酔う。 欲したものは・・・・・手の中に堕ちたのだ。 「籐吉朗・・・・いや、お前は今日から『真田昌幸』と名乗れ」 それが籐吉朗の新しい名。 ・・・・・偽りの姿。 もう・・・後戻りは出来ない。 |
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+あとがき+
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御華門も後戻りできない・・・(T×T)
この名前を使いたかったんですよ!!信玄をして『昌幸は自分の〜』と
言わせた昌幸の名前を使いたかったんですぅっ!
・・史実としては昌幸は籐吉朗よりかなり年下で偽りあり、て
いうところなんですが・・・許して下さい、パロディだから・・・(遠い目)
これで今年のジパ小説UPは終り・・・いや、短編をUPするかも
しれませんが連載ものはこれで今年は終了です。
なんだか勢いだけで作ってしまったジパコンテンツだったので
果たして読んでくださる方がいらっしゃるのだろうかと不安だったんですが
予想外に多くの方に励ましていただき本当に嬉しかったです。
ありがとうございました!
また、来年もよろしくお願いいたしますm(__)m