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 『風林火山』

 その文字を旗印に持つは、武田信玄率いる無類の強さを誇る騎馬軍団。
 

 疾きこと『風』の如く
 静かなること『林』の如く
 侵し掠めること『火』のごとく
 動かざること『山』のごとし
 

 まさにその言句を実戦するべく鍛えられた、精鋭の軍団である。

 しかし。
 
「人は城、人は石垣。豊富な人材が我が武田の最大の戦力だ」
 信玄は常に、そう思っていた。
 そして、間違いでも無いだろう。

「だが・・・」
 豊富でなくとも・・・・悔しいことに『質』が揃うことがある。
「織田、信長・・・」
 未だ、若輩ながら・・・近い将来。この武田家にとり必ずに脅威となるその存在。
 直接に出会い、信玄はそう確信した。
 
 猪突猛進なところもあると思えば、ふと覗かせる支配者としての冷徹な顔。
 そんな信長を支える側近たち。
 丸ごとこの武田に買い取っても惜しくない人材だ、どれもが。


 その粒ぞろいの人材の中。ふと紛れ込んだ川原の石。
 あまりに異質で逆に際立っていた。
 それでも・・・ただの石であることは変わらず、何故紛れこんでしまったのかと
 本気で不思議に思い、そして気づいた。


 それが、石ころなどでは無いことに。
 求めても得られないほどに・・・希少価値の高い金剛石の原石であることに。

 さえない容姿も、おどおどした態度も全てそれを隠すためのカモフラージュのように
 ・・・・狙ってしていたのでは無いかとさえ思われるほどに。
 その金剛石はすぐに、それとは信玄に気づかせなかった。
 
 だが、いくら隠そうとも金剛石の美しさは隠せるものではない。
 知らず知らずに、原石は研磨されその美しさを現しはじめる。
 また、研磨されることを石が望むようになる。


 全ての者を魅せるために。




 
 下克上のこの世の中。
 ふと目を向ければ、天下を狙える武将は数多いことが知れる。
 天下への距離が近いか遠いかは別とし・・・吐いて捨てるほどでは無いにしろ
 すぐ傍に彼等は息づいている。
 
 だが。
 いくら有能な武将でも一人では天下を取ることは出来ない。
 有能な人材を有効に使い、兵を手足のごとく操る。
 それが出来なくては戦乱の世を生き抜くことは不可能だ。


 そのために必要な・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








 『軍師』



 信玄は、それが欲しかった。











 『木下籐吉朗についての覚書』
 

 騎馬軍団とは別に、信玄の目となり動く忍軍から齎された数枚の紙片。
 そこには、木下籐吉朗=日吉について。生い立ちから今に至るまでの様々な
 事柄が具に記されていた。

 信玄はそれを食い入るように見つめ・・・・・・・・口元を歪めた。



「母・・・・・」



 それが何より籐吉朗の弱点であることに間違いなかった。











































 尾張。
 清洲城下の足軽長屋に籐吉朗は戻ってきていた。
 京でのごたごたが済み、信長と共に尾張に戻ってきた籐吉朗は首にされることなく
 元の「マキ係」として仕事を任せられていた。
 本人としては、また最初の小者組・・・草履取りからはじめても仕方がないと思って
 いたのだが、信長の『俺はお前を首にした覚えはない』という言葉で・・・驚きつつも
 喜びながらその仕事をこなしていた。
 違うのは、その傍にもう一人の自分が居ること。

「秀吉。これはこうしたほうがいいと思うんだけど・・・」
「あぁ?ああ・・・だろうな。そのほうがいいな」
 目録を書いていた秀吉が、籐吉朗の問いかけに顔をあげて答えた。
 
 日野秀吉。
 籐吉朗の双子の兄とも・・他人とも言える複雑な関係を持つ彼を信長は籐吉朗の
 片腕として、傍につけた。
 最も、信長としては別々に考えるのが面倒なだけだったのかもしれないが・・・・。
 それでも、一人でこなさなければならないことが二分することになり仕事の効率は
 倍に上がったのだから結果オーライだろう。

「それより、今日はお前、殿に呼ばれていただろう?」
「あ、うん」
 尋ねる秀吉に籐吉朗は頷く。
「入札の件か?」
「うん、たぶん・・・」
「あの殿ならお前に全部任せるとか言うんじゃないのか?」
「たぶんね。でも一応、こういうことになりました・・ていう報告は必要だろ?」
「さぁな。だが、あの殿に面と向かって意見を言えるのはお前くらいだしな」
「えっっ!?そんなことないって!滝川様とか犬千代様とか・・・結構色々と殿には
 言うから俺だけとは・・・・」
「あれは『意見』とは言わない。『お小言』と言うんだ」
 秀吉はにやりと笑う。
「秀吉・・・」
 困ったように顔を顰めた籐吉朗に、秀吉は書く手を止めて文机に納めていた
 書状を取り出す。
「入札に参加する業者と、その値段。たぶん業者同士で談合やってるだろうから
 どれくらい変化するか気をつけろよ。これ持ってさっさと城行って来い」
「うん。・・・秀吉も来る?」
「俺は別にやることがある。それに」

 (それに・・・あの殿は・・・おそらく『日吉』に会いたいがために呼んだんだ)

「邪魔して不機嫌になられるのは損だからな」
「は???」
 全くわかっていないらしい籐吉朗に秀吉は溜息をついた。
 妙なところでは小賢しく知恵がまわるくせにこういうところは鈍感だ。

「まぁ、せいぜい頑張ってきてくれ。お前の出世は俺の出世でもあるんだからな」
「うん。わかった」
 神妙に頷く籐吉朗は・・・・・・やはり鈍いのだった。









「よく来たな、サル」
 平伏して信長がやって来るのを待っていた籐吉朗にかかった主君の最初の声が
 それだった。
「サル2号も元気か?」
「・・・殿。その呼び方はやめて下さいって何度も言ったと思うんですが・・」
「仕方ないだろう。お前がサルなんだから、あいつはサル2号しか無いだろう?」
 違う。絶対に何かが違う。
 けれど、籐吉朗はこれ以上言うのはやめた。
 どうせ聞き入れてはくれないのだから。だから話を変える。

「入札の件・・ご覧いただけましたか?」
「ああ、見た。国外の業者は入っていないんだな」
「はい、今回は国内に限定いたしました。国外だとマキや炭の価格以外の運搬の
 費用も見なければいけませんので・・業者に余計な負担でしょう」
「なるほど。まぁ、妥当なところだな」
「では、このまま進めてもよろしいですか?」
「ああ、許す」
「ありがとうございます」
 そして主君の前を辞そうとした籐吉朗を、信長の手が止めた。
「!?・・・殿?」
 触れるほど近くにあった信長の顔に驚き、籐吉朗は首を傾げた。


「遠駆けに行く。ついて来い」
「はい」
 草履取りでは、すでに無い籐吉朗だったが即答した。
 信長の傍に在り、役に立つことこそ籐吉朗の最大の喜びだったのだから。






































 晩夏。
 
 甲斐の秋は短い。あっという間に冬が来る。
 その前に。

「全ては整いましてございます」
「では、行動に移せ」
「はっ」
 
 平伏した忍頭は、一瞬後に姿を消した。


「もうすぐだ・・・・・・・籐吉朗」
 お前が手に入る。































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+あとがき+
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書いていると色々と頭の中で話が出来上がってきました。
あとはどこまで書いて終わらせるか・・・。
そしてせっせと資料集め。かなり史実に沿ってお話進める予定です。
タイトルが結構何も考えずにつけたんですが、妙に話とあって驚き(おいっ/笑)
意味は・・・・まだ少し先で。
あまり気持ちよく終わらない予感がしながら・・・
今回は『ダークで痛い系』なんだから・・とギャグに走るのを
必死に押し留めている御華門なのでした(笑)



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