【ルカ編】

≫7 Frien and Foe





「まさかこのようなところでお目にかかるとは・・・」
「僕もだよ」


 自室に戻り、レオンと共に戦略を確認していたジョウイのもとへ客がやって来た。
 先ほどソロン=ジーの命を救い、ジョウイの野望への機会を与えた不思議な
 少年だった。
 その少年は驚いたことにレオンと知り合いだったらしい。
 あの不遜ともいえるレオンが自分よりも幼くも見える少年へ形式的ばかりでない
 礼を尽くし、緊張までしている。
 いったい何者なのか、とジョウイの疑問を増した。

「ああ、そういえばまだ名乗っていなかったね。僕の名前はダナ。成り行きでここに
 居候しているんだ。よろしくね」
「・・・よ、よろしくお願いします」
 ルルノイエの王宮は成り行きで居候できるような場所だったろうかとジョウイは
 ますます混乱する。
 同い年か、それよりも下に見える相手につい丁寧語になってしまうのはレオンの
 言動のせいか・・・妙な威圧感を感じるせいか・・。

「どうしてこちらに?」
「だから、成り行きだって」
 納得いかないとレオンが尋ねるのへ、ダナと名乗った少年は笑顔を崩さないまま
 答える。
「では・・・あなたは我々の敵なのでしょうか、味方なのでしょうか?」
 レオンの言葉にジョウイがぎょっとした。
 まだ野望への計画は始まったばかりで誰かに話してもいい段階では無いはずだ。

「敵か味方か・・・どのどちらかしかありえないのかな?」
「戦いの最中ですから」
「ジョウイ、君もそう思う?」
「・・・・・」
 いきなりふられてジョウイは戸惑う。
 敵と味方・・・それ以外のもの・・・。

「・・・わかりません。でも敵であるものがいつまでも敵では無いこと・・・味方であって
 も敵になりうる・・とは思います」
「確かにね。・・・・戦に正義なんてものは存在しない」
「・・・・・っ!?」
「敵も味方も・・どちらも自分の正義を信じて戦っているけれど・・それが決まるのは
 勝ったとき。勝利者の正義こそが正しいものと認識される。君は自分が正義で
 あると思っているかい?」
「・・・・・・・・・はい」
「そう・・・ルカはね。自分が正義だなんて思ってもいない。それどころかわざと・・・・。
 そんなルカの天邪鬼なところが気に入って傍に居るだけ。そのときがくれば・・・」
 ダナは、窓の外へと目を向ける。
 そして、ジョウイとレオンへ再び視線を戻した。
「君たちは君たちが信じるもののために戦うといい。僕が敵であろうと味方であろう
 とね・・・」
 静かな黒い瞳が柔らかな光をたてていた。




















「どこへ行っていた?」
「探してたの?」
 ルカの部屋へと戻ってきたダナはいらいらと歩きまわっているルカにつかまった。
「ちょっとなつかしい顔を見つけてね、会いに行ってた」
「・・・・そうか」
「大丈夫だよ。僕は今のところルカの傍を離れるつもりは無いから。もちろんルカが
 僕のことを邪魔だと思うなら別だけど・・・」
 くすくすと笑いながらダナはルカを見上げた。
「・・・・この性悪が」
 ダナはルカのふてくされたような物言いにぷっと吹き出してしまう。
「何を笑う」
「いいね、ルカは。とっても。ひねくれてそうで素直なんだよね」
「お前と比べれば誰でも素直だろう」
 ますますダナの笑いをさそう。
 ひとしきり憮然とした顔のルカの前で笑い転げると、ふと動きを止めてルカに
 抱きついた。


「・・・・ごめん」
「・・・?」
「余計な口出しして・・・」
「全くだ。お前のおかげで一人殺し損ねたぞ。どうせクルガンあたりに頼まれた
 んだろうが・・・」
 ルカは膝をおり、ダナに視線をあわせた。

「俺はお前に何も求めはしない。ただあるがままに傍に居ろ。そしていつか来る
 終焉を見ているがいい」
「・・・・・・ルカは酷い」
「ああ、俺は”狂皇子”だからな。・・・俺はお前に永遠に消えることが無い瑕を
 つけてやろう・・・俺という瑕を、な」
「・・・・本当に最低だよ、ルカ」
「くっくっく・・・最高の褒め言葉だな」
 ルカはダナを抱き上げると寝室へ続く扉を蹴り開ける。
「ルカ・・・まだお昼前なんだけど・・」
「問題ない」
「・・・・・」
 ダナはルカの腕の中で諦めの吐息をついた。



















「レオンさん、彼はいったい・・・」
 ダナが去った後、ジョウイはレオンへと尋ねずにはいられなかった。
「ジョウイ殿はトランで起こった解放戦争はご存知かな?」
「あ、ええ。今から3年前にトランで起こった戦争ですよね」
「そうです。私はその戦争に解放軍として参加しておりました」
「えっ!?」
 トラン出身であることは知っていたがまさかそんなものに関わっていたとは。
「その解放軍のリーダーだったのがあの方です」
 ジョウイは目を見開いた。
「そんな、だって・・・どう見ても僕と同じか下にしか・・・」
「あの方はジョウイ殿と同じ真の紋章の所有者。実際の年齢は18か9になる
 はずです」
「真の紋章の・・・」
「ジョウイ殿が持っている黒き剣の紋章は盾の紋章と在り初めて完成されますから
 不老の力は持っていないでしょう。あの方が持っているのは生と死を司る紋章、
 俗に”ソウルイーター”と呼ばれているものです」
「そんな・・・では、ルカを・・」
 その紋章で敵対されればただでは済まない。
「正直なところ私もあの方が考えられていることはわかりません。ですが、あの方は
 我々が進むように進めと仰った。・・できるなら敵にはまわしたくない相手です」
「そうですか・・・」
 ジョウイはダナの儚げな笑顔を思い出す。
 彼はあまりに綺麗過ぎて、すぐに壊れてしまいそうなのに・・・何故か印象に
 強く残っている。
 どうしてあんな人がルカの傍に居るのか・・・不思議で仕方なかった。









   




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