【ルカ編】
≫3 Culgan
ダナは西塔とルカ王子の宮内において自由の身となった。 その範囲内ならどこに行こうと構わないといわれたので手始めにダナはルカの 部屋へと足を向けた。 その部屋は王子の部屋だというのにダナに与えられた西塔の部屋よりも さらに物が無い。 最低限度の物しか置かれていないのだ。 そして妙に閑散として寒々しい印象を与える。 まぁそれも仕方の無いことなのだろう。 肝心の部屋の主であるルカは始終戦に出かけ、この部屋に戻るのは数えるほど。 今だってルカは不在にしている。 城に居るのは確かだから会議か何かに出かけているのだろう。 そんなことを思うともなく思っていたダナの耳に扉をノックする音が聞こえた。 「失礼します、ルカ様。本日の会議のことで・・・」 言いながら入ってきた男は書類から目をあげ・・・そこにルカでは無くダナの 姿があったことに目を見開いた。 「・・・・」 さて、どうしよう・・・。 どこでも自由に出入りしていいと言われたからそうしたまでなのだが、やはりルカ の部屋はいけなかっただろうか・・・ 「・・・何者だ?」 我を取り戻した男がダナに鋭い視線を投げかける。 その視線をダナは微笑で受け流し、口を開いた。 「僕はダナ。あなたは?」 男は眉をしかめる。 ダナの名乗りだけでは何もわからないと同じだったからだ。 「クルガン、何をしている?」 その男の背後から声がかかる。 「ルカ様・・」 「ルカ」 「・・・ダナか?お前もここで何をしている?」 「城内の探険。暇だったから」 「そうか」 ダナとルカの受け答えに驚愕したのはクルガンで、まるで信じられないものを 見たかのように互いの顔を交互にみやる。 冷静沈着と評判の高いクルガンのこんな姿は滅多に拝めるものではない。 それほどに穏やかに誰かと会話するルカというものは信じ固い光景だった。 ダナと名乗った人物は何者なのか。 クルガンの疑念は一層強まった。 「・・・でクルガンお前は何の用だ?」 「はっ、今朝の会議のことで少々・・・」 クルガンはちらりとダナを見る。 「僕は部外者のようだから出て行くね」 その視線の意味を正確に察したダナはルカの部屋を出て行こうとした。 だが、それを止めたのはルカだった。 「待て、お前はここに居ろ」 「でも・・・・わかったよ」 一度こうと決めたことは引かないルカである。 クルガンもわかっているのか小さなため息をつき、話だした。 ダナの存在は黙殺することにしたらしい。 「ミューズへの進攻ですが、全部隊を正面に置くことはやはり無謀では無いかと 思います。半分・・いえ、せめて3分の1はこちらに残し、挟撃できるようにした いのですが・・・・」 ルカに異を唱えるということはこの国では自殺行為に等しい。 それでもこうしてルカに正面きって意見できるのはクルガンだけということで 皆に送られてきたのだろう。 「ふん、あの程度の奴らにそこまでする必要はない。ダナ、お前はどうだ?」 「僕はクルガンさんの意見に賛成」 ルカを眉間に皺を寄せ、クルガンは複雑な表情を浮かべる。 「ルカは馬鹿にするけど、あまり相手を過小評価しないほうがいいよ。僕が見るに 同盟軍はよくまとまっていて軍師もいい」 「俺に喧嘩を売っているのか?」 ルカの低い威圧するような声に多くのものは跪き、許しを請うだろうがダナは 違った。 「ルカにそんなことしてどうするのさ。ごく客観的な意見を述べたまでだよ。だから 普通の相手ならこちらの方が数で勝っているわけだし、挟撃にも備えているだ ろうと思う」 「それならば問題無いではないか」 「大有りだよ。だってこちらにはルカが居るもの」 「・・・・・?」 意味がわからない。 「だって君は挟撃なんかせず強行突破したいんだろう?」 「・・・そうだ」 「普通なら挟撃するほうが有効だし、時間も被害も最小限ですむのに、ルカは それを選ばない」 「・・・俺が馬鹿だと言いたいのか?」 「違うよ。ルカの性格が素直すぎるんだってこと」 「「・・・・・・。・・・・・・・」」 クルガンもルカも沈黙する。 かつてルカに対しこんなことを言い放った者が居ただろうか? ルカは憮然となり、クルガンは半ば呆気にとられてダナを見た。 「これが悪いことに相手も普通じゃないみたいだからね。当然ルカが正面きって くるだろうと予想している。だから、その裏をつく意味でクルガンさんの意見に 僕は賛成なんだよ」 ね?とダナはクルガンに振るが答えられるわけがない。 クルガンは怒り狂ったルカが目の前の少年を手討ちにしてしまうのでは無かろう かとそればかりを危惧していた。 ・・・が、それは無用の心配だった。ルカは怒るどころか・・・ 「・・そこまで言われて反論すれば俺は本当の馬鹿だろうが」 と苦笑さえ浮かべて見せた。 「そう?」 ダナが笑う。 ・・・・い、いったい何が起こっているんだ!? クルガンは無表情のまま心の中で叫び声をあげた。 |