【ルカ編】
≫2 Contract
ルカ皇子に連れられ、ルルノイエの王城に入ったダナは誰にも引き合わされる こと無く、西塔の最上階の部屋に閉じ込められていた。 とは言ってもダナの居る部屋は牢のように冷たくもカビくさくもない。 むしろ部屋に置かれている調度はどれも豪華で、床には上質のビロードの絨毯が 敷かれている。 窓からは優しい太陽の光が注ぎ込み、部屋を明るく照らしていた。 「・・・退屈」 ダナは読んでいた本を無造作に広げ、床の上に寝転んだ。 扱いは丁重だったがダナはこの部屋から一歩も出ることが出来ないでいた。 もちろん、ダナがその気になれば扉の前の守衛などいとも容易く突破できるが わざわざそんなことをする理由も無く、今までずっと部屋の中で惰眠をむさぼり、 読書をしたりして時間を潰していたのだが・・・ そうしているのもいい加減飽きてきていた。 ダナを連れてきた当の本人であるルカ皇子もダナをここへ閉じ込めて以来、1度も 姿を現していない。 「どうしよう・・・グレミオ心配してるだろうな」 夕方には帰るといったのにこの分ではいつのことになるやらわからない。 ダナ命の従者はきっと気が狂わんばかりに心配しているだろう。 余計な心配をかける気は無いのだが、ルカ皇子の強引さに少しくらいなら 付き合ってみるのも面白いかもしれないと思ったのだ。 「・・グレミオとは誰だ?」 ダナは声がした方に寝転んだまま首だけ向けた。 「・・・僕の保護者」 「お前に保護者など必要だとは思わんが」 「そうかな?」 ダナは見た目だけならば十分子供で通る。 だが実際は成人の儀式も済ませているのだが・・・・。 「そうだろう。この俺を立たせておいて自分は寝たままでいられるような輩は、この国には どこを探してもいはしまい」 普通ならば即座に無礼討ちだ。 「だって、あなたは気にしてない」 ダナは微笑を浮かべた。 「お前に俺の何がわかる?」 「さぁ?でも自分のことは案外自分ではわからないものだよ」 ダナはゆっくりと床から身を起こすと散乱している本をまとめて脇によせ、空いた 場所をルカにすすめた。 「さてと、漸くお出ましなわけだけど・・・僕をどうするか決まったの?」 「お前はどうして欲しい?」 「そうだね・・このままだと退屈だし、そろそろ帰らせてもらいたいな」 「お前を手放すつもりは無い。誰が手放してなどやるものか・・・やっと手に入れた ・・・・・・・・・死神を」 「・・・・・・・死神、ね。確かにその言い方は妥当かも。・・・僕のまわりは死で溢れて いるし・・・」 ダナはルカに近づき、微笑を浮かべたまま、その胸に右手で触れた。 「ルカ=ブライト。あなたは死を望むの?」 「ああ、その通りだ」 ルカはダナの手をとり、右手を覆っている手袋を取り去った。 そこにあるのは・・ ソウルイーター。 生と死を司る真紅の紋章が現れる。 その紋章にルカは口づけた。 「・・・後悔するよ?」 「死ねばすることもあるまい?」 「・・・・わかった。あなたの命運が尽きるその日まで。ここに居るよ」 「契約は成立だ。・・・ダナ=マクドール。この命はお前にくれてやる」 ソウルイーターが歓喜するように、その禍々しい真紅の鮮やかさを増した。 |