■ 景王と愉快な仲間たち ■
−玖−
「さぁ、いよいよやって参りましたっ!!本選、偉大なる歴史の第一歩ですっ!!」 うぉぉぉーっと会場に歓声が木霊した。 「ありがとうございますっ!さて、予選より引き続きご案内はこの不顎が勤めさせていただきますっ!!まずは 徒手部門第一回戦!何と、我が国の麒麟、景台輔のご登場ですっ!!!」 きゃ〜と黄色い声が響く。 「あいつ、顔だけはいいからな。顔だけは」 舞台裏で、陽子がぼそりつ呟く。 顔だけ、と限定する陽子に尚隆は顎に手を当てる。 「陽子はああいう顔が好みか?」 「へぇ、そうなんだ」 「いや、特に好みは無い。どちらかというと私は景麒なんかより六太君のほうがいいと思う」 陽子のツボは可愛い系か、と尚隆と利広は胸中で書き記した。 「とりあえず、えん…風漢殿。私は朱嬰ですから、お間違えなく」 「そうそう。いくらボケはじめているからといって人の名前を間違えてはいけないよ」 「オレより年寄りに言われたくは無い」 『対するは』 舞台では、不顎が紹介を続けている。 「700年の歴史を誇る化物帝国奏より。利達殿!十二国でも激戦区の一つより勝ち上がってきたその実力は 並々ならぬものがあるでしょう!!」 「朱嬰、君のところには面白い人材が居るんだねぇ」 「まぁ、浩瀚の弟子みたいなものですから。あの程度なら可愛いものです」 大国奏を『化物帝国』呼ばわりした不顎にぬるい微笑を浮かべてみせる。 『それでは両者にご登場いただきましょーっ!』 わーわーと舞台裏まで歓声が轟く。 「では、お先に」 いつもの朝服を、動きやすい軽装に変えた利達がにこやかな笑みを浮かべて陽子に会釈する。 その姿から、結構しっかりとした躯つきであることが伺える。 「頑張ってください」 陽子も笑って見送る。 その胸中にあるのは、『打倒!景麒』だ。 「ところで、景台輔の姿が見えないけれど?」 「おかしいな。朝は金波宮でちゃんと姿を確認したのだけど…」 一応、頑張れよ!と声は掛けてやったのだ。 景麒も笑顔ではい、と頷いて…………笑顔で………いや、あいつが笑顔で? 「・・・・・・まさか」 『景台輔?景台輔ーっ!…え?何ですか?直轄領で厄介ごとがあってそちらへ?』 「……逃げたな」 「さすがに勘は良いんだね〜」 「あいつめ…っ」 こんなことなら、班渠にでも見張らせておくのだったと後悔してもすでに遅い。 今ごろ、まんまと逃げ出しほっと息をついていることだろう。 「ちっ」 『では、利達殿の不戦勝ということで……』 ふざけるなーっという声が聞こえてくる。 もっともだ。予選はともかく本選でそれは無いだろうに。 しかしそのブーイングが……… ドガァぁッ!! 凄まじい音と共に静かになった。 陽子が何事か、と舞台裏から顔をのぞかせると……にこやかな表情の利達が、壁を、拳で…突き崩していた。 「……まずい、兄さんがキレてる」 「……てっきり骨の髄まで文官だと思っていたが、まさかあれほど武闘派だったとはな……今度から怒らせないように気をつけよう」 「生け贄は景麒でいいだろうか?」 「「…………」」 ごく真面目な表情の陽子に、男二人は沈黙した。 |
景麒、逃亡しました!(笑)