■ 景王と愉快な仲間たち ■
−捌−
普段は、学生と教師以外はほとんど部外者の存在しない大学構内に人が溢れていた。 見れば手に、『慶国万歳!』や『奏国必勝!』『雁国撲滅!』などなど気合の入った文字が書かれている団扇を 持っている。脇には食べ物ばかりでなく、小物を扱う露店なども並び大層盛況だった。 もちろんこれから行われる”天下一武道会”本選を観戦するために集まった群衆である。 「凄いな・・・地面が見えない」 「よくぞここまで人が集まったものだな、陽子」 「えん・・でなく、風漢殿。ここでは朱嬰(シュエイ)でお願いします」 二人が居るのは金波宮ではなく、本選出場者のための待合室である。予選を勝ち抜いてきた一般人もうろうろ しているのだ。こんなところで正体がバレては元も子も無い。 「しかしお前、優勝者には王が自ら栄誉を称えると出場要項に書いてあったぞ」 陽子が驚きに目を丸くした。 「・・・・まるでご自身で読まれたように仰る」 「・・・・まるで俺がそんなものになど目を通すわけがないと決め付けているように聞こえるぞ」 「事実、そうでしょう?」 「・・・・・・・」 艶めかし中にも児戯を満載した笑みで言い切られて延王は口を閉じた。 「全く・・・昔のあの愛らしく慎ましやかなお前はどこに行ってしまったのやら・・・」 わざとらしく両手を広げ、なげかわしいと眉ねを寄せる。 「ああ、百年前から老化による呆けが始まっておられたのですね」 「・・・・・・・」 「あははは、風漢。君も陽・・じゃなくて朱嬰の前だと形無しだね」 同じ刀剣部門の出場者である利広が、口を挟む。 「五月蝿い。俺が呆けてるのならば、お前はとうに廃人だ」 「そんなぁ、照れるなぁ〜〜」 誰も褒めてなぞおらんわ。細まった延王の目がそう告げていた。 「相変わらず、お二人は仲良しさんですね」 「誰がだ!鳥肌が立つようなことを言うなっ」 「いやぁ」 「否定しろっ!」 「ああ、そうだよね。僕は風漢なんかよりむしろ朱嬰と仲良しさんになりたいものだけどねぇ」 どこまでもマイペースな利広に、延王の血管がぴくぴくと波打っている。 (・・・何だかなぁ) この年寄り二人組みの男たちを見ていると、毎度漫才を観ている気分になって仕方ない陽子だ。 もちろんボケが利広で、突っ込みは延王。さすがに付き合いが半端じゃなく長いだけあって息はぴったり。 しかし陽子は気づいていない。 むしろ漫才コンビではなく、トリオ(利広+延王+陽子)になる日も近いということに。 いや、すでに周囲にはそう認識されているかもしれない。 知らぬは本人たちばかり。 「あ、そろそろ徒手部門の試合が始まるみたいだよ」 観客の声が一際大きくなって、耳に聞こえてくる。 本選は、不正などが起こらないようにと抽選も大舞台の上で行われる。 その結果、景麒は見事に利達との組み合わせを引き当てた。 「うーん、景台輔も運がいいのか悪いのか・・」 利広が首をひねるのに、陽子はにこりと言い切った。 「もちろん、あいつは最悪に運が悪いんだ」 「何故?」 「私なんて王を引き当てたくらいだからな」 はっはっは、と女王様は男前に笑ってみせる。 利広と延王は、ただ苦笑を浮かべた。 |
そういえば、今更なんですが。
『朱嬰』て名前の解説したことがありましたっけ・・・?(おい)
えー、と文字をご覧いただくと一目瞭然という気もしないでもないのですが
陽子の字である『赤子』を別の漢字で表現し直した・・みたいな。
赤=朱 子=嬰(生まれたばかりの赤子)
他所様のサイトのようにもっと素敵な字をか・・考える頭が・・っ(落涙)