■ 景王と愉快な仲間たち ■
−拾−
キレた利達は強かった。 どれほど強いかと言えば、あの利広が軽口を叩けないほど強かった。 対戦者は秒殺で沈んでいく。 「…やはり利達殿は凄いな。尊敬してしまう」 陽子は目を輝かせていた。 「陽…朱嬰、前から思っていたがお前の感覚は少々おかしいぞ」 「何故です?この押しても引いても叩いても、まるで蒟蒻のような反応しかしない利広を固まらせて、軽口も 叩かせないなんて…風漢殿にできますか?」 無理だ。 「蒟蒻って…そんな風に思ってたのかい、酷いなぁ・・・・・・」 「今度是非、指南してくださるようにお願いしよう」 「お前・・・まだ強くなるつもりか?」 延王が嫌そうに顔を顰めた。 「筋力においてはどうしても男性に劣りますからね。そのあたりが不利にならない戦い方を教えてもらいたい。 武器に頼ってばかりいては、いざ丸腰のときに困るでしょう」 「・・・普通の王は困らないんだよ、朱嬰」 妙に陽子の感覚はサバイバルだった。 そして利達はあっさりと決勝戦に進んでしまった。 相手は利広の二倍はあろうかという体躯だ。素早さは無いが、そのぶん力技で有無を言わせず相手を倒して きたらしい。 「利達殿、頑張って下さい!」 「ありがとう、朱嬰殿。貴方の応援は何にも勝る力を与えてくれるようです」 「とんでもない。私の応援など物の数にもならないでしょうが・・・ちなみに勝機はありそうですか?」 陽子の囁きに利達はにこり、と笑った。 「どれほど体を鍛えても、人間には鍛えられない急所というものが数箇所ありますから」 「ほぅ」 陽子は感心して頷く。 会話を盗み聞いていた延王と利広は、――― それは反則というのでは?―――と胸中思いつつも、声に出す ような馬鹿では無い。彼らとて命は惜しい・・・まぁ、もう十分に生きたのではあるが。 「では、行ってきます」 「景麒のぶんもヤッちゃってきて下さい!」 利達は朗らかに笑い、舞台に出て行った。 景麒のぶん、てお前・・・しかもヤッ・・・延王は頭を振った。どうしてこうも無茶苦茶な女王に育ってしまったの だろうか?周囲の影響か?誰だ? 「間違いなく、あなただよ風漢」 嫌そうな顔になった。 「おかげで、口説こうにも全く気づいてもらえないし」 「それはお前の言動に責任があるんだろう。オレだってお前みたいなのに口説かれたって本気にせんわ」 「心外だな。この世の女性全てが死滅しても、風漢だけは死んだってお断りだ」 「それは良かった。俺も右に同じだ」 言い合う二人を、陽子は『何て似たもの同士なんだろう』と眺めていた。 かくして利達は、宣言通り急所を・・・延王と利達は我がことのように身を震わせた・・・狙い、勝利を収めた。 「ところで優勝した場合の景品は何なんだ?」 聞いていなかったな、と延王が陽子に尋ねる。 「ご存知なかったんですか?賞金の100両と・・・」 「奮発したものだな」 「参加費いただいてますから」 「・・・・・・・・」 ちゃっかり者め。 「あと、記念品もあります。こちらは私も知らないんです。浩瀚たちが用意しているみたいなんだけれど」 何なんだろうな、と陽子は首を傾げる。 |