■ 景王と愉快な仲間たち ■
−肆−
「そんわけでやって参りました、天下一武道会、慶国予選会も大詰めですっ!!」 「そんわけってどんなわけだーっ」 「進攻はえーぞっ誤魔化すなーっ!!」 「はいはい、応援ありがとうございまーすっ!」 野次も何のそので、軽くかわす司会役は最近浩瀚が目をかけて育てている官吏である。煮ても焼いて食えない 奴ということで、ついた字が『不顎(フガク)』、顎には”楽”もかけられていて、実は壊滅的な音痴でもある。 「お待たせいたしましたーっ!刀剣部門決勝戦!まずは青コーナー、亭々沁(ていていしん)選手!」 会場から割れんばかりの拍手がわきおこった。 不顎に紹介された亭々沁が、のそのそと巨大な体を震わせて闘技場に姿を現す。その手には、彼の腕ほどの 太さはあるだろう剛剣が握られている。 「その巨躯から振り下ろされる一刀は、まさに圧巻!その一撃を受けきれず破れた選手は数知れず!おおかたの 予想通り、見事決勝戦まで駒を進めました!せっかくですから、何か一言いただきましょう。亭々沁選手、いよいよ 決勝戦ですが、勝機はどうですか?」 ふははっと、亭々沁が巨躯をふるわせて笑う。その姿は自信に満ち溢れていた。 「もちろん、俺が勝つ!本選でも優勝だっ!!」 わーわー、と歓声が再度沸き起こった。 「素晴らしい自信です!さて、対する赤コーナー!朱嬰選手!」 紹介された朱嬰が、宙で一回転して闘技場に降り立つ。 今度は拍手どころでなく、黄色い声まで盛大に沸き起こった。 「亭々沁選手とはうってかわって細身で凛とした美少年姿は、女性たちの心を掴んで放しませんっ!!細身の剣 から繰り出される技と速さは、まさに神の領域っ!!力と技、決勝戦にふさわしい勝負でしょうっ!・・さて、朱嬰 選手にも一言いただきましょう!」 知らぬふりで笑う不顎に、朱嬰・・・陽子も知らぬふりで笑いかえした。 「勝負は時の運。されど運も実力のうち。勝つも負けるも実力次第だろう」 「それはつまり・・・?」 「私は、勝つ。・・・ということだ」 右手をあげ、微笑を浮かべる。決まった。 再び、きゃーーっ!という声が会場を包む。・・・・どうやら何人か気絶した者が出たらしい。恒例となった風景に 周囲も慌てず騒がず看護班を呼んだ。 「朱嬰選手も負けていませんっ!一瞬も目が放せない試合展開になりそうですっ!さぁ、いよいよ試合開始です!」 両者分かれて端に立ち、向かいあった。 一礼する。 ぐわーーーぁぁんっ!!! 銅鑼が鳴らされた。 ++++++++++++++++++ 「利広兄様、各国の本選出場選手の名簿が届いてたわよ」 珍しくも清漢宮に腰を落ち着けていた次男坊に、文姫が暑さ1センチほどの冊子を渡した。 「へぇ、どれどれ」 興味津々と覗き込んだ利広は、まずは慶の頁を開く。 「あ、やっぱり陽子が勝ったみたいだよ」 「え、どこ?陽子の名前なんてあったかしら?」 利広が指差した場所には、朱嬰と書かれている。刀剣部門だ。 「名前が違うわよ」 「街ではこちらの名前のほうを使っているのを、聞いたことがある」 「・・・・・・・いったいどこの街なのかは聞かないであげる」 鋭い文姫の突っ込みに、利広は乾いた笑い声を漏らす。 「楽しみだなぁ、組み合わせは抽選になるらしいからもしかすると緒戦であたることになるかもしれないな」 わくわくとしか表現しようがない兄の様子に、文姫ははぁぁと溜息を吐いた。 「うちのこともそれくらい真面目にやる気になってくれたらいいのだがな」 利達がひょっこりと顔を出す。 「それは言っても言っても言っっっっても詮無いことだわ、兄様」 「そう言う兄さんだって、奏の徒手部門に名前がありますけど?」 え?と顔色を変えたのは文姫だけで、兄二人は通じ合ったように笑いあっている。 「いつの間に!?」 「いつも利広ばかり羽目を外しているのだから、偶には私もやってもいいと思わないか?」 「兄様は利広兄様の真似なんてしなくてもいいんですっ!・・・もうっ、利広兄様はともかく利達兄様が抜けられたら こっちは忙しくて観戦している暇も無いわよ!」 「「・・・・慶まで観戦に行くつもりだったのか・・・・」」 「当然でしょ。私と陽子は友人よ。友人の応援に行って何が悪いの?」 当然の権利だと文姫は主張した。 「私の応援は?」 「ふ、利広兄様の応援なんて昭彰が失道の病にかかったってご免だわ」 実の妹だというのに・・だからこそ、遠慮なく酷い。 「しかしねぇ、文姫」 「何」 「どうも父さんたちも観戦に出かけたいみたいなんだけれど?」 「は?」 「先日、夫婦そろって”慶国観光旅行案内・あなたも行こう!天下一武道会★”という冊子に目を通して、やはり 温泉ははずせないわ、とか金波宮つあー(がいど付き)なんてものもあるみたいよ!・・と楽しそうに話しているのを ・・・・・見たよな気がするのだ」 「「・・・・・。・・・・・」」 この子にして、この親あり。 清漢宮に『骨休み』の札が掲げられる日も近いかもしれない。 |