■ 景王と愉快な仲間たち ■
−参−
「主上っ!!!!」 「・・・バレたな」 書房で執務に励んでいた陽子は、景麒の叫び声ににっと笑った。 「主上っ!」 まるで『殴りこみ』という表現がふさわしい騒々しさで景麒が姿をあらわした。 「どうした、景麒?」 「どうした、ではございませんっ!『天下一舞踏会』とはいったいどういうことですか!?」 「『舞踏会』じゃなくて『武道会』」 「どちらでも同じこと!」 「・・・・・かなり違うと思うけれど・・・・」 「主上!」 「わかったわかった、そう耳元で怒鳴らなくても聞こえているよ」 「左様でございますか・・・主上も齢100を越えられ、だんだんと耳が遠くなっていらっしゃるようでしたので」 「お前こそ人のことが言えるのか?都合が悪いときには聞こえないふりしやがって、それで慈悲の生き物と 呼んでもらえると思っているのか!?」 「人聞きの悪いことを仰らないでいただきたい!・・・そんなことではなく!その天下一なんとかという、主上の また埒の明かない愚かな企みのことです!」 (・・・・ちっ) 話は反れなかった。 「愚かとは、何だ。近年まれにみる企画だぞ」 「いったいどこをどうすればそのようなことを思えるのか・・・・ともかく、このような野蛮な企画はすぐにお止め いただきたい!」 「無理だ」 「そう、無理・・・・っ!?」 「うん。だってもう諸国に打診して準備も進んでいる。触れも出したからな。街に出てみろ、その話題で持ちきり だぞ。・・・この百年、これほど手ごたえがあった試しは無かったから誇らしい気分だ」 「主上・・・・ぅ・・・」 「どうした、床に手をついて?ほほぅ、王としての威光に溢れた私に叩頭せずにはいられなくなったか?」 「寝言は寝て言え・・・・」 力なく床に手をついたまま、景麒は景麒らしくない言葉をぼそぼそと口にした。 このあたり、主の影響が現れている・・・・恐ろしいことに。 「ん?」 「・・・・・・どうあってもお止めにならないと・・・・・?」 「もちろんだ。何なら景麒も出場するか?」 「とんでもございませんっ!!麒麟たる私が野蛮な戦いになど・・・・っ」 陽子は景麒の前で、ちっちっと指を振った。 「駄目だぞ、景麒。最近の麒麟は強く逞しく雑草のようにしぶとく無いと民にもてないからな。六太君も参加して みると言っていたし、高里君も槍部門に参加するらしい・・・いいなぁ、他国の麒麟は皆頼りがいがあって・・・・」 「・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・」 自尊心だけは誰よりも高い景麒の眉間がぴくぴくと痙攣する。 麒麟なんてあーだこーだと色々文句を言っても、実のところ自分の王が一番『好き』なのだ。 その『大好きv』な主が他国の麒麟・・・しかも特に目障りだと思っている二人・・・を『頼りがいがある』と評したことに 対して心穏やかでいられるはずが無い。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・わかりました」 「ん?」 「わかりました!そこまで主上が仰るなら私も参加させていただきますっ!武器など不用ですっ!この拳だけで 見事勝ち抜いてご覧にいれましょうっ!」 それはどう考えても無理だろう、というナマっちろい腕を袖から出して天に掲げる景麒。 誰でも言うのは自由だ。 「そうか!凄いぞ、景麒!頑張れ、応援しているからな!」 「主上・・・っはい!ありがとうございます!」 「だけど、無理をしては駄目だ。お前は私にとって唯一無二の半身なのだから」 「――――主上・・・・っ」 この百年。この主にこれほどに温かい言葉をかけてもらったことがあっただろうか。 否。 それだけに景麒の感動はひとしおだった。 その主従の様子を、脇で見ていた浩瀚は、まんまと話を反らされ、あまつさえ参加するという言質まで取られて しまった景麒に気の毒そうな視線を注いでいた。 (―――― 本当に、嫌になるほどに逞しく成長あそばされた・・・・) 景麒の肩に手を置いて、励ましの言葉をかけている主にそら恐ろしいものを感じずにはいられなかった。 |
回が進むごとに何かが壊れている気がします(笑)