■ 景王と愉快な仲間たち ■
−弐−
「―――― 会場は広いほうがいいから、大学の庭院でも借りるかな?」 「・・・・左様でございますね」 浩瀚は疲れたように同意した。 暇を・・否、忙しさを持て余した陽子は、浩瀚に『天下一武道会』の開催を強請った。 だが、陽子とは違って慶国生まれ慶国育ちの浩瀚にいったいそれが何なのか、はわからない。 もちろん、武道会、というからには武道の大会なのだろうがと予測はしたが。 「このさい、慶国だけなんてケチ臭いことは言わず、十二国中から参加者を募り、各地で予選を開いて 見事勝ち抜いてきたもので、誰が十二国で一番強いか決定するのだ。やはりそれぞれ得意とする獲物が 違うだろうから、部門は分けなくてはならないだろうな」 意気揚々と、女王は語り出す。 「―――― お待ちを、主上」 「何だ?」 「・・・・・・それがいかに大変なことか、もちろんおわかりでございましょうね?」 「ああ」 満面の笑みで頷いてくれる。 「だけど、盛り上がると思うぞ?実のところ、ずっと以前からやりたいと思っていたのだが、国同士で話を進める のがなかなか難しいだろう。しかし、今は丁度いいことに大使館がある!これを利用しないでいつ利用する!」 「・・・・・・・・・・・」 そもそも大使館はそんなことに利用するために作られたものでは、断じて無い・・・・・・・・・はずだ。 「各国の王君方には私も話をしてみるから、浩瀚たちは準備のほうをよろしく頼む」 「―――― やめてくださる、という気はさらさら無いのですね?」 「うん」 「・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・」 陽子に仕えはじめて百年。 浩瀚は、初めて大いなる不安を覚えたのだった。 ******************* 「そういうわけで、よろしくお願いします」 「また、思い切ったことを企画したな」 急を要する執務だけを終わらせて、隣国雁に飛び立った女王の目の前には延王が呆れと感心の光をその目に 浮かべて陽子を見ていた。 「へぇ!面白そうだな!」 その王たちに挟まれるように間に座っている延麒も楽しそうに膝を打った。 「参加資格などはあるのか?」 「いいえ。腕に自身がある者ならば誰でも。但し、きちんとルールは守っていただかなければなりませんが」 「ルール?」 「殺すほどに相手を痛めつけては駄目です。闘技台から落ちたらそこで負け」 ふむふむと、二人は相槌を打つ。 「優勝者には、賞金と記念品が贈られます」 「――― 一ついいか?」 「はい」 「仙の参加は?」 「構いません」 陽子と延王は顔を見合わせ、にやりと笑った。 「何だい、それは?」 「・・・・・何度も言っているけど、窓から入ってくるのはおやめになって、利広兄様」 「まぁまぁ」 全く懲りない兄に文姫はことさらに大きな溜息を吐き出し、手に持っていた紙を渡してやった。 「―――― 『天下一武道会』・・・?」 「ええ」 「・・・・へぇ」 利広はくすくすと笑い出す。 「また面白いことを考え出したものだねぇ、自国だけではなくて他国まで巻き込んで、というところが彼女らしい。 ――― 参加資格に仙は不可、とは書いてないね」 「いらないところだけ目敏いんだから、兄様は」 「―――― 利広、参加したければ山となっている仕事を終わらせてからでないと許可せんぞ」 二人のやりとりを黙って見守っていた長兄利達からの言葉に、利広は両手をあげた。 「はいはい、わかってます。―――こんな面白いことに参加できないなんて、死ぬまで後悔しそうですから、 せいぜい頑張ることにします」 「いつも、こう素直だと私たちも苦労しないですむのに」 「景王君に感謝をせねばな」 散々な言われように、利広は乾いた笑いを落とした。 「――― 主上、本気ですか?」 「私はいつでも本気だ」 がっくりと、慶国禁軍左軍将軍桓堆は首をうな垂れた。 「いくら何でも、王が参加なさるというのは・・・」 「私が企画したんだぞ。また私だけ除け者にしようたってそうはいかない!」 「・・・・・・・・・」 「王だってたまには暴れたいんだ」 「・・・・・・・・・」 いつも暴れているでしょうに、とはさすがに桓堆は言葉に出来なかった。 「延王も参加されるようだし、奏からも利広が参加すると言って来たし・・・楽しくなりそうだと思わないか?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 楽しいのは主上だけです。 桓堆のつっこみは、心のうちに積み重なっていく。 「主催者が予選敗退なんてわけにはいかないからな。遠慮なく、かかってこい。桓堆!」 「・・・・・・・・・・・」 百年の時を経て、ますます女離れしてたくましくなっていく女王に果たして喜ぶべきなのか、悲しむべきか。 祥瓊曰く、『変なところで律儀で貧乏くじをひく苦労人』・・・・な桓堆は溜息を飲み込んで剣を構えるのだった。 |