** スレナルVer. **
参
雪隠れの里は、木の葉や砂とは比べものにならないほどに小さな勢力しか有していない。 庇護するべき雪の国が小国なのでそれも仕方の無いことだ。 だが、少なくとも”忍”を称する限り、一般人とは違う。彼等はそれぞれの掟に従い、厳しい社会の中で生きている。 「コンニチワ?」 「!?」 「・・っ貴様っ!」 「長っ」 執務室に入ってきた雪隠れの長と幾人かの忍が、無人のはずの部屋に響いた声に緊迫した声を上げた。 「暗部面・・・っ」 「その肩の徴は・・・・・木の葉か!?」 黒髪の暗部面をつけた男が、窓辺に身をもたれさせ、まるで緊張した風もなく立っていた。 青年は雪忍の問いに否定も肯定もせず、もたれていた窓辺から身を離した。 「別に、長の命を狙ってきたわけじゃない・・・信じるかどうかは別として」 ふっと笑った気配がした。 「・・・では、何用か?」 庇うように前に立つ忍をどけて、壮年の恰幅のいい男(彼が長だろう)が問うた。 「そう・・・一言で言うならば気まぐれ。お前たちには慈悲だな」 「何を・・っいくら木の葉の忍といえど、たった一人!」 「無事に帰ることができるとでも思っているのか!?」 くっくっと今度こそ男は肩を小刻みに揺らして笑った。 「ああ、悪いけど思ってる。オレは確かに1人だ。別に隠し玉があるわけじゃない。だけどな」 男から発せられたチャクラに、雪忍たちは揃って動きを止めた。 「これでも多勢に無勢とでも?・・悪いが、その気になればオレは一日もいらず、この里を滅ぼすことも可能だ。・・・嘘だと思うなら試してみるか?」 淡々とした台詞が真実味を増す。 「部下が、失礼を、した・・・っ改めて、用件を伺おう・・・っ」 チャクラの支配に逆らいながら長が声を出す。さすがに腐っても里の長。他の奴らとは違う。 男はチャクラの戒めを解いた。 自由になる体を取り戻した忍たちが男に飛びかかろうとするのを長が『やめろっ』と留める。 雪に居る忍では、彼には絶対に勝てないと長は判断した。 彼等を身振りで部屋から退かせ、男と向かいあう。 「賢明な判断だ。話のわかりそうな人間で良かった」 「・・・いったい何用なのか、聞かせてもらおう」 数度目の問いに、男は頷く。 「風花ドトウ。知っているな?・・・『国主』を自称している、前国主早雪の弟にして雪忍」 「・・・ああ」 「彼から援助を受けるかわりに、戦力を提供しているな?」 頷く。 「奴とは早々に手を切ることを提案する」 「・・・他国のこと、口出し無用と思うが・・・?」 「そうも言っていられない状況になった。オレもお国騒動なんて首を突っ込む趣味は無いが護衛対象が、正当なる後継者とはあってはそうもいかないだろう」 「!?・・・小雪姫が生きているのかっ」 「ドトウが大人しくしていれば、オレたちの任務も護衛だけで済むんだが・・色々とちょっかいを出されては、さすがに放っておくわけにはいかない。あいつはあんたと違って、賢明とは言いがたい性格をしているようだし・・・全く、たいした頭も実力も無いくせにやることだけは大仰だ。木の葉に喧嘩を売るということがどういうことか、忍の世界で生きてきて学ばなかったんだろうかな」 「・・・・・・・。・・・・・・」 「ま、そういうわけでドトウは潰す。雪忍たちを引き揚げさせるなら早くするんだな。オレも無駄に死体の山を増やして喜ぶ性質でも無い」 「・・・・そうか」 長は、男が口にした『気まぐれ』『慈悲』という意味を漸く飲み込んだ。 確かに気まぐれだろう・・・雪忍を引き揚げさせようが、させまいが、彼がやるといったからにはドトウの命運も長くは無い。負けるとわかっている勝負に兵隊を送り、無駄に失うことは雪隠れの里としても容認できることでは無い。・・・それを食い止める機会を男はもってきたのだ。 それが『慈悲』。 「木の葉は火影が代替わりしたが、友好路線に変わりは無い。余計な敵を増やすことも無いだろうからな。・・・さて、どうする?」 否、でも応でも・・・さして男に影響は無いのだろう・・・。 「・・・わかった、ドトウへの戦力提供は今をもって停止する」 「あんたには、是非末永く長の座に座っていてもらいたいものだな」 「・・・・・待て」 用事は済んだとばかりに出て行こうとする背を声が追いかける。 「これは取引だ。見返りをいただきたい」 「へぇ・・・・中々面白いことを言う」 とんでもなく重圧のあるチャクラが、長を襲う。 「・・・言ってみろよ、聞くだけは聞いてやる」 「・・・・な・・・・・を・・・・・名を、教えて・・・貰いたい・・・・っ」 初めて男が驚いたように肩を動かし、チャクラの重圧が消えた。 「タオ・ルン」 瞬く間に、男の姿は消えた。 |