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「カスミよ」
「はい、旦那様」

 庭に続く正面の障子を開け放ち、夜空に浮かぶ月を愛でながらの贅沢な宴。
 スイコウはナルトが次々に酒を注ぐ杯を、間断なく口に運んでいく。顔色が変わる様子も無く、口調や呼吸に乱れも無い。酒に酔わない体質なのか、用意されている酒がそのようなものなのか。

「もったい無いと思わぬか」
「何をでございましょう?」
「相応しき者が在るというに、ふさわしき場所にはふさわしからぬ者が在るということが」
「そうでございますね」
 ナルトはあっさりと肯定する。
 スイコウが何を指してそう言っているのかはわからないが、客観的に見てそれは肯定しうる事柄だったからだ。深い意味など無い。あくまで、ナルトは招かれた一夜の舞姫に過ぎない。
 庭を見ていたスイコウの視線がナルトに向けられた。

「そなたは美しい」

 ナルトは無言で微笑んだ。そう見えるように変化しているのだ。否やも無い。
 謙遜もする必要は無い。ただ、受け入れるのみ。
 頤に手をかけられたナルトは、引き寄せられるままにスイコウに寄りかかる。
「あの月のように・・・そなたは美しいまま、姿を変えるのであろうな」
 意味深なスイコウの言葉だった。
「・・・姿は変われど、心は変わりませぬ」
 そうではありませんか、とナルトは逆にスイコウに問いかけた。
「そうだな。・・・美しきものは美しいまま、か。その内面の本質までは変えようも無い」
「旦那様は美しいものがお好きですか?」
「厭う者はおらぬだろう。だが・・・そう、好きであろうな。特にそなたのように並ぶもの無きほどのものが」
「過分なるお言葉を頂戴し、光栄にございます」
「ならば、わかるであろう」
「何を、でございます?」
 微笑ながらナルトは問いかける。
「手を伸ばせば届くものが目の前にあり。手に入れようと、思わぬ者がおろうか?」
「それが真に届くものであれば、伸ばすのもよろしいでしょう。ですが、見極めを間違えれば二度と見ることも適わぬことになりましょう」
「・・・嫦娥」
 月の女神の名を呟く。
「貞淑でありながら、気まぐれで、猜疑に満ちた愚かなる美しき女・・・およそ理想たりえぬ月の女神。いっそ、『かすみ』と名を改めたほうが良いかもしれぬ」
「恐れ多い」
「賢く、真を持ち、神秘の帳に包まれし美しき女」

 ナルトはゆっくりと、その身を押し倒された。


















 心臓に突き立てたクナイを引き抜き、無表情でイタチは崩れ落ちる躯を見下ろした。
 死を前にしても、イタチの心が乱れることは無い。
 思うことは、ただ一つ。これでナルトの憂慮が一つ減り、喜んでもらえるだろうということだ。

(私からナルトを引き離そうとした・・・・)

 老境・・・というにはまだ早いだろうが、忍としては寿命を迎えるだろう40がらみの男。
 イタチに傷の一つもつけることが出来ず、この世を去った。

「ナルト」

 イタチは夜の闇を見上げ、天に煌煌と輝く月を見た。
 男の死など、その脳裏に一かけらとして残ってはいまい。

(迎えにいく・・・)

 イタチの姿が瞬時に消えた。












 



やっとイタチ出た・・・