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 商人の家というには少々大き過ぎ、大名の城というには小さい…そんな屋敷に招かれたナルトは
案内の人間の後ろに大人しく従って歩いていた。

「失礼致します」
 障子がそっと開けられ、ナルトは入るように促される。

 一段高い所、御簾の奥に座った人物に三つ指をついて挨拶した。

「この度はお招きいただきありがとうございます」
 頭の上…体中に観察する視線が注がれているのがわかる。
 主は無言で、何も示さない。
 別にそれは構わない。舞姫たる『自分』は舞うためにやって来たのだ。
 ゆるりと立ち上がると、腕を差し上げる。

 シャラン…っ

 鈴の音が、宴の始まり。
 仲間は居ない。ナルトだけが、舞うことを許された。
 観客もただ一人。
 館中がひっそりし、人が居るはずなのに、人の気配が感じられない。
 まるで。
 そう・・・

 まるで忍の館、のようでは無いか。


「見事」
 舞い終えたナルトに声が掛った。
 初めて聞いた相手の声は、想像していたより若々しい。
「恐れ入ります」
 座して顔を伏せていたナルトは頭を下げる。
「こちらに」
 僅かに衣擦れの音がした、御簾の奥から手招かれたのがわかる。ナルトは小さく応えを返し、しずしずと御簾の傍までにじり寄り、『失礼いたします』と声を掛けて御簾を少し上げ、中に入った。
「見事な舞いを見せてもらった礼に、盃を取らそう」
「ありがとうございます」
 差し出された盃を受け取り、捧げ持つ。
 ちらりと視界に入った手先は労働を知らぬ美しいものだったが、不思議と頼りなさは無かった。
「では、いただきます」
 ナルトの体は毒物を受け付けないようにアルコールもその効用を示さない。口元に盃を当てると、一気に飲み干した。
 ふ、と相手が笑った。
「呑みっぷりも見事だな」
「恐れ入ります」
 ナルトは口元を拭い、相手に返し、初めてその顔を視界に入れた。

 青い髪。青い目。ただし、ナルトのものとは違い、それは水面のような透明度があり、瞳孔との区切りがはっきりしていないせいで感情が読み取りにくい。聞き取った声のように30代前半ほどの年齢の外見。

「美しい舞姫だ」
 ナルトは微笑した。
「旦那様も良い男にございますね」
 男も笑った。
「我が名はスイコウ」
「スイコウ、様」
 さて、何者だろうかとナルトは思案する。
 ただの商人というには世俗臭さがあまりに無く、落ち着きすぎている。ナルトを前にしても下卑た視線など寄越してこない。では、大名・・・というには気配が。
「そなたの名は?」
「カスミにございます」
 目の前にあっても、決して手に掴むことは出来ない。それは在りて在らざるもの。
「そなた、何ゆえに我が前に現れた?」
「私は舞姫、舞うのが仕事にございます。一夜の夢を旦那様に差し上げるために」
「そうか」
「はい」

 隙が見えない。       スイコウ、何者なのだ。










 そして、ナルトが正体不明の男と接している頃。
 黒い暗部装束の影が一つ、霧隠れの里から現れ、消えた。