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 嵐の前の静けさ。
 微風さえも吹かず、木の葉の一枚も漂わない。

      六代目」

 静かな声に呼ばれて、火影岩から里を睥睨していたナルトが振り向けば、里の名だたる忍の
一族の長が顔を揃えていた。不在は、”うちは”のみ。
 どの顔にも気負いは無く、自然体でナルトの言葉を待っている。

「揃いも揃って・・・・」
 ナルトが笑う。
「馬鹿ばかり、だな」
 日向ヒアシがぴくりと、眉間を動かした。
「馬鹿とは何ですか、馬鹿とは」
 シカマルの父親である奈良シカクが苦笑まじりに応対する。
「馬鹿だろう?・・・・全く、一つも欠けず、か・・・」
 保身に動くもの、離反するもの・・・全く無く、長たちはナルトの前に姿を現した。
 これから起こることがそう容易いもので無いことは、火を見るよりも明らかであるのに・・。
「本気、なのでしょう?」
「酔狂でこんなことをするほど暇じゃない。なぁ、油女」
 無言で頷く。
「では、精々働いてもらうとしよう。日向」
 無言で一歩前に出る。
「雲隠れをまかせる。いいな?」
 日向とは浅からぬ因縁のある国だ。
 忍五大国の一つ・・日向一族だけでは荷が重いはずだが、ヒアシは動揺することなく是と答える。
 日向家は伊達に『木の葉最強』を名乗っているわけでは無い。その実力と観察眼は、常に物事の
動静を冷静に見通し、動いて行く。その目から見た『六代目火影』は、一言で言うなら『得体が知れ
ない』・・・だが、一方でその実力は『底が無い』と評している。
 六代目は日向家の力の限界を見切っている。それを上回る要求はしない。
 ならば、雲隠れには日向より先に六代目の息がかかったものが入り込んでいると考えていい。
「・・・目印は?」
 ゆえにヒアシは、その六代目の細作について尋ねた。
「さすがに勘がいい。         雷影の首だ」
「それは・・・・、わかりやすい目印ですね」
「だろう?」
 悪戯が成功したような笑みをナルトは浮かべた。
「岩隠れは、奈良・秋道・山中・・・にまかせる」
「こっちの目印も、土影の首・・・ですかぁ?」
 シカクの問いに、ナルトは無言で頷いた。
 それぞれ、その手回しの良さと速さに舌を巻く。と同時に、いったいそれが”いつから”計画されて
いたことなのかを考えると・・・・・背筋がぞっと冷えた。
「霧隠れは、犬塚・油女・猿飛にまかせる」
 おしっ、と犬塚家の長が声をあげるのに対し油女はどこまでも静かに頷くだけ。
「他の小里には、あとで上忍・中忍部隊を適当に振り分ける。抵抗するならば容赦はいらない、
降伏した者への判断はそれぞれにまかせる。ああ、それから・・・世継ぎたちはオレがこき使う
予定だから置いていけ」
「言わなくても、あいつらは貴方の側から離れんでしょうよ」
「物好きは、親譲り・・か?」
「・・・六代目・・・」
 心当たりある者が、そっと目を逸らす。
 ナルトは、くつりと喉を鳴らした。
「制圧し終えたら呼べ。すぐに行く」
 六代目に不可能の文字は無い。その言葉通り、”すぐに”現れるのだろう。
「六代目は、どこかへ?」
「風に・・・・野暮用を片付けてくる」
「野暮用・・・ですか」
「ああ」
 口調は、近所の八百屋に野菜でも買いに行くように適当だったが、今まで一度も目にしたことの無い、その完全武装した姿が、徒事では無いのだろうと推測させた。
 それでも彼等に、火影に対する不安は無い。

 ふわり、とナルトの漆黒の外套が揺れた。

「行け」
『『『御意』』』

 疾風が、里を駆け抜けた。













  

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じりじり・・じりじり・・