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 任務受付所は、他里との外交の窓口でもある。
 いつもならばそこは、依頼人で賑わっているはずだが、それらしき人はどこにもおらず、同じよう
な忍が幾人か、気弱そうな顔の忍を囲んでいた。囲んでいる忍たちの額当ては木の葉のものでは
無く、霧であったり岩であったりと様々だ。
 
「火影殿にお目通りを願いたい!」

 そんな彼等が気弱な忍・・・イルカに先ほどから迫っているのはその一点につきた。
 それをイルカがのらりくらりとかわしている。

「我ら、此度の書状につき至急火影殿に、事の真偽を問いただすようにと長より委ねられている」
「冗談にしては、あまりにも度が過ぎられようっ」
「未だ若く長の就任されたゆえ、世の道理というものがわかっておられぬ・・・」
「まぁまぁ、皆さん・・」


「わかっていないのは、お前たちだろうに」
「!!!」

 彼等の背後に現れた気配に、咄嗟に振り向くと面会を求める当の相手が何食わぬ顔で立ち、
面白そうに眺めていた。

「火影殿・・・っ」

 火影の正装ではなく、完全武装に身を包んだナルトの姿は、麗しき戦神というに相応しい。
 煌く金の髪を後ろでに一つに紐でくくり、漆黒の忍服はまったく無駄の無いすらりとしたナルト
の肢体を浮き彫りにしている。忍服と同じ漆黒の外套は、その凛麗とした美しさを湛えるように
大きく翻っている。
 その姿が、目の前を通過しイルカの隣に並ぶのを、言葉も無く見つめるしかなかった。
 彼等は、見惚れていた。

「戯れで、”正式”の書を他里に出すほどオレは耄碌してはいない」

 それが全てだと、火影は身を翻して部屋を出て行こうとする。

「・・っ火影殿っ!」
「お待ちを・・っ!」
「お話は、まだ・・っ」

           何を呆けているのか知らないが」
 鋭い視線が、追いすがろうとした彼等の足を止める。
「あの書を受け取った時点で、木の葉よりの宣戦布告は成っている。       つまり、木の葉と
おのおの方の里とはすでに敵対関係にある」
「・・・・・・・・・・・・・・・・っ」
「命が惜しくば、さっさと退かれることだ」
 若造が、と怒気で赤くなっていた彼等の顔色が瞬時に蒼白に変化する。
 この場を包んでいるのは、静寂と・・・・殺気まじりの敵意。
 敵陣に裸で突っ込んだに相応しい       と今更ながらに彼等は悟ると、われ先にと身を翻し
て出て行った。


          もっとも、急いだからと言って間に合うとは限らないが、な」


 彼等の姿が消えたところで、笑みまじりに落とされた火影の言葉にイルカが困ったように気弱な
笑いを浮かべた。

「・・・六代目」
「ここは本日をもって、出動待機所の一つとする。イルカ中忍、戦時特例として今ここで上忍へと
昇格させる。中忍1部隊を率いて里の警備強化に務めよ」
「・・・畏まりました」
 イルカは常に中立にある人間だった。
 ナルトがドベであろうと、火影になろうと彼の態度は一貫して変わらない。
 ”彼”とはまるで正反対の印象を抱くのに、何故か思い出さずにはいられない。イルカは昔から
ナルトの敵ではなかった。・・・・・・・・・・だが、完全な味方でも無い。
 ナルトを守ろうとしながらも、決して一定以上に踏み込むことは無かった。


          ご武運を」

「・・・・ああ」

 
 頭を下げたイルカをナルトは視界に居れず部屋を出て行く。
 その背中を、イルカは祈るように目を閉じて見送った。

















「・・・・六代目っ」
 目にも鮮やかな桃色の髪を翻して、医療長を任せられているサクラがナルトの前に膝をついた。
        はたけカカシ上忍帰還致しました」
「・・・・そうか」
 本人では無く、サクラが来るというあたり・・・カカシの状態が知れるというものだろう。
「生きて、帰ったか・・・」
「っ絶対に、助けます!」
 残念そうに呟いたナルトの言葉に、反論するようにサクラは言い切った。
 今の彼女にはそれだけの力がある。伊達にツナデの弟子をしていたわけでは無い。
 ナルトは小さく頷くと、離れていく。

 その口元に微笑が刻まれていたことを知る者は居ない。














  

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