その日、火影執務室に珍しい客が訪れていた。

「久しぶりじゃの、六代目」

 誰の案内も請わず、突然現れた目の前の男にナルトはにっと口角を吊り上げた。
「久しぶり、だってばよ。ガマ仙人」
 三忍の一人、自来也だった。
「相変わらずふるいつきたくなる美人じゃのぅ。儂は嬉しい!どうじゃ、今度小説のモデルをしてみんか、ん?」
「ははは、冗談は顔だけにしろってばよ」
 椅子に座っていつもの執務をこなしていたナルトは、立ち上がって自来也に近寄った。
 すらりと伸びたナルトの身長は、自来也には届かないまでも対等な目線で話が出来る。
 かつて、ドベのふりをして師弟の真似事していた過去は遠い。

「・・・で?」
「で、とは何じゃ?」
 促すナルトに、とぼける自来也。
 ふふ、と微笑を溢したナルトは巻物を手の上に出現されると、しゅるりと紐を解き、中身を自来也へと見せた。そこに書かれていたのは、自来也への長老就任命令書。
「俺が判を押せば、決定だ」
「ぬ・・儂が悪かった!」
 冷や汗を浮かべた自来也に、ぱんと音をさせて巻物を消失させる。
「儂がここに来たのは・・・・身に覚えがあるじゃろう」
「さて。こんなことをしてると身に覚えがありすぎて困るからな」
「カカシに何を運ばせた?」
 微笑を浮かべて、自来也の問いを無視したナルトは逆に問い返した。
「大蛇丸の行方は?」
「年寄りをあまりこき使うものでは無いぞ・・・」
「だからゆっくりさせてやろうと思って、こうして長老の椅子を用意・・・」
「大蛇丸の行方じゃな!儂に不可能は無い」
 そんな堅苦しいだけで、面白みの一つも無い椅子など絶対に貰いたくない自来也は、ナルトの言葉を慌てて遮り、大蛇丸のことを語りはじめた。
「あれ以来、音隠れのほうには全く姿を見せておらん。あれも伊達に三忍と呼ばれ追ったわけでは無いということじゃ、各地を転々として一箇所に落ち着かん。尾行も察しておるじゃろう」
「前振り長い。『不可能は無い』んだろ。今はどこに居る?」
 大口を叩き、ちゃらんぽらんに見えても、やるべきことは完遂させる能力があるからこそ、大蛇丸につけていた。
       大蛇丸をどうするつもりだ?」
「あんたらしくも無い愚問だな」
 突き放すような言葉に反して、深い海の蒼に浮んでいるのは楽しげな光。
 しかし、楽しげではあっても温かみは1度とて無く、ぞくりとした悪寒が自来也の背筋を駆け上る。
「・・・儂がもう30歳若かったらのぅ」
 衝動のままに、嵌まって抜け出せず堕ちていただろうに・・・と呟く自来也に、それは艶やかに笑ってみせると、『残念でした』と目を細めた。海の底に沈む瞳孔が縦長に伸び、きらりと金色に輝く。
 誘蛾灯のように・・・その何倍もの威力を持つ光は、否応なく中心を猛らせる。
 ふぅ、と息を吐いた自来也は、どさりとソファへと腰を下ろした。
      ますます性質が悪くなっとるのぅ、お前」
「元々こんなものだっ・・・てばよ?」
「いや・・・何というか             が外れとる、か」
「言いえて妙、だな。・・だが、言葉遊びはこのあたりでやめておこう。自来也、六代目火影として命じる。        大蛇丸を始末せよ」
「・・・・・・・・・」
「確実に、息の根を止めて来い」
 ナルトの細い指が、自来也の輪郭を滑り、首に当てられる。
「二度と、目覚めぬ死を」

            俺からの、贈り物だ・・・

「ナルト」
 囁く声が自来也の頬を撫でる。
「無理だ。誰にも、止められない・・・止めさせはしない。それとも         



 


 俺を、殺す?






「・・・・・・・・・・・・・・・・それこそ無理、じゃ。『今』となっては」
 深く息を吐いた自来也は、ナルトの手を首からどかせてゆっくりと立ち上がった。



「六代目勅命、確かに承りました」









  

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