天涯に 涙在り
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「 その気配を感じて、病室のベッドで身を起こしたナルトは名を呼んだ。 我愛羅との戦いで、『チャクラを使い果たした』ということになっているナルトは、病院へ運びこまれて 医者から安静を言い渡されていた。ナルトにしてみれば、退屈な限りだ。 包帯の下の傷はすでに跡形も無く、チャクラも故意に押さえておかなければならないくらい、いつも通りのレベルまで戻っていた。 三代目を失った木の葉の里は、戦いによる爪痕を癒す作業と、次期火影を誰にするかでどこもかしこも忙しない。それでも舞い込む依頼をこなすべく、忍たちはこぞって借り出され、任務に就いている。 ただ一つ、喜ぶべきはそのおかげで、鬱陶しい担当上忍であるカカシが顔を出せないことくらいだ。 一度、ナルトが病院に運び込まれたということで大量の花を見舞いに持ってきただけだ。 どうやらこき使われているらしい・・・ざまあみろ。 ナルトもいつもならば、影分身でも使って任務に就くところだが、そのナルトに任務を告げる三代目が亡くなったのだから、動きようが無い。里の長老会が誰を次期火影に推すか、だいたい想像できるが、自来也がそうやすやすと受け入れるはずもなく、もう一波乱あると睨んでいる。 まぁ、今のナルトの立場を一言でいえば。 そんな暇を持て余していたナルトの元に現れたのが、三代目が口寄せによって使役していた猿猴王だった。 血糊のついた刀を背に負い、大蛇丸との戦いで見るも無残に傷つけられた姿は、外見が老猿だけあって今にも朽ち果てそうに見える。それでも眼光だけは、精気に溢れ鋭かった。三代目と共に、長の年月を過ごし、そして戦いによって主を失った 「うずまきナルト、だな」 「・・・・・・」 断定口調に、ただ沈黙を返した。 「三代目からの遺言を預かってきた」 ナルトは瞬時にめぐらせたチャクラの結界を解いた。猿魔もそれがわかったのか、窓の桟を乗り越えて室内に入ってくる。 「血で汚すなよ、後でいちゃもんつけられるのは俺なんだから」 「・・・あいつから聞いていたが、そっちが本性か」 ニヤリと笑ってやる。猿魔が肩をすくめた。 「まぁ、いい。うずまきナルト、三代目の名により暗部の任を解く。肩を出せ」 「必要ない」 「・・・なに」 「必要ない、と言った。用はそれだけか?」 「・・・お前は馬鹿か?あいつがお前を解放してやろうと・・・」 「お前こそ馬鹿か?いったい何年生きている。俺は『必要ない』と言ったんだ」 全く聞く耳をもたないナルトに、猿魔は舌打ちする。 目の前の相手でなければ、力づくでも三代目の望みを実行しただろうが・・・相手が悪い。先ほどの結界だけでもナルトの力がどれほどのものか、猿魔には察することが出来た。たかだが12年ほどしか生きて居ないガキのくせに、九尾を身に宿し、そのチャクラを自由に操る・・・猿猴王をしても、『化け物』と呼ぶに値する存在だと、確信した。だが、猿魔もガキの使いでは無い。それこそ最後の主の最後の願いのためにわざわざやってきているのだ。ただで帰るわけにはいかない。 「あいつは、最後までお前のことを案じていたのだぞ」 「今度は説教か?・・・あんたは、ただそうすることで心の平安を得たいだけだろう。助けられなかった主の命のかわりに、せめて願いなりとも、か?それでも使役獣でも最高と誉れの高い猿猴王か?」 「ぐ・・・」 「機を逃がせば、全ては遅い。あんただってじっちゃんに言ってただろう、大蛇丸を『あの時殺しておかぬからだ!』とな」 「っ!お前・・・聞いて・・・」 あの場に居たのか、と目を見開く猿魔を嘲笑する。 「俺の目と耳は里中にある。・・・たとえ、大蛇丸の結界の中だろうと、な」 「お前は・・・・では、それだけの力がありながら・・・っあいつを見殺しにしたのか・・・っ!」 「俺はじっちゃんに敬意を払ったまでだ。己の過失のせいで、今回の事態を招いたことを三代目は誰よりも悔やんでいた・・・だから自分の手でけりをつけたかった。そうじゃないのか?」 「・・・・・・・・・」 「・・・・残念ながら、持っていけたのは両腕だけだったみたいだけどな。さすがに両腕を持っていかれれば今の大蛇丸は無力だ。だが、あくまで『今』の話だ。どうせ、また入れ物を変えれば元通り、だ。なぁ、お前も思っただろう、三代目の死は 「お前・・・っ」 いきり立つ猿魔に対して、ナルトの気配はどこまでも静かで、蒼の瞳は凪ぎを思わせる海面のように感情の波の一つとて立っていなかった。 「なぁ、猿魔。じっちゃんは、お前の最後の主だろ?」 「・・・・・・・それがどうした」 「お前は主の願いを叶えたいのだろう? 「・・・・・・・・里を守り導くこと」 「それは『火影』としての願いだろ。お前の主の猿飛の願いは?もう必要の無い大蛇丸の剣を背に負っているのは何のためだ?」 「大蛇丸を 微弱だった猿猴王のチャクラが、ゆらめいて広がっていく。その様に、ナルトは満足そうに笑った。 「ならば、お互いに利用しようっていうのはどうだ?」 「なに」 猿魔が胡散臭そうにナルトを睨む。 「大蛇丸を討つにしても、あんた一人じゃ無理だろ・・・・使役獣ってのは本来、勝手に動いたりしないもんだからな」 「・・・・・・・・・」 「俺はこのまま暗部に居る、かわりにお前が大蛇丸を討つ手伝いをする」 「儂はもう契約は・・・」 「そんなものはいらない。猿猴王ともなれば、契約なんてただの形式だろ、俺の気配ぐらい難なく捉えられるだろ。心得ることはただ一つ。願いを忘れないこと、ただそれだけだ」 「 「 浮かべた艶やかな笑みは、とても12歳の子供のものとは思えないほど毒があった。 「さぁ、どうする?」 「・・・・・・・わかった、お前の手を借りよう」 「成立、だな」 |
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もう、原作無視して突き進むことにしました(笑)
この序は時間軸にして、木の葉崩しの直後ですが、次回からは
元の時間軸(火影)に戻ります。
今回の長編は輝夜シリーズ(と命名)の、起承転結の転ぐらいに
あたるメイン中のメイン。伏線なども(一応、そんなものがあったのか/笑)
明らかにしていく予定です。登場人物も最多で、話も最長になるかと
思いますが、よろしければお付き合い下さいませv