― 4 ―
火の国が国主は齢49を数え、能力は可も無く不可も無く。 仮初の平和が保たれている今の世では、中央を占める火の国を守るに適した人材であった。 彼の趣味は、池の鯉への餌やり。 「―――失礼する、国主殿」 「―――っ!!」 誰にも邪魔されないはずの時間に、突然かけられた声に国主の手から餌が落ち、全てが池へと 引っくり返った。 「だ・・・誰ぞ・・っ」 声まで引っくり返った国主の前に、編み笠を被った二人の姿。 外套を風になびかせながら、一人が一歩前に出た。 「――― 初めてお目にかかる」 「は・・・」 「木の葉の隠れ里六代目長、うずまきナルトと申し上げる」 口上と共に編み笠を取った。 「―――― ・・・・」 国主の目と口は、張り裂けんばかりに丸く開かれた。 「は・・・い・・・え・・・・」 何が言いたいのかわからない呻き声が漏れる。 「如何なされた?」 艶やと微笑まれ、たちまちのうちに国主の顔に血がのぼる。 「あ・・いや、これは・・・まことに、失礼を」 ごほごほとわざとらしげに咳払いをした国主は居住まいを正した。 「いや、まさか・・・これほど麗しいお方とは存じ上げなかったゆえ・・いや、まことに美しくてあられる」 「お世辞がお上手だ。この度は誕生の宴にご招待いただき感謝申し上げる」 「いやいや・・・まさか誠に来ていただけるとは・・」 「木の葉と火の国は切っても切れぬ関係にございますれば、招きを受けて固辞するわけには参りま せん。・・・警護の様子も視察しておきたかったことですし」 ナルトが視線を走らせると、上忍姿の忍が姿をあらわし、三人その面前で膝をつき頭を垂れた。 いずれの額当てにも木の葉の徴がある。 常時国主の警護にあたらせている忍たちだ。 「国主殿の身辺に異常はあるか?」 「ございません」 「国主殿、この者たちは役に立っているでしょうか?」 「そ、それはもちろんのこと!彼らには幾度も命を救われた」 小さく頷いたナルトは、軽く手を振り彼らを下がらせた。 「――――しかし、国主殿」 ひやりとした空気が流れる。 「役に立つ、と仰りながら再び護衛を依頼されるとは何事かあられたかと察しますが・・?」 「そ、それは・・・」 「それは?」 まさか、六代目の顔が見たかっただけ、などと言い出せない国主の額に冷や汗が浮かんだ。 火の国という大国の主である国主だが、目の前の自分の息子ほどの年の忍に威圧されている。 反抗する気さえ起こさせない、圧倒的な『力』が目の前の人物にはある。 (―――― まさか、これほどとは・・・) 噂というものはだいたい話半分。 当然、火影の噂もその程度のものだろうと思っていたのだ。 だいたい人前に姿を現さないところからして、大したものでは無いことを隠そうとしているのでは 無かろうかと・・・・・。 百聞は一見に如かず。 何と言い訳したものかと、目を泳がせる国主に、ナルトの口元がふっと綻んだ。 「――― 国主殿の内心については問わずにおきましょう。誕生祝という晴れやかな席です。無粋 な騒ぎは座を穢すことにもなりましょう」 国主の顔が露骨に安堵の表情を浮かべた。 「―――― ですが」 ナルトの目がすっと細まり、国主を突き刺す。 「国と里は持ちつ持たれつ。優劣はありません。それをゆめゆめ忘れませんように」 こくこくと頷くしか出来ない城主を確認し、ナルトは編み笠を再び被った。 「・・・では、失礼致します。ああ、ご安心を。宴にはちゃんと出席させていただきますので」 口元の微笑が隠れ、背を向ける。 呆然とする国主の背後の池で。 ばらまかれた餌を、鯉がぱくぱくと食べていた。 「―――― ま、このくらい脅しとけば二度と余計な気は起こさないだろう」 「・・・・・・・・・」 シカマルは心の中で、国主に合掌した。 (―――― 脅しで済んだだけ、マシだったろうけどな・・・・) |