18.現・幻
激しい雨が大地を轟かす。 慟、と。 他に、何も聞こえない。 こんな日であった。 彼らと・・・彼と出会ったのは。 不安に揺れる青い瞳で店内を見渡し、おどおどと挙動不審に小さなテーブルにつく。 従者らしき者が彼に話かけ、残る二人は何の事情も知らされていないのか底抜けに明るい。 アラゴルンは目を閉じた。 彼が居るのは、オスギリアスの執務室。 踊る子馬亭の騒々しさの欠片もない静謐な空間。 それでも、鮮やかに思い浮かべることが出来る。 まるで、彼がすぐそこに・・・手の届くところに居るかのように――― 錯覚する。 「・・・・・フロド」 アラゴルンは請うように、その幻に向かって呼びかけた。 『アラゴルン―――』 幻は、悲しそうな、それでいて嬉しそうな・・・複雑な表情を浮かべた。 ―――― そう、彼はいつも何層も感情を重ねた表情を浮べ、麗しの青を曇らせていた。 彼の仲間である年下のホビットたちは、彼もホビットらしく陽気で歌ったり踊ったりするのが好きなのだと 語ってくれたことがあったが、アラゴルンにはそれを見る機会はついに与えられなかった。 いや。 ――――― 与えることが出来なかった。 アラゴルンは、再び目を閉じる。 胸が、痛い。 魂が、悲鳴をあげている。 失ったものはそれほどに、尊きものであったのだと。 『アラゴルン――――・・・・』 幻は小さな手を彼の頬へ伸ばした。 『・・・・誓いを、果たしにきました』 「――――ッ!!」 アラゴルンは、息の根が止まるほどに驚愕し・・・・・・・・・・・・・・・・何と、ソファから滑り落ちた。 『・・・・あなたのそんな姿が見ることが出来るなんて』 幻は、くすりと笑う。 『来た甲斐がありましたね』 「・・・・・・・・・これは、夢か?幻か?」 信じられぬ、と首を振るアラゴルンに、幻は、いや現か・・・困ったように首を傾げ、『さぁ、どちらでしょう?』 と、青い瞳を瞬かせた。 「―――― フロド」 アラゴルンは、彼の前に膝をついた。 |