5. 仲間






「このまま旅を続けるとして・・・・ボロミアはどうするんだ?」
 魔王によってナズグルに変えられていたボロミアは、未だに昏々と眠り続けている。
 一度死んで生き返ったようなものだ、無理も無い。
 しかし、このまま放っておくわけにもいかないだろう。
「心配いらぬ」
 穏やかに告げたガンダルフは一同の視線を受けて、ぷかりぷかりと二つの煙を吐いた。
 大気に消えるはずの煙は、どんどん人の形を取り、二人の小人となった。
「式に面倒を見させよう。メリー、ピピン。そこの・・・・」


「「フロドッ!!」」

 己の生み出した式に命じようとしていたガンダルフを遮るように、メリーとピピンと呼ばれた式は、フロドの
 名前を叫んで飛びついた。
 危険を感じたアラゴルンが支えなければフロドの後頭部はただではすまなかっただろう。

「わー、フロドだ!久しぶり〜!」
「随分久しぶりじゃない?ますます美人になって!」
「「会えて嬉しいよ!」」
「あ・・・う、うん」
 両側からまくし立てられて、フロドはただ頷くことしか出来なかった。
「あのね、フロド!」
「フロド!」






「メリー!ピピンッ!!!!」







 ガンダルフの雷が落ちた。













「・・・全く、お主らは・・・少しは式としての自覚を持ったらどうじゃ」
「えー、そんなのつまんないもん」
「失礼な。ちゃんと自覚してますよ」
 ガンダルフの目の前に並ばされて説教された二人は、未だかつて見たことの無い自由気侭な式だった。
 これほど生み出した者の命令を無視する式なんて、有りえない。
「・・・・ガンダルフ」
 フロドとサムと同じほどの、しかも全く命令無視の、式二人の様子に不安を隠せずアラゴルンが声を掛ける。
「まさか・・・この二人に?」
「適任じゃ」
 『どこが?』――― それはきっとガンダルフと式以外の皆の胸中に浮んだ言葉に違いない。
 ファラミアなど不安を通りこして恐怖すら感じている。
 こんな奔放な式に兄を預けられたら生きてるものも殺されそうだと思ったのかもしれない。
「なになに?」
「どうしたの?」
 よくわかっていない式二人が、ガンダルフを見上げる。
「ごほん、メリーにピピン。お前たちにはこの・・・ボロミアの面倒を看ることを命じる」


「「えーーーーっ!!!」」


 式二人は、あからさまに嫌がった。

「嫌だ!僕はフロドと一緒がいい!」
「僕もだ。せっかく久しぶりなのに、フロドと離れるなんてご免だな」
 離されてはならじっと、二人はフロドの腕にしがみつく。
 フロドは困惑して傍らのアラゴルンを見上げた。
 アラゴルンは肩をすくめる。自分にはどうしようも無い。
 助けは反対側からやってきた。

「はいはい、フロドから離れてね。のだから」

 どさくさ紛れに聞き捨てならないセリフを吐いたレゴラスは、しっかり巻きついていたはずのメリーとピピンの
 腕をフロドからするりと外し、ひょいっとフロドを抱き上げた。

「れ、レゴラスっ!?」
 一難去ってまた一難。いきなり高くなった視界にフロドは慌てて、レゴラスにしがみついた。
「ここなら大丈夫だよ〜」
「いや、そこが一番危険だろうが」
「うるさいよ、アラゴルン」
「事実を言っただけだ」
「「・・・・・・・・」」
 二人の間に険悪な空気がたちこめる。
 間に挟まれたフロドはいい迷惑だ。
「相変わらず、フロドったらモテモテ〜」
「フロド、ますます可愛くなったもんな」
 メリーとピピンの言葉に、フロドはぽっと頬を染めてわたわたと暴れ出す。
「レゴラス!下ろして下さい!」
「却下」
「きゃ・・!?」
 却下て何だ、却下て・・・絶句した。






―――― さて、ボロミアの世話じゃが」
「・・・ガンダルフ。あの式たちはどうするんです?」
 ガンダルフは窓から遠く空を見、アラゴルンはフロドを抱えたレゴラスの足元にじゃれつく式二人に
 ちらりと視線を走らせる。
 誰が考えてもあの二人に何かを頼もうと言うのは無謀だとしか思えない。
「・・・人選ミスじゃの」
「あんたが言うな」
 ぼそりと呟いたガンダルフに、ついつい突っ込んでアラゴルンである。
「・・・・私が。兄上のことですから」
「いや、ファラミアに抜けられるのは、些か痛い。ふむ・・・困ったの」
「しかし、他にどうしようも無いのでは。ここで足を止めるわけにはいかないでしょう」

「いい方法があるよ」
 ぐったりしたフロドを抱えたレゴラスが口を出す。
「いい加減、フロドを下ろしてやらぬか」
 サムが半泣きで「フロド様がっフロド様がぁっ」とすがりついている。騒がしいことこの上ない。
「残念。これからなのに」
 『何が』――― 聞いたら恐ろしい返事がかえってきそうで、口に出来ない一同。
 漸く解放されたフロドはよろよろとした足取りで、ぽふっとソファに倒れた。
 サムが慌てて駆け寄り、メリーやピピンも圧し掛かる。・・・・フロドは不幸かもしれない。
「・・・で、レゴラス。どういうことじゃ?」
「ああ。だって必要ないでしょ」
「レゴラスっ・・・」
 いくらエルフとは言えど、非人情的過ぎる発言にアラゴルンが眉をしかめる。
 だが、レゴラスはそんなアラゴルンを気にすることなく続ける。

「起きてるんだから」

「「「「・・・・・は?」」」」

 ぽかんと口を開けた一同に、レゴラスは『これだから・・』と頭を振り、ボロミアの寝ているベッドを指差す。

「さっきから起きてるみたいだけど」
「「「・・・・・・・・」」」
「・・・っ兄上!」
 ファラミアが慌てて駆け寄った。
「大丈夫ですか、兄上!?」







 何と、ボロミア。目覚めてファラミアに一言。








「ああ、よく寝たことだ。今何時だ?」
















 ―――― 旅の仲間。一人と二匹追加。








卍4   卍6