・・・ Bad Contract ・・・
禍痕 2
「むかーし、むかし。その昔。一人の悪い魔法使いが居ました」 「わるいまほうつかいー?」 「そう。こーんな顔した怖い魔法使いだよ」 ハリーに昔話を聞かせながら、ジェームズは目を吊り上げてみせる。 ハリーは怖がるどころか、きゃらきゃらと可愛らしい笑い声をたてた。 「悪い魔法使いは、とても強い力を持っていました。その力で弱いひとたちをいじめていたのです」 「いじわるダメーっ!」 「うん、うん。ハリーはいい子だねーv」 頬をすりつけられたハリーは、髭がくすぐったいのかこれまた笑い声をたてる。 ・・・・・たぶん、心温まる親子の触れ合いなのだろう。 「しかし、この世にはちゃんと良い魔法使いが居ました。良い魔法使いは悪い魔法使いの悪戯をこらしめる ために仲間を集めることにしました」 ハリーも物語に入りこんできたのか、ジェームズの膝の腕に抱かれて広げられた絵本に真剣な眼差しを注いでいる。 「四人の仲間が集まりました。強い絆で結ばれた仲間たちは、良い魔法使いと力をあわせて、悪い魔法使い 退治に乗り出しました。悪い魔法使いも仲間を集めて抵抗しましたが、良い魔法使いと仲間たちの力についにその力を奪われ、消えてしまいました。そして世界は平和になりました。めでたしめでたし」 「めっ、したのーっ!めっ!」 ハリーが可愛らしい手で絵本を叩く。 怖がるどころか、負けん気の強いハリーは自分も仲間になったつもりで悪い魔法使いをやっつけたらしい。 きっと将来は勇敢で強い男の子に成長するぞ〜とジェームズは今から楽しみである。 親ばかは相変わらず炸裂している。 実際のところ、今の話はほとんどが実話なのだ。 四人の仲間とはジェームズたちのことであり、良い魔法使いはダンブルドアという今はホグワーツという 魔法学校で校長をしている人物である。そして、悪い魔法使いというのが・・・・かつて魔法世界を恐怖に 陥れた悪名轟くヴォルデモートである。 ハリーに聞かせた話の何が、嘘かと言えば。 最後の魔法使いを倒したという下りである。 ジェームズたちはぎりぎりまでヴォルデモートを追い詰めたものの、倒すまでにはいかなかった。 ある限りの力を奪いとったもののこちらも限界で、ダンブルドアと協力して封印することしか出来なかった。 その封印は誰にも解かれることが無いように、極秘とされた。 だが、ヴォルデモートの仲間たちは今でもひそかにその封印された場所を捜している。 ジェームズが表に出ることを避けるようになった理由がここに在る。 仲間たちの中で唯一妻を持ち、ハリーという子供の居るジェームズは狙うのに絶好の標的となる。 自分にかかってくる火の粉ならば、どんなものだろうと打ち払ってやる。 だが、リリーとハリーにまで飛び火したならば・・・両方を守りながら彼等に対抗できるかといえば難しい。 出来ないとは思わないが、過信は災難を招く。 ( そう決意したジェームズだったが。 「パパ、パパ。パパはクチッチのせんしゅなのー?」 クディッチ、とちゃんと発音できないハリーだったが、そのキラキラした目でジェームズを見上げてきた。 ああ、何て可愛いんだ・・・っ!! 「そ、そうだなー・・・」 「しゅごいねーっ!」 「う・・・・だ、誰から聞いたんだい?」 滅多に向けられないハリーからの尊敬の眼差しに気圧されながらジェームズは尋ねた。 「ママっ!」 「リリー・・・・・」 さすが、妻。ジェームズの弱点はきっちりと把握している。 ここで、ジェームズがそうで無いと言ったが最後、ハリーは「うそつきーっ」と叫んで口を聞いてくれなくなる ことは請け合いである。 「・・・・ハリーはパパの試合の応援にきてくれるかな?」 「いくーっ!パパの応援しゅるねーっ!!!」 「ああ、ハリー!ハリーが応援してくれるならパパは無敵だぞっ!!!」 「パパむてきーっ!」 こうしてジェームズの決意は一瞬のうちに砕け散ったのだった。 |