・・・ Rebellious age ・・・
反抗期
「シリューなんかきりゃーっ!あっちゃけっ!(訳:シリウスなんか嫌い!あっち行け!)」 ・・・と叫ばれた当の本人シリウス・ブラック氏はあまりの衝撃に儚くなりかけていた。 さて、いつものことながら、舞台はポッター家から。 皆に目に入れても痛くないぜ!と実演までしてみせるほど可愛がられているハリー・ポッターは 先日、めでたく2歳の誕生日をむかえ、相変わらずすくすくと元気よく育っていた。 言葉もだいぶ覚えてきたようで、父親や母親、ほとんど家にいりびたっているシリウスの口真似を しては、あわや大惨事という危機一髪的な出来事を引き起こすのも、もはや日常茶飯事。 「誰が一番怖い?」 これまた常連のルーピンに、いつだったかそう尋ねられたハリーは、即答した。 「ママ」 「そ・・・そうかい」 「でも、ぼくいったってーひみちゅー!ルー!」 「ああ、わかってるよ。(・・・そんなこと言ったら命が無いものね)」 ルーピンはよしよしと必死なハリーの頭を撫でてやると、ハリーも嬉しそうに目を細める。 構ってもらうのが大好きなハリーは、スキンシップも大好きなのだ。 「じゃ、誰が一番好き?」 この問いには、ハリーはちょっと考えて。 「んっと・・・しりゅーっ!」 「シリウスか・・・・・・本人聞いたら泣いて喜ぶな」 ルーピンは、今のハリーの答えは自分ひとりの胸のうちにしまっておくことにした。 自分に他人を喜ばせてやる筋合いは無い。あの男ならばなおさらのこと。 「でも、ママもパパもルーもしゅき!」 「僕もハリーが大好きだよv」 邪魔者が多くて滅多にハリーを独り占めにできないルーピンは、これ幸いとハリーを抱きしめた。 さて、そんな素直で愛らしい子供のハリーだったが、年齢は2歳。 そろそろアレ、がやってくる頃だった。 「ハリーっ!」 マイ・スウィート!・・・と続きそうに甘い声で本日も朝からポッター家に押しかけたシリウスは、 朝食を終えてリビングで一家団欒している中に、愛しいハリーの姿を発見し、駆け寄った。 彼の目には、もうハリーしか見えておらず、ひきつった顔の親友など欠片も視界に入れていない。 「ハリー、おはよう!」 駆け寄って抱きしめて頬にキス、というのが一日の『いつもの』はじまりの挨拶である。 シリウスはいつものように、ハリーを抱き上げキスしようとして・・・・固まった。 いつもなら笑顔でシリウスを迎え入れてくれるハリーの顔が、ふくれている。 眉ねを寄せて、何やらご機嫌斜めであるらしい。 「ハ・・・ハリー?」 シリウスと目線も合わせず、ぷいっと横を向いてしまった。 「っ!?」 何か怒らせるようなことをしただろうか、自分は・・・・シリウスは自分の行動をもの凄い早さで 逆戻しし、スロー再生して検証する。 ・・・・が、何も心当たりは浮ばない。 「・・・・ハリー」 大の男がそんな情けない声を出すな!と叫びそうなほど弱弱しい声でハリーの名前を呼んだシリウスは 恋人に捨てられる寸前の駄目男そのもの。 観衆と課しているジェームズは、微笑ましく見守っていた。 「ハリー・・・私が、どうかした・・・かい?」 「シリューなんかきりゃーっ!あっちゃけっ!」 冒頭のハリーのセリフとなったわけである。 さて、そんな衝撃的な発言を受けたシリウスは、ハリーを抱き上げたまま石になっていた。 叩けばきっとこつこつと音がするに違いない。 そんな人生最大の一撃をシリウスに食らわせたハリーは、もぞもぞと動いてえいっとシリウスの 腕から抜け出した。 石化したシリウスの脳裏には、「きりゃーきりゃーきりゃー」といつまでも、ハリーの一言がリピート されている。いつ復活するか皆と賭けてみるのもいいかもしれない、とジェームスは思った。 「ハリー。どうしたんだい?」 いつもなら、シリウスとのあまりにらぶらぶっぷりな挨拶を見せ付けられて青筋を浮かべている ジェームスは、ざまぁみろと心の中でシリウスを笑いながらも、いつもと違うハリーを呼び寄せた。 「・・・・パパ」 ちょっとすねた顔で、唇をつんと尖らせて腕の中におさまるハリーはとても可愛い。 コレは絶対に親の欲目では無いはず。 「ん?」 「・・・だって・・・・・・おしょかったんだもん・・・」 「・・・遅かった?」 何が?と首を傾げたジェームスは、ぴんっときた。 「なるほどな・・・・・・」 本日シリウスは、朝食の後にやって来た。 いつもならば、朝食の前には来ているのに。 どうやらそれがハリーには気に入らなかったらしい。 「だけど、ハリー。ほんの少し遅れただけで・・・」 「だーめなの!おしょいの、めっ!」 どうしたものだろう・・・・とジェームスが妻であるリリーのほうを向くと、まるで『何の問題もない』とばかりに 優雅にティーカップを傾けている。 そして、ジェームスの目があうと、にこりと笑った。 「心配いらないわ。ただの反抗期よ」 「・・・・ああ、なるほど」 反抗期。 ちょっとしたことでも「嫌」という対象になる、あの反抗期。 「そうか・・・ハリーも反抗期がきたのか・・・」 しっかり成長しているのだと思うと、父親として嬉しい。 しかも反抗の対象が親ではなく、シリウスに逸らされているのでハリーに『嫌い』と言われる衝撃を 味わうことも無い。 そう考えると、『シリウスさまさま』。ありがたみもでてくるというもの。 「よーし、ハリー!今日は(邪魔者も居ないことだし)箒でひとっ飛びしてくるか?」 「いきゅーっvv」 空を飛ぶのが大好きなハリーはジェームスの言葉に一も二もなく頷いて、抱きついた。 「あらあら、気をつけて行ってらっしゃいね」 「ママ〜、いってきましゅー!」 にこやかに見送られてハリーとジェームスは空の人となった。 さて、シリウスはというと。 掃除をするリリーに『邪魔だわ』と言われて、中庭へ投げ捨てられ・・・・その後どうなったかは 不明である。 |